ナイフ

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傷ついて狂ったぼくの心がぼくの血を濁らせ、
ぼくの濁った血はぼくの心をさらに狂わせる。
狂った円環を断ち切るためにぼくは自分の手首に
ナイフを当てて一息に引き切り、濁った血を
抜き取ろうとしたけれどそこから吹き出したのは
青く澄んだ液体だった。
ぼくはうろたえて何度もなんどもナンドモナイフに
力を込めるけれどやはり吹き出してくるのは
青く澄んだ液体で。
その美しさにぼくは思わず見とれてしまうけれど
いったいどのくらいの時間がたったろうか
ぼくはふと我に返り、自分が人間ではなかったことを思い出す。
自分が人間でないことを思い出したぼくは
自分には心なんてなかったことも思い出し、
ならば今まで狂っていると思っていたぼくの心は
いったい何だったんだろうかと不思議に思うけれど
心がない以上もう傷つくこともないのだと思う。
それはそれは素敵なことのはずなのに、
どこか淋しいのはなぜだろう。

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