未来に続くエピローグF「否定」

宗介の心の整理がつかないまま、戦闘は始まった。
かなめが乗る黒いASは、<アーバレスト>やM9と似たフォルムを持っていて、動きもすばやい。
ASの操縦経験などないはずなのに、彼女はASを完全に乗りこなしていた。
かなめは武器を一切使わずに、素手による攻撃をしてくる。もちろんただの攻撃ではなく、『ラムダ・ドライバ』がこもっているため、並のASは当たっただけで半壊状態になってしまうだろう。
「あはははっ、ソースケっ!あんたを『壊す』わ!あんたを壊して、そして全てを壊すの!そうすればあたしは苦しまなくてすむの。あたしを、あたしを苦しめるものはなくなるの!この黒いAS<ジェイ>が教えてくれた!素敵でしょ、ソースケ!」
「くっ…」
ガウルンによって洗脳されたかなめの思考の暴走は、もはや歯止めの利かない状態に陥っていた。
誰の声も聞こえず、『破壊』だけを望む。それが全てになっていた。
「壊す!壊す!壊す!壊す!全てを壊す!その手始めにあんたを壊してやるの、ソースケぇぇっ!!」
「よせ!やめろ、千鳥っ!!」
宗介の叫びに黒いAS<ジェイ>は動きを一瞬止める。しかし、すぐにまたかなめは素手の連撃を繰り出しつつ叫ぶ。
「何よ、あたしに命令するっての!?あんたはあたしに命令できるほど偉いの?あんたはあたしに何をしてくれたの?あたしが苦しんでいる時、そばにいてくれた?あたしが泣いている時、慰めてくれた?あたしがいじめられてた時、かばってくれた?お母さんが死んであたしが悲しんでいた時、あんたは…あんたは何もしてくれなかったじゃないっ!!!」
かなめの思考はもはや怒りと憎しみに完全に飲み込まれ、苦しみや悲しみと言った出来事が、全て宗介のせいになっていた。宗介と出会う以前の事でさえも。
<ジェイ>が咆える。怒りの『ラムダ・ドライバ』がソースケの<アーバレスト>を吹き飛ばす。
「ぐっ…!」
吹き飛んだ衝撃で宗介は苦痛の呻き声を漏らす。そして、<ジェイ>は悠然と<アーバレスト>の前に立ちはだかる。
「立ちなさい、ソースケ!壊されたくなければ、あたしを倒してみなさいよっ!!」
「千鳥…」
ガシィ!
<ジェイ>が無理やり<アーバレスト>の腕を掴み、立ちあがらせる。そしてまた、攻撃を浴びせる。
<アーバレスト>は防戦一方で、ガードはしているがダメージもかなりのものになっていた。
「どうしたの、ソースケ!?そんなのであたしを守れるとでも思っていたの?もうそろそろ消えてもらいましょうか!」
<ジェイ>が腕を振り下ろす!しかし、その時かなめの頭に誰かの声が直接響いてきた。
(…本当に?)
「な、何よ!?」
(本当に…ソースケを…壊したいの?)
「あんた、誰よっ!誰なのよっ!?…テッサね?また、あたしの邪魔をしにきたの!?」
声は静かに続ける。
(違う…あたしは…あなた…)
「はぁ!?あたしのわけないでしょ!まあ、いいわ。なんでもいいけど、あたしの邪魔はしないでよっ!あたしは、ソースケを壊すんだから!」
(本当に…壊したいのね…じゃあ…)
声はなおも続ける。
(あなたはどうして…泣いているの?)
問われて、かなめははじめて気が付いた。
そう、宗介との戦闘が始まってからかなめはずっと涙を流し続けていたのだ。自分でも気が付かないうちに…。
「あたしは泣いてなんか……あああああっ!!」
かなめの精神に変化が起きる。何かが彼女の脳に直接侵入してくるような感じを受ける。
「あたしは…壊すっ!ソースケを!!」
(違う…)
「壊すのよっ!!」
(違う…違う!)
「コワ……ス…」
(違う!!)
「違うっ!!」
ついに何かがかなめに打ち勝つ。それは…彼女の『本当の心』。
動きが止まった<ジェイ>から、外部スピーカーを通して泣き声のように弱々しいかなめの声が聞こえてきた。
「ソース…ケェ…」
「千鳥!」
宗介は<アーバレスト>の腕で、<ジェイ>を抱きしめる。中にいるかなめをも優しく包むように…そして諭すように語りかける。
「千鳥…俺は、ここにいる…」
「…ソースケ…?」
「…例え離れていても、心はずっと君のそばにいる」
かなめはまるで迷子が帰るべき家を見つけた時の様に、安堵の表情を浮かべた。
そして小さく微笑み、そっと呟く。
「ソースケ…うん…」
『敵AS、活動停止』
AI<アル>が報告する。<ジェイ>は完全に活動を停止したのだ。かなめの憎しみが消え去ったのと共に…。
「ちいっ!ここまでか…お寒いねえ!」
それまで身をひそめ、高みの見物としゃれ込んでいたガウルンは、そう吐き捨て一気に<アーバレスト>との間合いを詰めて、単分子カッターを振り上げた。
「くははははっ!死ねいっ!!」
「くっ…!」
ガキイイィィン!
甲高い音と共に白い腕が切り落とされ、オイルを撒き散らせながら地面にめり込んだ。

<続く>

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