鏡よ鏡よ鏡さん

鏡よ鏡よ鏡さん

 むかし、むかし、あるところに、大きなお城がありました。
 お城の女王様はとても綺麗好きです。
 自分が綺麗になる事にはお金に糸目を付けません。
 きらびやかなドレスに、むせたくなる程の化粧、香水、そして宝石。
 毎日鏡を覗いては、自分の姿を見て過ごしていました。
「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのは誰?」
「お答えします。それは、かの森に住む白雪姫です」
 問いに答えた鏡は、女王様ではなく、一人の少女を映し出しました。
 大きな目に、ブロンドの髪が印象的な可愛らしい少女です。
 白雪姫は、嬉しそうに笑い、森の中を散歩している所でした。
 その可憐な笑みは、誰しもがため息を吐いてしまうほど、美しく見えます。
「も、もう一度、問うわ。この世で一番美しいのは誰!?」
「お答えします。この世で一番美しいのは白雪姫です」
 同じ答えを鏡は弾き出しました。
 女王様の限界もココまでだったのでしょう。
 眉が柳眉のように逆上がります。
「何!? あんた! 私よりもこの小娘の方が美人だっていうの!? 目ぇ腐ってんじゃないのかしら? ちゃんと目ぇひんむいて見なさいよ!」
「事実」
「キー! なんて事! こんな小娘に!」
 女王様は怒り狂って、ハンカチを噛みしめます。
「それじゃぁ、この私は、世界で何番目に美しいと言うの!?」
「お答えします。およそ12586番目に美しいです」
「キーーーーーッッ! およそってなによ! およそって!」
「そろそろ現実を見てもらえますか? これでもかなり譲歩した結果なんですが」
 鏡の言葉に、女王様はもうカンカンです。
「欠陥品は、壊してしまわないといけないわね」
 ゆらりと立った女王様の手には、いつの間にかハンマーが握られています。
「ちょ、ちょっと待って下さい!話し合いましょう!話せばきっと分かるハズです」
「黙れ! この欠陥品目!」
「いや、私は正しい事を言っているだけであって…」
「ほう? では私が美しくないと言う訳ですね?」
「いや、鏡見れば、そのとお…」
「余程の欠陥品みたいね」
 女王様はにっこり微笑んで、ハンマーを振り上げます。
 鏡は自分の危機を感じ取りました。
 このままでは壊されてしまいますからね。
「もう一度聞くわ。世界で一番美しいのは誰?」
「お答えします。世界で一番美しいのは白ゆ……あー! 嘘! 嘘です。今順位が跳ね上がりました!女王様が一番美しいです」
「あら? そうなの? やっぱり?」
 ハンマーを振り上げながら言う台詞ではありません。
 鏡は自己嫌悪しました。
 自分が嘘の情報を流してしまったという自己嫌悪です。
 どうしても、目の前の女王様は世界で一番美しいとは言い難いのですから。
「あーでも、やっぱり、白雪姫の方が……」
「黙りなさい! このロ○コン欠陥鏡がぁぁぁぁっ」
 ガシャンという音と共に、ハンマーが鏡に直撃しました。
 はぁはぁと方で息をしている女王様は、まだ怒っているようです。
「ちょっと、この鏡を作った魔法使いを呼んでらっしゃい! こんな欠陥品を作る不届きな輩は罰を与えなくてはなりません!」
 ヒステリーじみた声を張り上げます。
 その表情は、あの鏡が言った事が事実である事を示しているようでした。
「何をしてるの!? 早くこの忌々しい鏡を片付けてちょうだい! 魔法使いの手配は? あと鏡職人も呼びなさい! 最上級の鏡を作らせるのです! 早く!」
 日常にこんな事が起こるので、鏡職人と魔法使いは気が気ではありません。
 次の犠牲者は自分かもしれないと思うと、とても陰鬱な気分になるのです。
 そのために、このお城を、国民は「鏡割り城」と呼んで恐れていました。
 そして、この話が日本に伝わって以来、どこをどう変化させたのか、正月に床の間に飾ったかがみもちをおろして、食べる「鏡割り」の語源になるのですが……。
 それはまた別の機会に。

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