商売 〜The Works〜

 商売 〜The Works〜

 一人の少女が掲示板を眺めている。
 その掲示板には無数の紙が貼られいたが、それを目にするものは多くない。
 風で、紙がざわめくように音を出すと同時に、少女の長い髪も揺れる。
 少女の身長は150くらいか。
 そんなに大きくはない。
 少女はその掲示板を見詰めながらため息を一つ。
 「うーん…やっぱり報酬が高いのって大変かヤバイ仕事かぁ」
 「そりゃそうだよ。楽して稼げる手があれば、こんな掲示板の前に立ってないもん」
 「的確な指摘をありがとう。カイン」
 皮肉混じりの声を出す少女。
 彼女と話しているのは、黒い猫のような生物。
 外見は猫と全く変わらないのだが、額に小さな角が生えている。
 角の生えた猫など聞いたことがない。
 だから猫のような生物としか言いようがないのだが。
 「ねぇ、エル。僕はこんな所で紙切れなんか見たくないんだ」
 「仕事見つけないと。私達お金ないんだよ」
 「貧乏」
 エルと呼ばれた少女はその掲示板の前から離れない。
 隅から隅まで眺める。
 仕事の内容の多くが危険が付き回る品ばかり。
 まっとうな人間の来る場所ではない。
 そういう意味ではこのエルという少女が立っているのは場違いなような気がする。
 現に、通行人は訝しげな目をエルに向けていた。
 「うーん。仕事ないね」
 「そう?別に僕は困らないよ」
 「そうなると野宿と干し肉の毎日か……」
 「えー僕、もう干し肉は飽きたよ」
 「私だって」
 二人してため息。
 エルの方はカインを少し睨んでいたように思えたが。
 「あ!エル!これなんか凄く報酬高いよ!36000も」
 「え?本当!?」
 カインの指す紙を見る。
 が、一気に脱力。
 確かに報酬はいい。でも内容が内容だ。
 「これ暗殺依頼。カインは私を人殺しにしたい?」
 「えーそんなことないよ。でもお金は欲しいんでしょ?商売っていかに楽にお金を稼ぐかだって誰か言ってたよ」
 「もぉいい」
 カインを無視して、仕事を探す。
 多種多様な仕事の依頼が連なっている。
 宅配、捜索、留守番や護衛、先ほどみたいなヤバイ仕事もある。
 上から丹念に仕事の紙を見詰めるエル。
 その表情は決して楽しそうではなかったが。
 「あ!これいいかも」
 掲示板にあった1枚の紙を引きはがす。
 「ほらほら、カインどう?」
 「僕に聞かないでよ」
 「むー。宅配するだけで1000の報酬だよ?」
 「エルが選んだなら、なんかおかしな宅配じゃないの?」
 「可愛くないなー」
 頬を膨らませるエル。
 カインはそれを見て涼しげな顔をしている。
 「ま、他にめぼしい仕事もないし…これにしよっかな。いい?カイン」
 「僕はご飯が食べられるならどれでもいいよ」
 「あっそ」
 半分呆れながら、エルはカインを見る。
 が、カインはそんなのお構いなしに後ろ足で自分の身体を掻いた。
 カインに何を言ってもダメらしい。
 エルはため息を再度吐く。
 「それじゃ、依頼主のトコ、行こっか」
 「はいはい」
 近くに止めてあったバイクにエルはまたがった。
 バイクの荷台には旅をしているような荷物が積まれている。
 その上に、カインは器用に飛び乗って、落ちないように身体を安定させた。
 キーを回しゆっくりと発進するバイク。
 エンジン音だけは、ゆっくりという形容詞に似付かぬ音をあげていたが。

 「ココ……だよね」
 先ほど千切った掲示板の紙を確認しながら呟く。
 目の前には、大きな屋敷が建っている。
 「エルには一生縁がなさそうな家だね」
 「もぉ、うるさい。カイン」
 バイクを止めて、屋敷の前に立つ。
 なにかそれだけで緊張してしまうような大きな家だ。
 少し緊張しながら屋敷の門をくぐる。
 屋敷の庭は綺麗に手入れされ、芝生が青々と茂っていた。
 無論、木々も綺麗に刈りそろえてある。
 「凄いところに来ちゃったね」
 「うん。なんか場違い」
 二人そろって緊張した面もちで歩く。
 たどり着いた大きな玄関。
 恐る恐る獅子の形をした飾り物を輪っかを持ってドアをノック。
 コンコンと良く響く音が聞こえた。
 すぐに執事のような人が現れる。
 緊張しながらも、エルは仕事の件を話すと奥へと案内してくれた。
 広すぎる1室。そこに、主人らしき人物と夫人らしき人がいる。
 「君のような子供が仕事の依頼人とは……世の中変わったものだな」
 主人の第一声はそれだった。
 エルは顔色一つ変えない。良く言われることだ。
 カインも分かっているのか、エルの足下で丸くなっている。
 「それで仕事なんですが」
 「女の子がこんな危険な仕事……」
 「ゴホン!」
 夫人の言葉は主人の咳払いで遮られる。
 「簡単な話だ。隣町の貴族、フィードルにそれを届けて貰うだけだ」
 「はぁ」
 エルの方に振り向きもせず、包みを指さす主人。
 包みは綺麗に包装され、リボンまで付いている。
 中身に付いてエルは何も問いかけなかった。
 変に勘ぐって、怒られるのも馬鹿馬鹿しい。
 「あの、報酬なんですが」
 「前払いでいい」
 執事から報酬を渡され、エルは届ける荷物を丁寧に持ち上げた。
 それから、執事に見送られて屋敷を後にする。
 二人きりになった広い部屋。
 「……危険な仕事とはどういう意味だ?」
 「…………」
 主人の問いに夫人は答えない。
 そのうちに、外からバイクの大きなエンジン音が聞こえて会話を掻き消した。

 「あーなんかムカツク主人だね!あぁいうのがいるから大変なんだよ」
 バイクの荷台でカインがぶつぶつ文句を言う。
 「エルはそう思わない?なんで金持ちってあんな失礼なんだろうね」
 「仕方ないよ。そういうモンなんだから」
 「エルは人が良すぎるんだよ」
 文句は続く。
 その文句を笑いながらエルは聞き、バイクを走らせる。
 どれだけ走っただろう?
 周りに家がなくなって、まばらに木々が見えるだけ。
 あと隣町まで半分と言ったところか。
 その時、男は現れた。40代くらいだろうか?
 鋭い視線をエルに浴びせながら、ゆっくりと道路の真ん中に立つ。
 「止まって貰おうか」
 言葉には有無を言わせない迫力があった。
 男が手にしているのは、自分の身長並の剣が1本。
 それを自由に扱えるとしたら、エルの乗っているバイクなど簡単に2つに出来る。
 「あの、どちら様でしょうか?」
 「そんなの関係ない。ただその献上物とやらを譲って欲しくてね」
 にやりと笑う男。その瞳には腕尽くでもと物語っている。
 「それは出来ません。私も仕事ですから」
 「オイオイ。俺は人助けをしようとしてるんだぜ?」
 困ったように肩をすくめる男。
 どこまで本気なのか分からない。すべて冗談に聞こえるが、その瞳は真剣だ。
 「ねぇ、あの人泥棒の癖に態度でかいよ」
 「こら!カインは黙ってるの」
 「はぁい」
 面白くなさそうに丸くなるカイン。
 男は呆れたように眺めている。
 「泥棒扱いされたんじゃぁ、こっちも気分が悪い」
 「泥棒なのになんか言い訳があるみたいだよ?」
 「こら!カイン!」
 「緊張感ねぇな。お前さん達」
 「エル、馬鹿にされてるよ?」
 「カインのせいでしょ!まったくもぉ」
 男はその光景を見て苦笑を浮かべる。
 「その献上物には爆弾が仕掛けられている。まぁ、フィードルって奴が次のここら一体の統治者の有力候補だからな。潰そうとしたんだろ?荷物を確かめてみな。時計みたいな音がしてるからさ」
 勝ち誇ったようにそう言う男。
 嘘を付いているようには見えない。
 「エル!エル!本当にカチカチ時計みたいにいってるよ!爆弾だよ!爆弾!」
 騒ぐカイン。
 が、エルはそれを無視。男を見詰めた。
 「俺に処分任しちゃくれないか?お嬢ちゃん」
 「いやです」
 「は?」
 「あなたの話には信じられません。この中身が爆弾じゃなくて普通の時計って事もありますし。それからフィードルさんって方が悪い人かもしれません」
 断る。
 男もそう来るとは思わなかったのか、エルを惚けながら見ていた。
 「エル!?いいの?爆弾なんだよ?」
 「カイン、黙ってるの」
 おろおろしているカインを静めさせる。
 男はまだ惚けていた。が、次の瞬間、男は笑い出す。
 「はっはっは!そうかそうか!良く言ったよ!お嬢ちゃん。そりゃそうだよな」
 「ええ。それにこれが私の仕事ですから。これを渡したら、私達ご飯食べられません」
 「それじゃぁ、こうしよう!その献上物、俺が買い取る。いくらで引き受けた仕事だ?その金額払うぜ」
 「それだと私が損をするだけですね。貴方が嘘を言っているなら私の信用がなくなりますし。報酬金額だけもらったんじゃ、私のリスクの方が大きいです」
 「分かった。それじゃ、1500でどうだ。悪くない金額だろ」
 確かに悪くない金額だ。エルは首を縦に振らない。じっとその男を見詰めている。
 「しかし、お金で釣ろうなんて悪人みたいですね」
 「なりふり構ってられないんだよ。時間が経てば爆発するしな。それにこの仕事を頼んだ依頼主は、お嬢ちゃんの依頼主の奥さんだぜ。いやはや権力争いってのは怖いねぇ」
 本気で困ったような表情をしてみせる男。
 嘘は言ってなさそうだ。
 「わかりました。それじゃぁ、1500で譲りましょう」
 「すまないな」
 バイクからゆっくりと献上物を取り外し、男に手渡す。
 もちろん男も金をエルに手渡した。
 「それじゃぁ、私達は急ぎますので」
 「戻るより進んだ方がいいぜ。フィードルの街の方が安全だな」
 「ええ。ありがとうございます」
 一礼をして、バイクを発進する。
 男はその姿を見送っていた。
 しばらく進むと男の姿はまったく見えなくなる。
 あの献上物の中身は謎のまま。
 「いいの?仕事だったのに」
 「カインはどう思う?」
 「え?いや、アレが爆弾だったらイヤだけど……エルが渡すの拒んでたから」
 バイクはそのまま走り続ける。
 そんな中、エルは笑い出した。
 「私は別にどこに定住する訳でもないから、誰が統治者だろうと関係ないの。あの中身がもし爆弾だとしてもね」
 「え?じゃぁどうして……」
 「商売っていかに楽にお金を稼ぐかだって知ってる?」
 「……あああっっっ!」
 カインは気付いたように声を荒げた。
 「そう、仕事のお金は前払いで貰ってるし、あのおじさんからは1500もいただいたからね」
 「それを一般的に詐欺って言うんだよ。エル」
 「そうかな?依頼主からは譲渡するなって聞いてないし、もし爆弾だったら依頼なんて関係ないでしょ?それにあのおじさんは自分から1500払うって言ったし」
 「でもお金を払うようにし向けたのはエルだよ?」
 「タダで貰われるのは癪じゃない。それに断ってたら、あの大きな剣で殺されたかも」
 楽しげに話すエル。
 そんなエルをカインは呆れたように見詰めた。
 「やっぱり詐欺だ」
 呆れたようなカインの声。
 エルはそんな声を聞きながらバイクを前にと走らせていった。
 「ねぇ?カインは今日のご飯何がいい?」

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