Go it!

 あの頃はまだバスケをするのが楽しくて楽しくて、ただそれだけの為に学校へ通っていたようなものだ。
 ただでさえハードな練習の上に、自主的に居残り練習をしてまでボールを追い掛けていた。
それだけ夢中だった。
 ずっとずっとボールを追い掛けていられると思っていたあの頃……。

 今となっては懐かしい思い出だ。

 今でもTVなどでNBAの中継を見ると身体が熱くなる。
今にもコートに飛び出さんと身体が疼いた。
身体に染み込んだ習慣は、ちょっとやそっとでは消えやしない。
 手に馴染むバスケットボールの感触は、今でも忘れない。
それだけこの身体にはバスケが染み込んでいた。
 小学生時代のミニバスケに始まり、中学・高校の6年間はバスケ三昧の日々で埋め尽くされていた。

大切な大切な思い出───

 もしあのままボールを追い掛けていられたのなら───
頭に過ぎるその思いは、首を振って打ち消した。

 後悔している訳じゃない。
バスケを手放した事は仕方のない事だったけれど、今の生活にも勿論充実感はある。

 今更後悔した所でどうなる訳でもない。
少しだけ未練がましい自分に、桜木花道は苦笑交じりの吐息を吐き出した。

 バスケットボールを手放して…早10余年───

 こんな風にバスケに関して熱く思いを馳せてしまうようになったのは、何もかもアイツのせいだ。
花道はそう思うと複雑な心境だった。

 時計の針が7時を回っている。
そろそろヤツが来る頃だろうか?
 カチカチと音を立てている時計に目を走らせながら、花道は既に日常となりつつある厄介者の訪問の予感に眉を寄せた。


□ □□□□
「……どあほう……」
 いつものように抑揚のない低い声が戸口から掛けられる。
振り向かなくても分かってる。
この時間帯になると必ず現れる訪問者───
「ル〜カ〜ワ〜〜〜〜〜。何度言ったら分かンだよ!? オレはお前の相手をしている程暇じゃねーんだよ!! 仕事の邪魔だから、とっとと帰れ!」
 そう罵声を飛ばしても、この男───流川楓には真意がなかなか伝わらない。
大人の事情というものを理解しようともせず、彼は我が物顔で花道の前に当然の如く現れた。
「ここはお前みてーな奴が来る所じゃねーんだよ! 何度言ったら分かンだ、てめーはッ!」
「……ちゃんと終わるまで待っててやっから、さっさと済ませろ、どあほう……」
 厚顔な物言いに花道はブチンと切れた。
「だ─────────────────ッ! 高校生のクソガキの癖に生意気な口叩いてんじゃねぇ! それにここはてめーみてーにピンピンした奴が来る所でもねぇ! ここをどこだと思ってやがるッ! さっさと帰りやがれッ!」
「……どこって、老人会の集会所だろ?」
 その声にドッと笑い声が上がった。
「ホッホッホ。それもそうだ」
「全く、その若造の言う通り」
「おっちゃん! おばちゃん達! 笑いこっちゃねぇぜ!」
 沸き上がった笑い声に、花道が困った声を零す。
「ここは病院! こんなどっこも悪くねぇ野郎が来る所じゃねぇンだよ!!」
「……病院っつったって、正式には診療所だろ?」
「てめーも調子こいて茶々入れてンじゃねぇよ、ルカワ! ったく……」


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