未来に続くエピローグA「洗脳」
「ここ…は…?」
かなめが次に気が付いた時、彼女は頭に妙な機械をつけられベッドに寝かされていた。
「気が付いたか…お嬢さん?」
声と共に様々な機器の影から、一人の男が姿を現わす。
「あ…あんた、修学旅行の時にいた…」
「お〜、覚えてくれてた?光栄だねえ〜、くくくっ」
忘れられるわけがない。この男のせいでかなめは死にそうな目にあったのだ。
「あ、あたしからまた『知識』を引き出す気なの…?」
内心の恐怖を押し殺し、かなめは男―――ガウルンに問いかける。
「いやいや、そんな事は後回しにするよ。もっとおもしろい事を思いついたからさ」
「おもしろい事…?」
ガウルンは低く笑うと、一枚の写真を取り出した。そこには見たこともないタイプの黒いASが写っていた。
「お嬢さんにこれに乗ってもらって、<ミスリル>を潰そうと思ってねえ、おもしろいだろ?くくくっ」
「ば、あたしがそんなものに乗るとでも思ってるのっ!?」
かなめの言葉に、ガウルンはおおげさに両手を広げおどけた仕草を見せて、言う。
「おお〜、それは残念。でもなあ〜、手はあるんだよ」
「な、何をする気なの…」
おびえるかなめに、ガウルンは近寄って彼女の頭部に付いている機械のスイッチを入れる。
ピピッという電子音と共に、かなめは脳に軽い衝撃を受ける。
「く…何よ、これ!やめてよっ!」
「まあ、そう言うなよ」
暴れるかなめをなだめるようにガウルンは言い、さらに言葉を続ける。
「そういや、カシム…今は宗介とか言ったか?やつは可愛い艦長と仲がいいらしいねえ〜、うらやましいぜ。お嬢さんはそう思わないかい?」
「はあ!?あんた、何を言って…」
「おっと、気にさわったかい?妙な噂を聞いたから、言ってみただけなんだけどよ。何でもその艦長とできてるらしいってよ!」
「………」
宗介とテッサが…いや、そんな馬鹿な、そんなはずがない。かなめの頭が反論する。でも…可能性はある、そうとも告げている。
「残念だったなあ〜、お嬢さんはフラれたらしいよ〜、くははははっ!」
「な、何を言ってるの!?あたしは別に……あああっ!」
突如、かなめの頭の衝撃が強くなり、かなめはおもわず悲鳴を上げる。
「そうかい?あんたの口は否定してるけど、中身は認めてるみたいだぜ!今、衝撃が強くなったろ?それが証拠だ」
「ううう…」
ガウルンは苦しむかなめの耳元で、さらに言葉を続ける。
「いいか、お嬢さん?苦しまない方法を教えてやるよ。…壊すんだ、全部。全てが無くなれば、苦しむ必要はなくなるだろ?」
「こ…わす?」
かなめはつぶやくように弱々しく聞き返す。
「そうだ!壊すんだよっ!カシムも!その艦長も!手に入らないなら全部壊しちまえ!そうすれば悩む必要なんてどこにもなくなる…そうだろ?」
「こわす…壊す…ソースケを…テッサを…」
少しづつ自分の意識とは違う『もの』が、かなめの中に侵入してくる。
「そうだ…その通りだ。…お嬢さん、やつは君に何をしてくれたんだ?」
「ソースケは…何もして…くれ…ない。あたしを苦しめるだけ…」
囁くようなガウルンの問いかけに、かなめがうわ言のように答えた時、恭子が言ってくれた言葉が頭に浮んできた。
「相良くんといる時のカナちゃんってすごく生き生きとしてて、輝いて見えるんだよ」
(そう…あたしは…ソースケといると…楽しい…)
かなめは首を大きく振って、何か押し寄せてくるものに必死に耐える。彼女の変化に、ガウルンは舌打ちをした。
「ちっ!そう簡単にゃあいかねえか。しょうがねえな」
ガウルンは再び、かなめの頭部に付けられている機器に手を伸ばし調整つまみをひねり、出力を上げた。
「あああああっ!!!」
静かな部屋にかなめの絶叫が響き渡る。ガウルンは不敵に笑い、またかなめの耳元で囁く。
「どうだい、お嬢さん。ASに乗る気になったかな?くくくっ」
かなめは答える。もはや迷いも、ためらいもなくはっきりと。
「乗るわ。そして、ソースケを壊す!テッサを、全てを壊す!!」
「それでいい…」
言ってまた、ガウルンは笑う。
恭子が言ってくれた優しい言葉は、小さな気泡となり、やがてかなめの中から消え去った……。
<続く>