(4)
流川は晩酌のビールで少し酔ったのだろうか。
Tシャツにジーンズというラフな格好の花道の後姿にさえ、妖艶さを
感じて喉を鳴らした。
否、流川が花道の姿を見て欲情するのは、何も酔っているからではなく、
ただ単に花道にイカレているからだ。
ガタイのでかさは自分とタメを張る程だ。
スポーツマン特有の肉付きにバランスの取れた肢体。
どこをどう取っても妖艶という言葉からは掛け離れている。
けれどそれが花道の身体というだけで、熱く感じてしまうから仕方がない。
思わずゴクンと喉が鳴る。
帰宅早々の甘い時間は、花道の抵抗にあって無残にも消え失せた。
けれど一度燃え上がった炎は簡単に消せやしない。
それが官能の炎なら尚更に……。
流川は鼻歌交じりの花道の背後に足音を忍ばせ、ゆっくりと近づいた。
「フンフンフン♪ 天才ぃ〜♪」
ご機嫌麗しく、新妻花道は背後に忍び寄る危機にも気づかず、水仕事を続けている。
洗い上げた食器を乾燥機の中に入れ、一息ついて振り返った所で
初めて流川の存在に気づいたのである。
「うわ─────────────っ! びっ、びっ、びっくりした。
なっ、何だよ、てめー! いきなり人の後ろに突っ立ってンじゃねー!!」
ガタッと身体をびくつかせ、シンクに寄り掛かるようにして驚く様を、
流川はじっと見つめている。
「? 何だよ…? ルカワ……?」
黙ったままの流川に、花道は首を傾げて様子を窺った。
その仕草は愛妻家の流川にとっては、心臓直撃だったらしい。
「どあほうっ!」
短く叫ぶと、流川は獣のように花道に飛び掛った。
「なっ! ルカワ!?」
この場合、花道の方が断然分が悪かった。
逃れようと思ってみても、背後はシンクで逃げ場はない。
「て、てめー、酔ってンだろ!?」
鼻腔を掠めたアルコールの香りに、花道は声を荒げた。
週末だからといってビールの本数を増やしてやったのがマズかったのか……。
「……どあほう…。…こんなビール程度で誰が酔うかッ!
オレはてめーに酔ってンだ、どあほうっ!………」
━━━こいつ、ぜってー酔ってる!
花道は心なしか青ざめて目の前の男──いやケダモノを見つめた。
向けられる眼差しはまさにケダモノ───
さっきは上手くかわせたけれど、今度は果たしてそう上手くいくだろうか?
「お、落ち着けルカワ! な? 俺が酌してやっからよ、あっち行こうぜ?」
何とかしてこの危ない状況を乗り越えたい花道は、あくまでも必死だった。
けれど必死だったのは、何も花道ばかりではないのだ。
「…ここでいー……。別に酌もいらねー……」
アルコールに強い流川が、晩酌のビール如きで酔うはずはない。
でも花道に向けられる瞳は確かに据わっている。
ゆっくりと伸ばされた腕が花道の両腕を掴んだと思ったら、
噛み付くように唇が重ねられた。