(4)

 

 ちゃんとベッドに移動して交わした熱い情事の後、
花道はシーツに包まりながら気だるい躰を横たえていた。
花道の横では、下肢を申し訳程度にシーツで覆っている仙道が
煙草を銜えている。
 仙道は揺れる紫煙を通して花道を見下ろした。
乱れた赤い髪は美しく散り急いだ花びらのようだ。

 真っ白なシーツに零れた赤い花───

 仙道は銜え煙草のまま、花道の髪を梳き上げた。
「……久し振りだな」
 花道は仙道の顔をじっと見つめて、プッと吹き出した。
「え? 何?」
 いきなり笑い出した花道に、仙道が不思議そうな顔をする。
「だってさー、あんだけやる事やっといて、今更『久し振り』はねーだろ!
『久し振り』はよー」
 ケタケタとおかしそうに花道が笑う。
無邪気な少年の顔だ。

 本来の彼の姿───

 仙道はそんな花道の姿にホッとしながらも、どこかで少しだけ胸が痛むのを感じた。

 こんなに無邪気な少年を手折ったのは自分───
 穢れない花道を汚したのも自分───

「こらっ! いつまで笑ってんだ!」
 仙道は煙草をベッドサイドテーブルに置くと、花道をシーツごと押さえつけた。
「悪りー悪りー」
 花道はやっぱり笑っていた。
「……桜木」
 少しトーンの変わった仙道の声に、花道の笑いも消えてゆく。
「…何だよ?」
 仙道の指先は未だに花道の髪を絡ませている。
花道はそれを好きにさせたまま、シーツの中から彼を見上げた。
「……いや、何でもない」
 仙道はそう言って首を振った。
花道は仙道のそんな仕草に軽く溜息をついた。
「お前、また後ろ向きな事、考えてただろ?」
 言いながら、花道は頭元で煙を立てている煙草の火を消した。
「違うか?」
 真っ直ぐに向けられる花道の視線に、仙道は軽く息をついた。
「……敵わないなぁ、桜木には」
 苦笑を漏らす仙道に、花道はシーツの波の中からあっけらかんと言い放った。
「俺、前から言ってっけど、センドーが辛い思いすンのも、あの人……
センドーの奥さんが辛い思いすンのも嫌なんだよ。
こんな事してて言える立場じゃねーとは思うけど、俺は誰も不幸にしたくねーンだ。
だからセンドーが俺の事、邪魔に感じるんなら、俺は───」
「そんな風に言わないでくれ!」
 荒げた仙道の声が狭い部屋に響いた。
花道は仙道の腕の中にしっかり捕えられていた。
「…センドー……」
 仙道の匂いに包まれて、一瞬ドキリと鼓動を揺るがせた。
「お前がいるから…。お前がいてくれるから、こうして今の俺がいるのに……。
そんな風に言わないでくれ」
 縋るような声に花道は瞼を閉じて、仙道の背中にそっと腕を伸ばした。
自分が付けた爪痕の残る仙道の背にそっと……。

 妻帯者である仙道が始めてしまった愚かなゲーム───
初めはこんなにのめり込むはずじゃなかったのに……。
何時の間にか本気で花道を愛していた。
 仕事にも家庭にも特に不満なんてなかった。
 何のトラブルもない日常───
 良くも悪くも変化のない日々というものが、こんなにストレスを感じさせるものなのか。

 そんな時だった、花道と出逢ったのは……。

 花道に出逢ってから、今までの世界は色褪せた。
『逢うのは多くても週に一度だけ』
 ──そう条件を出した花道に仙道は頷くしかなかった。
今の所この約束は守られている。
 今回の逢瀬は、彼の事情で約1ヶ月間全くなかったのだ。
学生生活を送る彼にも色々と事情はあるから仕方がない。
でも後1日でも遅い逢瀬だったなら、自分は狂っていたかもしれない。
それ程までに仙道は花道に惹かれていた。

 当然、妻はこんな事を知るはずもない。
今の所は知らせるつもりもない。
 こんな風にズルズルとはっきりしない関係を続けるのは、花道にも妻にも
悪いと分かっていながら、彼は柵を捨てて花道と人生を歩む事も、
妻の元に帰り、今まで通りの生活に戻る事も出来なかった。
 ───愚かな男だ。

「…悪りー。もう止めようぜ、こんな話! 辛気臭せー。
せっかく久し振りに逢ったんだもんな。お前の話、聞かせろよ」
 花道は仙道の背中をペチペチ叩いて、いつもの笑顔を覗かせた。
「…そうだな」
 つられて仙道も微笑む。

 抱かれている時は、花が乱れ咲くような色香で誘い、同時にこうやって
抱かれる事に不安げな瞳を晒すくせに、ひとたび情交が終わると
こんなにも素っ気ない普通の少年の顔。
 どれが本当の花道なのか、時々仙道は疑問に思う事もあった。
どちらにしろ、それが『花道』というだけで狂わされているのだから
あまり関係はなかったけれど……。

 変哲もない長い廊下を歩き続けた先に見つけた扉───
ゆっくりと開いた扉から溢れるのは、眩しいばかりの太陽の日差し。
暖かくて明るくて……どこかホッとする光。
眩しさが瞳に慣れて視界を広げてみれば、足元に非常階段が───

 仙道はその非常階段に、今、足を踏み出した所だ。
『仕事』『家庭』『社会のモラル』etc……
───そんな名の雑居ビルで見つけた『花道』という非常階段。
 パタンと背後で扉を閉め、仙道はその非常階段を降り始めた。
行き着く先に続く道がどこなのか知ろうともせず……。

 けれど仙道はどこかで確信している。
その太陽の日差しが陰る事はないのだと───

 傍らにはいつもあの笑顔が傍にあるのだと……。

 それが仙道の望む今の『夢』─── 

 

THE END

く、暗いお話ですみませんでした(><)"

非難轟々だと思いますが、宜しかったら感想などお聞かせ下さいませ。

 

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