愛着 〜I'm attached to motorbike〜
愛着 〜I'm attached to motorbike〜

 店の前でバイクの爆音が鳴りやんだ。
 ここではまったくもって珍しくもなんともないエンジン音。
 しばらくすると、自動ドアをくぐって女の子と猫のような生物が店に入ってくる。
「いらっしゃいませ」
 彼はいつも通りの営業スマイルをお客に向けた。
「あ、ども」
 女の子はにこやかに微笑み返してくる。
 身長は150くらい。
 そんなに大きくはない。
 黒い髪が印象的だ。
 対する、猫のような生物は外見が、猫と全く変わらないのだが、額に小さな角が生えている。
 角の生えた猫など聞いたことがない。
 だから猫のような生物としか言いようがないのだが。
「本日はどのような機種をお探しで?」
「あ、いや、コレって決めてる物はないんですけど、この街は自動二輪車が盛んだと聞いて、ふらりと立ち寄ったんです」
「旅人ですか?」
「あ、はい。バイクで旅をしている、エルと言います。こちらはカイン」
「ヨロシクね」
 自己紹介をする二人に店員は営業スマイルで答える。
「私は、当店の店長をしています。この店は、街でもそこそこ大きい店ですから。大抵のバイクはあると思いますよ」
 確かに彼の言うとおり、店は広い。
 そして、多くのバイクが綺麗に展示してある。
「それでは、こちらの商品などいかがでしょうか?」
 店員は、幾つか展示してあるバイクのうちの一つを示す。
 そんなに大きくない、エルでも十分乗りこなせそうなバイクだ。
 今まで、エルが乗っていた物と比べると一回りくらい小さい。
「おや? お気に召しませんか?」
「あ、いや、馬力の方が……」
 エルは苦笑を浮かべる。
 確かに、一回り小さいバイクはあまり馬力は出そうもない。
 デザイン重視な感じがする。
「いえいえ。そんな事はありませんよ。エルさんの乗っている物と同等くらいですか」
「え? エルのバイク見てないのによく分かるね」
 カインが不思議そうに店員を見つめる。
 その目は少し疑惑が見え隠れしていたが。
「これでもこの店の店員で、何年もバイクは見聞きしてますから。エンジン音で大まかな馬力が分かるんですよ」
「へぇ……」
「凄いですね」
「いえいえ。これが商売ですから」
 営業スマイルを向ける店員に、エルもカインもただただ感心をした。
「それにこの機種には、最新のオートバランサーやオートナビゲーションシステムが組み込まれていまして……」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください」
 慌ててエルは店員の説明を止める。
「わかんない単語一杯出てくるもんね」
 足下でカインが理解出来ないという顔をしていた。
 もちろんエルもである。
「あ、すみませんね。オートバランサーというのは、このバイクの中にバランスを制御するコンピュータが入っていまして。自動的にバイクの傾きを変え、バランスを均等に調整してくれるんです」
「はぁ」
 上手く理解できない。
 エルの頭の中ではよく分からない説明がまわっている。
「要するに転ばないって事ですよ」
「転ばないんですか?」
「そりゃ凄い。エルなんか止まってるバイクで転んだもんね」
「カインは黙って」
「それにこの前も、食べ物につられてカーブで危うく転びそうに……ぎゃっ」
「黙っててね」
 にっこり笑うエル。
 その足の下にはカインのしっぽ。
 どうやら、カインのしっぽを踏んで口止めをしたらしい。
「ぼ、暴力反対」
「暴言もね」
「あーその、続きよろしいですか?」
 店員はわずかに引きつったような笑みをエル達に向けていた。
 慌ててエルは店員の方に向き直る。
「む、難しい説明は抜きにしても、このバイクはコンピュータ制御されてまして。自動で目的地まで安全に走ってくれる上に、転ばない機能が付いてるんです」
「はぁ」
「自動走行が嫌いな方にはマニュアルモードもありますけどね」
 エルの今乗っているバイクはほどんど手動で動かすタイプのバイクだ。
 コンピュータ化などあまりされていない。
「あの、もし制御部分が壊れた場合、直せるんですか?」
「それは専門技師の仕事ですから、素人には無理だと思いますよ。それに、バイクは壊れたら、新しく新調するのが普通です。1年で新機種は山の様に出ますからね」
「え?」
「直さないの!?」
 驚くエルとカインに店員は営業スマイルを浮かべたままだ。
 何がおかしいのだろう?と言った表情とも言える。
「この街のシステムなんです。壊れたバイクはすぐに再生工場に持って行かれます。そこで、バラバラに分解され、汚れた部品はピカピカに綺麗にして、壊れた部品はドロドロに溶かして、また部品に加工し直します」
「へぇ」
「材料を何度も使う事によって、製品の部品レベルの寿命を非常に長くしているのです。さらに、材料費を減らす事が出来ますし、値段も安くできますから。1台のバイクにずっと乗り続けると、乗り換えの時にはもう鉄クズになってしまうケースが多いですからね。そうなると、再生出来なくなってしまいます。勿体ないと思いませんか?」
「確かにそうかも」
 カインがエルの足下で唸る。
 確かにバイクの値段は驚く程に安い。
「壊れても、専門のスタッフがバイクを分解工場まで運びます。乗り手には煩わしい事なんかありません。商品のサイクルは1、2年です。だから、沢山のバイクや新しい技術が色々体験できますよ」
 店員は得意げに胸を張る。
「どうですか?」
「はぁ」
 エルは曖昧な返事しか返せなかった。

「どうして買い換えなかったのさ。あんなに安いのに」
「壊れたら修理できないのに?」
「だって、専門スタッフが取りに来てくれるって言ってたよ?あの店員さん」
 エルは大きなため息を吐く。
「いい? それはこの街の中であって、私たちみたいなどこにいるかも分からない旅人にそんなサービスしてくれる訳ないでしょ。壊れたら自分で直さなきゃいけない立場なんだから」
「あ、そうか」
「だから、壊れたら手出し出来ないような代物は買えないの」
 たしなめるようにエルは言葉を口にする。
 カインはそれを聞いてふんふんと首を縦に振った。
「エルでもちゃんと考える時あるんだ」
「あんねぇ」
 変な事に感心してるカインに呆れたような困ったような視線を投げる。
「でも、勿体ないかなぁ」
「う〜ん。でも、私はあの街の意見と合いそうもなかったら」
「どういう事?」
「だから、新しいのにころころ変えるのもいいけど、やっぱり長く乗ってると愛着が出てきて、手放し難くなるじゃない」
「一理あるね。エルなんかバイクに名前まで付けたんだし」
 カインの呆れるような視線。
 それをにらみ返すエル。
「何が言いたいワケ?」
「いや、愛着が出るのも分かるし、名前を付けるのは構わないんだけど……その名前がねぇ」
「ポニポニのどこがおかしいの?」
「……エル、今、僕の名付け親がエルじゃなくて心底安心したよ」
「どういう意味よ」
「言ったまんまの意味」
「可愛らしくていいじゃない。カインには私のセンスが分からないのよ」
 カインを強く睨む。
 が、そのカインは何事もなかったように毛繕いをしている。
 一つため息。
 これから何を言ってもカインは聞き流すつもりだろう。
「ほら、行くよ」
「はいはい」
 エルがバイクのスロットを捻って、バイクを発進させる。
 ポニポニという名前とは想像出来ないような爆音と砂煙が舞い上がった。
 

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