一緒に暮らし始めて数ヶ月──
その日仙道は珍しい物を片手に帰宅した。
「ただいまー。ほらお土産だよ」
「ぬ? どうしたんだそれ?」
花道が目を引いたのは、仙道の手に握られている一本の笹。
「ほら、だって今日は七夕だろ?」
にっこりと微笑みながら、仙道は手の中の笹を軽く振った。
「花屋の前を通ったらさ、売ってたから思わず買ってきちゃった。ほらこれも…」
短冊もあるよと、紙袋を差し出されて、花道は思わずその場に脱力した。
「……俺は時々おめーって奴が分からなくなる」
「そう? だって折角の七夕だろ? 桜木、こういうの好きかと思って…」
そう言って、仙道は紙袋から短冊を取り出した。
「七夕祭り、しよーよ。桜木」
いつもの優しい仙道の眼差しに、ドキリと鼓動を揺るがせながら、
花道は子供の頃を思い出してか懐かしむように頷いた。
「……まぁ、いいか」
頷く花道を見届けると、仙道は嬉しそうに笑って、ペンを探し始めた。
「願い事かぁ。桜木は子供の時、何て書いた?」
2人はテーブルに短冊と折り紙を広げながら、黙々と七夕飾りを作っている。
良い年下した大男が2人揃って七夕飾りを作っているという構図は、
なかなか滑稽だけれど、昔を思い出してか2人はいかにも楽しげな顔をしている。
「ガキン時か? そーだなぁ。やっぱプロ野球の選手になりてーとか書いてたなぁ」
「じゃあ、今は? 何て書いてるの?」
花道の願い事の短冊を覗きこもうと、仙道は上体を乗り出した。
「あ、バカ! 見るンじゃねー! てめーはさっさと飾り作れよッ!」
照れがあるのか、花道は真っ赤になりながら片手で短冊を覆い隠して
仙道の視線を手で払う。
そんな彼らしい仕草に思わず口元を綻ばせながら、
仙道は静かに切り出した。
「ねぇ、桜木。桜木は七夕のお話って覚えてる?」
「あぁ!? 七夕の話って…何とかって言うお姫さんと年に一回しか逢えないっていう…?」
「そう。織姫と彦星のお話」
「覚えてるぞ。可哀想だよなー。好きな人に年に一回、しかも晴れてなけりゃ
逢えねーんだぞ」
「まぁ確かにそうだよね。ロマンチストだから、桜木ってそういう話に弱そうだよな」
「あんだよ。誰だって可哀想だって思うだろ!? おめーはそう思わねーのかよ?」
「いや確かにそうは思うけどね。その彦星もバカだと思って…」
「何でだよ!?」
短冊や折り紙を手にしていた手の動きを止めて、花道は目の前の男に
視線を向けた。
「本当に好きなら、絶対年に一度だけなんて我慢できるはずないよ。
本当に逢いたいのなら、どんな事をしたって罰せられたって好きな人に逢いに行くはずだ」
冗談めいた口調が消えて、何時の間にか真摯な眼差しになったそれを
花道は思わず凝視した。
「だってそうだろ? 俺は絶対に我慢なんて出来ないよ。もし……」
「もし?」
「……もし。桜木がどこか俺の手の届かないような遠い所へ行ってしまいそうになっても、
俺は絶対追いかけるよ。たとえ地の果てだろうとね」
「!」
椅子から立ち上がって、仙道は出来上がった七夕飾りを笹に括り付けながら静かに続けた。
「俺は年に一回なんて決められた逢瀬なんか、絶対に待っていない」
振り向く仙道に、知らず花道の鼓動が跳ねた。
「…………っ」
「桜木が俺の傍からいなくなるなんて、絶対にさせないだろうけど
でももしその時は、絶対に諦めないから」
ゆっくりと近づく仙道に、花道は耳まで真っ赤にさせながら
そっぽを向いた。
「な、何マジな顔してやがるッ! バ、バカじゃねーの!? たかだかおとぎ話の事じゃねーか」
「うんそれはそうなんだけど…。でもね本当の事だから」
ふわりと仙道の匂いに包まれたと思った時には、しっかりとその両腕の中に
抱き締められていた。
「セ、センドー!?」
「覚えておいてね。それくらい俺は桜木の事が好きなんだ」
「なっ!」
仙道の甘い声が花道の耳元を擽る。
「好きなんだ、桜木………」
唇が耳元を掠めて、花道の躰がビクンと震えた。
「な、何恥ずかしい事言って……あっ……」
押し当てられた唇に、灼熱を灯される。
「バカ、やめろよ。飾り付けすンだろ!?」
不埒な雰囲気を悟って、花道は仙道の腕の中でもがき出す。
「いいよ、もう後で。それに俺の願い事は一つだけだし……。
もうお願いしなくても叶ってるしね」
強引な腕に引っ張られ、花道は易々と仙道にフローリングの床に押し倒された。
「ちょっ、ちょっと待てって、セン……あっ…やっ……ッ!」
素早くシャツの合わせ目から忍び込んだ指先に、花道の声からは甘い色が立ち上った。
「このまま、いいよね?」
仙道が優しくも強引な性格だっていうのは分かっている。
本当に嫌だったら好きにさせてなんかいない。
でも………。
「…………センドーのバカ。スケベヤロー」
赤い顔で、それでも力を抜く花道に、仙道は一頻り微笑むと、
ゆっくりと愛撫の手を伸ばしていった。
窓の外では満天に瞬く星々が………。
星に願いを込めて、祈りを込めて一番の願い事を短冊に書き溜める。
笹の葉に括りつけられた彼らの願い事はたった一つ。
いつまでも2人一緒に………。
かくして満天の空の下、2人は天上の恋人達のように甘く睦みあった。
今宵は七夕……。
天上も地上も飛びきり甘いロマンスに溢れているのだ。
END
何かムチャクチャ恥ずかしいお話でしたね(汗)