未来に続くエピローグI「未来」
一つの出来事が終わりを告げた。
マオやクルツ達が残務処理に追われている間、宗介とかなめは少し離れた丘に座り、心地良い風に吹かれていた。
ASの稼動音などで騒がしいが、ここには誰もいない。二人だけの世界が出来ていた。
しばらくして、かなめが口を開く。
「ねえ、ソースケ…」
「何だ?」
昨日の事、今日の事…本当はいろいろ言いたいことがあるのに、全部言葉にならない気がした。
かなめは首を軽く振って、微笑みながら答えた。
「ううん、なんでもない」
「そうか」
しばらく沈黙の時が流れる。ややあって、またかなめが口を開いた。
「ねえ、ソースケ…」
「何だ?」
かなめは丘から見える綺麗な景色を見詰めながら、呟くように言った。
「これからもあたしを守るって言ってよ…」
「む?ああ、もちろんだ。君を守るのが俺の―――」
「おっと、ダメよ!」
「何?」
かなめは宗介の言葉を遮り、彼の唇に人差し指を当てる。
「任務はナシよ。ソースケの言葉で聞かせてよ」
「りょ、了解した…。君を守るのが俺の、俺の……」
「俺の、何?」
かなめは宗介の顔を覗きこんで、次の言葉を促す。
宗介は苦しそうに脂汗を流しながら考え込んでいたが、やがて何か思い当たったのか、口を開く。
「…趣味だ」
「……趣味って、あんた……」
目が完全に点になったかなめは、深いため息と共に言う。
「もう少しまともなこと言えないのかしらね、あんたは」
「いや、その、趣味ではなく…すまない、言葉が見付からない」
本気で困っている宗介を見て、かなめは微笑む。
「まあ、気の利いた台詞言うソースケも変だし、いいわよ」
そう言って、立ちあがろうとする彼女の手を宗介は無言で掴み、自分に引き寄せ、力強く抱きしめる。
「ちょ、ちょっとソースケ!?」
顔を真っ赤にしながら慌てるかなめに、宗介は静かに言った。
「何だ?」
「何だって…誰かに見られちゃうよ!」
「かまわない…」
「かまわないって……で、でもテッサに報告されちゃうかも…?」
「それも、かまわない」
宗介はかなめを抱きしめる手に力を込めて、優しげな声で囁いた。
「これだけ密着していれば『溝』は出来ないな。『ゼロの距離』だ」
かなめは意味がわからずポカンとしたが、やがて気付く。
自分が一番欲しかったもの。それは言葉ではなく、この『ゼロの距離』だったのだ。
きっと、ずっとわかってなかった。これが心がつながっているという感覚なんだ…そう思った。
それを感じた時、かなめの口から今まで言えなかった一言が、いとも簡単に滑り出した。
「ふふっ…ソースケ。…好き…だよ」
「ああ…俺もだ、千鳥。ずっと、前から…」
「あたしも。ずっと前から…ううん、きっと……」
かなめは一旦言葉を切り、そして続ける。宗介も彼女の唇の動きに合わせるように、同じ言葉を重ねた。
『出会った、あの日から』
一つの出来事は終わりを告げた。
様々な出来事は終わり、そしてまた始まる。始まっては終わり、終わっては始まる。
その繰り返しの中で、確かめ合った想いを胸に、ささやかでも幸せな未来を紡いで行くことだろう。
きっと、こんな二人なら……。
そして―――またいつもの朝が始まる。
「おはよ、キョーコ!」
「あっ、おはよーっ!カナちゃん」
恭子はかなめの顔を楽しそうに覗き込み、明るい声で言った。
「あれ〜!?カナちゃん、うれしそーだね!相良くんと仲直りしたの?」
「え…ま、まあね。う、うはははははは」
かなめは何故か照れくさそうに笑い、恭子の視線を避けるように顔をそむける。
「ふ〜ん」
恭子もそれ以上は何も言わず、その後はたわいのない話をしながら学校へと向かった。
学校に着き、校門を通った辺りで、恭子は異変に気付いた。
「あれ?なんか昇降口に人がいっぱいいるね、何でだろう?……って前にもあったね、このパターン」
「ったく!また、あいつね!ホントにもう…」
かなめはうつむいて顔を赤く染め、ボソッと呟いた。
「バカなんだから…」
「カナちゃん?」
いつもと違う、今まで見たこともない表情を見せるかなめに、恭子が戸惑いの声をかけた瞬間、彼女はどこからともなくハリセンを取り出し猛ダッシュで昇降口へと向かって行った。
あきらかに何かが変わったはずなのに、何も変わらない二人の日常。
恭子はポカンとした表情でかなめの後ろ姿を見送っていたが、思わずクスクスと笑ってしまう。
やがて―――今日も元気に陣代高校の校内に、かなめの怒鳴り声が響き渡るのだった。
「こらあ、ソースケっ!何やってんのよ、あんたはっ!!」
<完>