EXPLORES(4) 雨宮 実久

 次の階層は前の階層よりはやはり狭いようだった。いくつかの罠をくぐり抜けると、先が階段などに続いていそうな通路に出た。が、その通路の上に妙な物が転がっている。興味をもったのだろう。好奇心旺盛なミヤがそれを見に飛んで行った。

「ありゃりゃ〜? ブーツだよこれ♪ ごっついブーツ♪」

「ブーツ? ごついの?」

 確認すると、元気な肯定の返事が返ってきた。警戒しながら近づくと、確かにブーツが片方だけ落ちている。そうしてさらによく見ると、そのブーツの周りの地面が、少し色が変わっているように見えた。

 瞬間、アルノーの中で何かが閃く。

「さては! ミヤ、それに触んじゃないわよ。きっとあのオヤジの罠よ、これ。……甘く見るのも程々にして欲しいわね。誰がこんなのに引っ掛かるってのよ」

 言いながら、ブーツから目を離さないようにして、アルノーはそれを避けるように一歩踏み出す。

 ガシャン!

 踏み出した右足に痛みが走った。思わず飛びのこうとしたがしっかり固定されていて動かない。見ると、踏んだ敷石がへこみ、その周りから生えた牙のような突起に喰いつかれている。ブーツを突き破り、足にまでそれは食い込んでいた。

「やばっ!」

 酷く嫌な予感がして、アルノーは咄嗟に鉤縄に手を伸ばす。

 が、遅かった。

 音を立て、アルノーが立っていた辺りの床が落下する!

「しまっ……!!」

 アルノーは床に捕まりはしたものの、鉤縄を使う余裕はなかった。足に喰いついたまま、一緒に落ちようとする落とし穴の蓋は、石造りなだけあってひどく重い。ついに、彼女は堪え切れずに落ちる。

 そして盛大な水音が響いた。

 アルノーが言った通り、これはダートが仕掛けた罠だった。ダートは二人への嫌がらせ為、わざと違う場所にブーツを置いておき、注意をそちらに向けさせたのだ。これは、アルノーが素人ではないことを考慮に上での、計算された仕掛け方である。

「みきゃきゃきゃ〜、アルノーだいじょぶ〜?」

「あたたた……冷たいしもう。なんなのよ全く」

 そこは丁度、井戸の底のような感じだった。しゃがんだ状態で肩下くらいまで水が来ている。と、上の方でガシャンという音がした。見上げると、鉄格子のようなものが入り口を塞いだところだった。同時にゴボゴボという音も聞こえてくる。

「あー、水出てきたよ〜」

 ミヤに言われるまでもなく、音を立てて水が入って来る。

 まずいことになった。水攻めの罠だが、足が挟まれていては浮くことすらできない。

「ミヤ、上飛んでって解除装置探して。出来るんなら止めて」

「おっけおっけ♪」

 相棒はすぐに飛んで行った。小さいミヤならあの鉄格子も抜けられるだろう。解除装置がミヤに操作できる類の物であることを祈りつつ、アルノーは別のことを試みる。

 つるはしで、食い付いている突起を怖そうとし始めたのだ。

 解除できなかった場合、何としてもこれを外さなければ待っているのは死である。外せたとしても助かるかどうかという以前の問題なのだ。そんな訳で、ドンドン増えて行く水(しかもなんだか汚い)と戦いながら、彼女が数回つるはしを打ち降ろした時、それは響いた。

「あったよ〜」

 能天気な救いの声と、同時に作動音が。一瞬、解除装置と間違えてほかの罠を作動させたのでは、というような嫌な想像が頭を掠めたが、さすがにそれはなかったらしい。水がぴたりと止まり、他の口が開きそこへ流れ出ていく。同時に、音を立てて鉄格子が開くと、アルノーが挟まれて乗っていた床が、ゆっくりと押し上げられていった。そして、通路に戻ると突起が外れた。

 痛みに顔をしかめながら、アルノーはブーツを脱ぎ、傷を確かめる。大したことはなかったが、皮が剥けて血が滲んでいた。

「……もっと靴厚いのにしとくんだった」

 ぼやきながら、濡れてしまったハンカチで傷口を縛る。

「アルノー、むこーに階段あったよ」

 先の方まで見に行っていたのか、飛んできたミヤが言った。

「やっぱり。あーミヤ、さっきはありがとね」

「えっへん! ミヤのおかげだよ。感謝するよーに」

 ひっくり返りそうなほどふんぞり返っている。まあいつものことだ。それにしても許せないのはあの男である。早く追いついて、仕返しスペシャルコースでもお見舞してやらなければ気が済まない。そんなことを考えながら、アルノーは靴を履き直すとミヤの指すほうへ急いだ。

 通路の先に、確かに階段はあった。が、他にも部屋の入り口が一つと、隠し扉の崩れたようなもの(崩れた所から美しい装飾品が見えている)が見つかった。

「この隠し扉は絶対罠よね。こんな所に宝物庫だなんて」

 そう呟きながら、もう一つの部屋を覗く。どうやら、奥が通路につながっているようだ。アルノーは考えこんだ。奥にも興味はあるが、今は一刻も早く先へ進まなければならない。が、何だかここに階段があるというのもあからさまな気がする。迷いながら、アルノーはもう一度部屋の方を覗いてみた。と……

「なんかここ、さっきのおもしろかったのに似てるね〜♪」

 ミヤがそんなことを言い出す。瞬間、アルノーの心は決まった。ミヤの小さな腕をひっつかみ、問答無用で歩きだす。

 ―――無論、階段の方へと…。

□もういちど聞かせて! ☆もう、眠いや…。 △もっと聞かせて!!