バイト
バイト

 なんでこんなバイトしてるんだろう?
 僕は駅前でティッシュ配りをしていた。
 ティッシュ配りのくせに制服支給というところが面白がったからである。
 しかし、その制服ってのがサンタのコスチュームってのが涙をそそる。時期だね。
 手には5〜6個くらいのティッシュしか持ってないが、この普通はプレゼントの入っている袋の中に大量のティッシュが入っているのだ。しかもピンクチラシの。
 涙を誘うが泣いている場合ではない。
 ノルマを達成しなくては給料が危ない。
 「どうぞ」
 目の前を通る人に向かってティッシュをさし出すものの、受け取ってくれる人はわずか。
 寒いこの時期、コートやジャンバーのポケットに手を突っ込んで、手をいちいち出してくれる人は少ないのだ。

 「どうぞ」
 それでも営業スマイルをしながらティッシュを配った。
 ふと、目の前を3人の家族だろう人達が通過する。
 父親らしき人に渡してやろうかと思ったが、家庭崩壊に繋がるだろうと思って渡さないでおく。
 そんな事を考えている自分がちょっと笑えた。
 「ねぇねぇ、サンタさんはちゃんとプレゼントくれるかな?」
 「もちろんだとも」
 「私の欲しいくれるの?」
 「そうよ」
 その家族の小さい女の子の言葉に自然に笑みが零れた。純粋な彼女の瞳に。
 あんな純粋な時期があったんだろう。僕にも。
 「えっちゃんは何が欲しいのかな?」
 「ひみつ。サンタさんにしか教えないの」
 「それじゃ、あのサンタさんにお願いしてきなさい」
 父親らしき人が僕を指差してそんな事を言っている。
 待ってくれ!そんな事言われても……。
 あわあわしているうちにその女の子は僕の前に目を輝かせながらやってくる。
 「サンタさんサンタさん。プレゼントのお願い聞いてくれる?」
 「……う、うん」
 純粋な目に負けて肯いてしまった。子供の夢を壊すような事をしたくはない。
 僕に首を振る事は出来なかった。
 「あのね、クマのお人形さんが欲しいの。だっこできるくらいの」
 「クマのお人形さんかぁ。ちゃんと届けよう」
 「うん!」
 僕との約束を交わすと、女の子は嬉しそうに両親の元へと戻っていき、家族はそのまま3人そろってにこやかに歩いていった。
 どうしたらいいんだろ……?
 ちょっと不安になるが、僕にはノルマがある。あまりぼ〜っともしてられない。
 「どうぞ」
 ティッシュを配り始める。
 寒い中、人の反応は冷たい。
 「どうぞ」
 「はぁはぁはぁ。すみません」
 息を切らせながら僕の前に立っていたのはあの女の子の父親。
 ティッシュを持っている手が止まった。
 「あの、すみません。ちょっと前に来た女の子なんですけど……」
 なるほど。プレゼントを聞きに来たのだろう。
 その場で直ぐ聞かない所がその女の子の夢を壊さないでおこうと言う父親の気持ちが伝わってくる。
 「えっと抱きかかえれるくらいの大きさのクマの人形らしいですよ」
 「そうか!すまないね。おっとティッシュもらえるかい?」
 「あ、はい。よろしくお願いします」
 僕の父親もこんなんだったのだろうか?
 子供に対する親の愛情を感じられずにはいられない。
 「ありがとう。所で……」
 「はい?何か?」
 「このティッシュに書いてあるクリスマス特別ご奉仕サービスってのは本当かい?」

 僕の中で何かが壊れた。

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