
この世に17年と3ヶ月が経ったその日、流川は晴れ渡る青空の元でそよぐ
薄紅色の花弁に視線を奪われて、思わず立ち止まった。
日本の風物詩──桜に、1年前までは興味を奪われた事などなかった。
それなのにどうだ。
たった1年の間に、ただ『桜』というだけで、自然に反応してしまうようになるなんて……。
満開の桜はどうしても誰かさんを彷彿とさせる。
一年中咲きっぱなしの能天気な桜。
見た目と違って、女に弱く、シャイで……。
我が侭な上に自信過剰。
けれど……。
その桜が彼にとっては、なくてはならない桜なのだ。
「何ボーッと突っ立ってンだ、キツネ」
ふいに背後から飛んできた明るい声に、流川は反射的に振り向いた。
そこには彼の…彼だけの満開の桜──桜木花道が立っていた。
「……どあほう」
流川の紡ぐ愛称が聞こえているはずなのに、花道はそれには何の返答も返さなかった。
それどころか花道の視線はさっさと移動して、今では頭上で華やぐ桜に見とれている。
「凄げー、満開だな」
流川の方を見向きもしない。
それが面白くないのか、流川の眉は僅かに寄せられた。
そんな流川に気づく様子もなく、花道は口元を綻ばせて薄紅色の桜を愛でている。
「………」
まるで自分の姿など目に入っていないかのような反応をする花道に、
流川はゆっくりと近づいて行った。
「ここの桜も満開だなー! 藤城公園の桜も満開だってよ。
やっぱ、今度リョーちん達も誘って花見に──」
嬉しそうに桜を見上げる花道の腕を強引に引き寄せて、
流川は一人で喋り捲るその唇を塞いだ。
「────ンんッ!」
突如言葉毎奪われた唇から、花道のくぐもった声が零れ落ちた。
腕と顎を捕えられ、無理やりされる口付け……。
それなのに、花道の鼓動は一気に胸を叩くのだ。
「ンん──ッ! …ぅ…ンん……ッ」
舌先を絡め取られ、深く口付けられる。
身体が震えてしまう程の熱いキス……。
こんな真っ昼間の、しかも公道でするようなキスじゃない。
人に見られたら…という焦りに襲われ、花道は抵抗の腕を振り上げた。
「なっ、何しやがるッ! このクソギツネッ!」
花道に胸を突き飛ばされて、流川はようやくその熱い唇を離したのだった。
花道の方はゼーハーと肩で息をつき、手の甲で唇を拭っている。
「…おめー、ちっともこっち見ねーから……」
「だからって、いきなりキッ…キス…する事ねーだろ!?」
真っ赤になって怒鳴る花道を、動揺する事なく冷静に見つめていた流川は、
ボソリと呟いた。
「…凄げー真っ赤」
「…るせーな、てめーッ! ニヤつきながら、人の顔ジロジロ見てンじゃねー!」
照れて恥ずかしがっている事を悟られたくなくて、花道はがなった後、
さっさと一人で歩き始めた。
「…どあほう……」
これだから手放せない。
もう何度だってキスしてるのに、こうして休みの日は一緒に過ごしているのに、
花道はいつまで経っても初々しい仕草で流川を虜にしてゆくのだ。
満開の桜は人を魅了し、虜にすると言う。
流川だけの為に咲く満開の桜も、そうしていつまでも彼を虜にするのだろう。
流川は口元を綻ばせると、一人で先に行ってしまった花道を追って
その足を踏み出した。
満開に咲いた桜は、柔らかな日差しを浴びながら、そんな2人を見送るように
ゆらゆらとその花弁を揺らしていた。
THE END