イルカンスクベク


●目的

 『イルカンスクベク』とは、近頃急進的に勢力を伸ばしている宗教団体である。
 彼等は様々な悪事を働き、あらゆるものに害を為している。
 最早その動きを無視できないと私は考える。
 これより、彼等についての報告を行わせて貰う。

 『イルカンスクベク』の目的――と言うよりは、教義は、結局たった1つに絞られる。

 神を降臨させ、世界を救済する
 それ、只一つである。
 しかし、(異端であるとは言え)仮にも『神』と呼ばれる高次のものを召喚するには、それに見合った存在量の消費が必要となる。
 故に彼等は人を狩り、その命を――魂を、神に捧げるのだ。
 彼等の教義に依れば、幼子の無垢な魂程、存在量が高いのだと言う。
その為だろう、彼等は普通の市民よりは子供を狙い、狩る傾向に在る。


●組織構成

 邪教と言えど、『イルカンスクベク』は取り敢えず何らかを崇める宗教団体である。
 しかし、その組織の実態はどちらかと言えば秘密結社、或いは私設軍隊を思わせる。
 余りに外へ干渉し過ぎるその教義ゆえに、そうならざるを得ないのであろう。

 組織の頂点に立つのが『教祖』である。
 教団全体の意向を決め、本人は滅多な事では前線には出てこない。
 しかし十数年前『フューレア』というダークエルフが教祖となり、彼は積極的に前線に出ているようだ。

 その下に数名、名を連ねるのが『神官』と呼ばれる役職である。
 『神官』はいわば行動隊長に当たり、『現場』での様々な事態に対応する。
 通常、『神官』と言えば神に祈りを捧げるのが仕事だが、彼等は代替行為として人々を襲撃する、極めて危険な存在である。

 『神官』は、その能力によって、様々な部隊に別れている。
 主に神殿の護衛を司る『暗黒騎士団』。
 教義の実践を司る『神官兵』。
 『巫女』(後述)の預言に従い情報収集を行う『神の目』。
 現在判明しているだけでも、それこそ私設中隊並の部隊が揃っている。

 『神官』と同列に存在するのが『巫女』である。
 彼等彼女等は『神官』ほど前線には出ないが、彼等や教団自身の行動を『呪術的に』サポートする。
 『巫女』の長には、『神』の声を聞く者や、未来を見通す者が居たという。
 遭遇率は小さいが、これもまた極めて危険な集団であろう。

 最後に、彼等の下に居るのは『平信徒』『修道僧』『弟子』と呼ばれる者達で、最末端の構成員である。
 彼等は『教義の実践』において兵となる者だけではない。
 密かに『イルカンスクベク』へ出資している所謂パトロン等も、身分はこの『信徒』であることが多い。
 『神官』ほどの能力は持ち合わせていないが、その狂信と数により、恐るべき敵となる。

 概要はこのようなものだが、実際には此処に当てはまらない者も多い。
 焔を操ると言われる女性『神官』は所属がはっきりしない。
 教祖子飼いの殺し屋のようの者も居る。

 下に、現在判明している構成員の名を乗せる。但し、『信徒』については割愛した。また、現在では構成が変更されている可能性も示唆しておく。




●構成員

 最後に、現在判明している構成員(『神官』以上)に付いて少しだけ述べよう。


『フューレア』(ダークエルフ/男/年齢不詳)
 地位は「教祖」。
 彼は、精神に干渉する術を用いるダークエルフである。『イルカンスクベク』の司令塔と言って良く、大筋での指示を下しているのはこの男だ。
 この男に対する狂信で教団は成り立っている。蛇は頭から潰せ。この男が死ねば、教団は瓦解するだろう。

『ムジャール』(人間/男/推定20代後半)
 地位は「神官」。但し他の者と比べ特異な位置に居る。
 彼は教祖子飼いの暗殺者にして護衛だ。裏切り者の粛清等、邪教に於いてすら汚れ仕事とされる事を一手に引き受けている。
 魔術は使わないが、その戦闘力は高い。
 また、教祖の側近と言う事で、戦当時には指示を下している事が多いようだ。限定的な指揮権が与えられていると思われる。

『オルス』(ダークエルフ/男/年齢不詳)脱走者
 地位は『元』「神官」。現在は教団を裏切り、逃走中。
 性格はダークエルフらしい邪悪さを持っていたが、教団を抜けてからは臆病者と言って良い程に精神面の脆さが露呈している。
 教団員に追われているようだが、上手く接触できれば有用な情報源となりうるだろう。

『焔藍』(精霊/女/年齢不詳)
 地位は「神官」。ムジャールとはまた別の意味でその立ち位置が不定である。
 性格は、邪教の中では慇懃かつ温厚。但しあくまで彼女も邪教徒であることは忘れないこと。
 その名の通り焔を操る強力な術者である。
 尚、教祖フューレアを『父上』と呼んだという報告が存在する事を付け加えておく。

『イワン』(宵闇族/男/年齢不詳)
 地位は「神官」。『暗黒騎士団』の長である。
 教祖打倒という目標を掲げるならば、ムジャールと並び最大の障壁と成りうる男。達人クラスの剣技に加え、呪術も多少使用できるようだ。
 場合によって言動にかなりの変動が有る。その時は目と髪の色が違うとの報告も存在する。

『ユールク』(竜人族/推定女/年齢不詳)
 地位は「巫女」の長。
 あどけなさすら感じさせる容貌ながら、教団随一の呪力を持つ最強の呪術師。
 『神』の預言を聞く事が出来るのは彼女だけであり、教祖フューレアにとっては、信徒を熱狂させる為の最大の駒であろう。
 彼女が消えれば、この団体自体にガタが来る事はほぼ約束される。

『オットー』(人間/男/20代)
 地位は「神官」。
 前線にて確認されることの多い、生粋の戦闘魔術師。
 フューレアと同じように精神に干渉する術を使う。が、それ以外にも直接攻撃する魔術など、様々な魔法を使う。
 その多様性を考えれば、実際に出会った時の脅威としては教祖よりこちらに警戒を置くべきだ。
 教団でも、最も危険な男の1人である。

『李炎』(ライカンスロープ/男/20)脱走者
 地位は元「神官」。
 前線では余り見掛けないが、確かに邪教徒として存在していた青年。
 能力はイワンに匹敵した実力者だが、裏切りが露呈し、他の信者と戦闘状態に陥った後、逃走した模様。
 その後の行方は追跡調査中だが、名を変え潜伏している可能性も示唆しておく。彼もまた有用な情報源に成りうる。

『黒布』(人間/男/推定20代)故人
 地位は元「神官」。
 前線にて、主にオットーとチームを組み活動していた。
 凄腕と呼ぶに相応しい能力の持ち主だったが、先日、HODのメンバー及び一般の冒険者と戦闘に陥り、死亡したのが確認されている。

『フェダ』(人間/女/推定10代前半)
 極最近入信したと思しき少女。恐らくは「信徒」クラス。
 しかし報告に依れば、その能力は「神官」に何ら引けを取らないと言う。
 今後、注意しておくべき人物であるのは間違いない。


『テリア』(ダークエルフ/女/年齢不詳)脱走者
 地位は元「巫女」。
 私が調査を開始した時点で既に教団に背を向けていた為、その能力等は不明。
 但し「巫女」という立場上、その能力はやはり魔術に傾いていると思われる。
 教団側は知らぬ事だが、「ユルリア」と名を変え街に潜伏している。が、容易に尻尾を掴ませないのは流石元邪教徒、と行った所だろうか。
 「巫女」という秘密主義的なセクションに所属していた為、持つ情報の密度は濃い事が予想される。

『ウルヴォス』(堕天族/男/年齢不詳)
 地位は「神官」。
 情報組織『神の目』所属。東方の武装を用いる変わった男だ。
 しかし彼にはもう一つ、他の団員との差異が存在する。
 彼は其処まで狂信的なものを持っていないという事だ。
 今後の同行に注意すること。

 これを以て、略式の報告を終了する。
 詳細は本部で戻り、私が直々に行おう。

――『天誅』工作員、“凶ツ刃”ヴィグロヘイムの報告書より抜粋




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