未来に続くエピローグD「階級」
格納庫を目指し、宗介は走る。
あと一歩というところで二人の人物と遭遇した。よりにもよって…テッサとカリーニンだった。
カリーニンは厳しい口調で、宗介に問いかける。
「サガラ軍曹、どこに行くつもりだ?軍曹には出撃命令をだしていないはずだ」
宗介は一瞬怯んだが、臆せず言った。
「少佐殿!俺はやはり行かねばなりません。自惚れかもしれませんが、千鳥を救えるのは自分だけだと思っています!」
言い残し、再び走り出そうとする宗介。しかし―――
チュイン!
という音と共に動きが止まる。振り返るとカリーニンが拳銃を宗介に向け、真剣なまなざしで見詰めていた。
「軍曹、命令違反だ。覚悟はできているのだろうな?」
「少佐殿…作戦が終わればいかなる処罰でも受けます。例え…死刑であっても」
宗介もまっすぐ見詰める。拳銃など眼中にない、そんな感じだ。
「行ってください、サガラさん」
それまで黙っていたテッサが、はじめて口を挟んだ。
「大佐殿?」
「いいのです、カリーニンさん。行ってください、サガラさん。彼女は…カナメさんは洗脳されていると思われます。彼女を救えるのはあなただけです、助けてあげてください」
「肯定です、大佐殿!では、出撃します!」
言って宗介は駆け出す。遠ざかる彼の背中を見詰めていたテッサは無意識のうちに叫んでいた。
「サガラさん!い…行か…」
「は?何ですか、大佐殿?」
「な…何でもないです。ごめんなさい」
「?…では、行ってきます」
宗介はもう振り返らなかった。
彼が見えなくなってからテッサは軽く首を振り、隣にいるカリーニンに話しかけた。
「カリーニンさん…」
「はっ!」
「わたしね、本当は彼に『行かないで』って言いたかったんです。おかしいでしょう、仮にも一軍を率いる『大佐』で、『艦長』であるわたしが…そんな事を言いたかったんです……ううっ」
不意に込み上げてくるものに耐えるようにテッサが言葉を詰まらせる。
カリーニンは彼女の肩にそっと手を置き、まるで愛娘を諭すように優しい声で言った。
「階級が『大佐』であろうとなんだろうと、人間ですよ…大佐殿」
「カリーニンさん…ううっ、うっ、うっ」
テッサはカリーニンの胸の中で泣きじゃくった。年相応の顔で泣くその姿は、恥も外聞も威厳も全くなかったが、カリーニンは何も言わなかった。
むしろこの年齢でこれほど強い感情を抑えて生活しなければならない彼女に深く同情し、そして誇りにさえ思った。
<続く>