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リーファ・キーラン。そう名乗る女戦士がサウザドの重臣ローム伯爵を訪れたのは、王子の成人の日から十日程経ったある日のことだった。 「そうか。アルフレッドは逝ってしまったのか……」 アルフレッドの妹であるという彼女の報告を聞き、伯爵は溜息をつく。その様子は心底残念そうだ。 「確かに、アルフレッドという人間は、この地上から消えました。ですが、完全に死んでしまったわけではありません」 「それはどういうことかね?」 不思議そうな顔をする伯爵に、リーファは魔剣を、元は国王の聖剣だったというその剣を差し出す。 伯爵は訝しげにそれを受け取り、突如大声を上げた。 「アルフレッド!! こ、」これは一体!?」 兄が挨拶をしたのだろう。伯爵は驚きに体を震わせている。 「兄はその剣に取り込まれ、同化してしまったのです。理由はわかりませんが、おそらくその剣が壊れるまで、兄の意識は生き続けるでしょう。 「……なんと……」 さらりとリーファは続ける。 「剣を鞘から抜いてみて下さい」 言われたとおりにすると、相変わらずの真紅の刀身が現れた。慌てる伯爵に彼女は説明する。 「大丈夫、呪いは解けています。ですが、この剣は元々は魔剣だった物を、聖剣として加工した物だそうですね。その加工が呪いによって失われてしまった今、もはやその剣が聖剣に戻ることは ないでしょう」 「ああ、そういえば聞いたことがあるな。昔その剣は血塗れの英雄、英雄の血塗られた剣という意味らしいが、そう呼ばれる凶剣だったという噂を……。ただの嫌がらせの噂だと思っていたが、本当だったとは」 伯爵の話では、王家に剣が渡った時には既に、聖剣として扱われていたらしい。だが魔剣に戻ってしまった今、これを王に返還するわけにもいかない。もう加工は受け付けないだろう。呪いは解けたとはいえ、この紅く濡れたような刃は、どうにも凶々しすぎる。さて、どうしたものだろうか。 彼が対処に頭を悩ませていると、女戦士(リーファ)がこう切り出した。 「伯爵殿。出来ればその剣、私に譲ってもらえないだろうか。兄は私のために散った。兄の意識が宿っているなら、私は共にありたい。共に闘い、この剣に命を預けたいのだ。頼む、このとおりだ!」 今までにない強い口調で、彼女は熱心に頼んでくる。伯爵は考え込んだ。魔剣に戻ったとはいえ国王の剣だ。本来ならそう簡単に譲れる訳がないのだが、何せ彼女はアルフレッドの妹である。彼の運命の発端を左右した者として、伯爵にも多少の罪悪感があった。元々、戦士として彼を気に入っていたのだ。 アルフレッドの声は今は聞こえないが、妹に使われることを彼も望んでいるのかもしれない。 伯爵は、結論を出した。 「わかった。国王には、剣は呪いが解けた際崩壊し、失われたと伝えておこう。アルフレッドに対する褒美の代わりだ、持って行くがよい。ただし、一千人の血を啜った剣だ―――この剣の背負った業は、重いぞ」 リーファは力強く頷き、剣を受け取ると一礼した。 彼女は元々そのつもりだった。自分が使うことで、兄の背負った業を共に負い、負担を軽くしてやりたかったのである。 ことが終わり、部屋を出ようと背を向けたリーファを伯爵が再び呼びとめた。 「そういえば。その剣の銘はどうするつもりだね?力ある魔剣だ、銘がいるだろう。それとも以前と同じ銘で呼ぶかね?」 彼女は振り向き、目を伏せる。 「英雄の血塗られた剣……か? それは兄者にそぐわないな。むしろ血に濡れた英雄の剣という方が当てはまりそうだ。ならば銘は、<血塗れの英雄>ではなく、<血濡れの英雄>だな」 言い残し、今度こそ彼女は扉の向こうへと消える。 残された伯爵は、昔の詩に、同じ名の英雄譚があったことを思い出す。 <血濡れの英雄>とは、確か。
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