(2)

 

  仙道の目付きが変わるのを、花道は淫蕩な眼差しで見つめていた。
これから訪れる快感を思って喉が鳴る。
赤い舌が無意識に唇を舐めていた。
「…花道……」
 下の名前で呼ばれるのきこんな時だけ───
 花道は未だに足元に絡みついていたジーンズとトランクスを器用に足先で蹴り下げ、
惜しげもなくその躰を開いた。
 その後には、待っていた通りの灼熱の業火が花道を包んだ。
「…う…───んっ!」
 唐突に唇は塞がれ、すぐに進入して来た舌に縦横無尽に口腔内に犯されてゆく。
歯列を割り、高口蓋を舌で撫で上げられ、震える花道の舌と絡め合う。
 飲み込めず、口角を伝い始める唾液が花道の喉元に達した時、
仙道は始まった時と同じように唐突に唇を離し、花道を後ろ向きにさせた。
「…あっ、センドー!?」
 不安げに振り向く花道に、仙道はさっきから痛い程に猛った自身を掴むと、
言葉を掛ける余裕もなく、一気に貫いた。
「あっ! はぁ───────ッ! あぁ…………ッ!」
 花道は背を反らせ、高い声を上げた。
立ったままの不安定な姿勢のまま、余裕のない二人は性急に繋がる事に悦び勇んだ。
 愛しい人を抱いている、抱かれていると実感出来る瞬間だった。
ろくな愛撫も施されていない花道の局所は狭かった。
キツさが双方を苦しめているというのに、行為を止めようとは思わない。
「…あぁ……くっ…あぁ……はっ!」
 滑りの悪いまま仙道が腰を使い出すと、花道の口から引切り無しに甘い声が零れ落ちた。
「…花道……」
 熱く名を紡ぐ仙道の吐息を首筋に感じて、花道は瞼を閉じた。
『悦楽』という歓喜と愛しい人を『独占』している歓喜に涙が溢れる。
 腰を支えていた仙道の腕は、花道の胸元と勃ち上がった肉棒に添えられ
不埒に蠢いた。
「……はぁっ! …ぁ…あぁ………ッ」
 悦に入った花道の嬌声がホテルの一室に響く。
声を押さえようとは思わなかった。
 声を上げて感じる羞恥よりも、取り巻く快感と仙道に抱かれているという
悦びの方が断然上回っていたからだ。
 何しろ仙道は花道の嬌声を好きだと言う。
何物にも代え難い媚薬だと……。
 だから花道は恥ずかしくても感じるままに声を上げた。
それで仙道が自分をより感じてくれるなら、どんな羞恥にも堪えられた。
 綺麗事で済まされる程、出来た人間じゃない。
一度知った快楽は、何が何でも手に入れたいと欲する程には貪欲な人間なのだ。
「…あぁっ! …んっ……はぁ……ッ」
 悪戯な仙道の手淫に、胸の突起はすっかり赤く色づいてぷっくりと立ち、
震える肉棒はしたたかに蜜を流し始めている。
 繊細な指先の愛撫とは裏腹に、背後から仙道は容赦なく激しく腰を打ち付ける。
グッと突き上げられる度に立つ音が卑猥だ。
それすらも彼らの欲情を高めてゆく。
「…あっ、あっ、はっ…セ…ンド……ぉ………ッ!」
 仙道に貫かれ、悦楽の涙を流す。
汗に濡れた肌は、これ以上にないくらい仙道のものと馴染んだ。
 打ち付けられる振動に躰が揺れる。
その激しさに花道は自分の力だけで立っているのが辛くて傍の壁に縋った。
 甘い言葉を囁き合うのも躊躇う程に、彼らは感覚だけを追っていた。
確かに言葉も欲している。
 けれど今はこんなボディトークだけで精一杯だった。
「…花道ッ……」
 少し掠れた仙道の声が空気を震わせる。
項に押し当てられた唇がとても熱くて、花道はジンと腰まで痺れる感覚に鳴かされた。
「…はぁっ! …んっ…ぁ……あぁ………」
 局所で感じるリアルな仙道の欲望───
花道に向ける想いのままに、熱くて激しくて……猛々しい。
 花道は壁に頬を摺り寄せ、腕を付いた。
少しでも押し寄せる快感の波に立ち向かおうとした所業だろうか?───
「…もう…あ…ん……セ…ンド……頼む……」
 ビクビクと仙道の手の中で震えている花道は、限界を告げていた。
それを察すると仙道は徐に手を放し、花道の腰を両手で支えた。

「…センドー!」
 突如離れた仙道の手に、花道は不満げに彼の名を呼んだ。
彼の手による愛撫は、直に最後の高みへ誘ってくれるから楽に快感を追えるのに───
 どうしてその手を離すのかと、花道の視線は訴える。
「…こっちだけでイッて……」
 花道の心情を察して、仙道は薄く微笑いながら今まで以上に腰を激しく突き上げた。
「…ぃや……あぁ……ッ!」
 打ち付けられる激しさに、内壁を擦られる感覚に悲鳴のような声が上がった。
躰中の血という血が騒ぐ。
躰中の細胞という細胞が仙道を欲して歓喜の産声を上げていた。
歓喜の産声は、そのまま花道の口から迸る。
「くっ…ぁ……あぁ……セン…あっ…あっ…!」
 押し込み、捩じり込んでくる仙道に翻弄された。
一見苦悶様なその顔は、この上ない快楽に身を投じている証……。
 背後からでは見えないその花道の表情も、仙道にはちゃんと分かっていた。
自身を締め上げるここが──尽き出される腰が、何よりも快感を得ている証拠。
自分をこんなに感じてくれていると知れば、仙道だって堪らなく嬉しいのだ。
そして彼にも限界が見え始めていた。
「…イきそう…。…もう…センドぉ……ッ!」
「…俺も…そうみたい。…一緒に──」
 そう言って仙道は最奥目掛けて突き上げた。
「あっ…あっ…あぁ─────ッ!」
 一段と高い嬌声を上げ、花道は仙道を締め付けながら達した。
白くドロッとした花道の精液が、クリーム色の壁に打ち付けられて汚されている。
「───ッ!」
 仙道は花道の締め付けに堪えられず、花道同様欲情を吐き出した。
「──んっ!」
 最奥に叩きつけられた刺激に花道の躰が打ち震える。
仙道がズルリと自身を抜き出すと、花道は今度こそ立っている事が出来なくて
その場に崩れ落ちた。
 花道は腰に力が入らないようで、床に崩れたまま口から熱い吐息を吐き出している。
全裸の肌は薄明かりの部屋に映え、妖しい色香に染まっていた。
「…センドー……」
 仙道を振り返る顔は、未だに淫蕩な表情を浮かべている。
仙道はそんな…花道の色香にすっかり当てられた。
「…センドー。俺まだ……」
 揺れる瞳が愛しい。
「俺も桜木と同感」
 まだ満足出来ない。
逢えなかった日々の想いは、これだけでは埋められない。