権力
権力

 睨まれた。
 目を合わせないように私はすっと下を向く。
 何故?狙われているの?
 自問しても答えは出ない。
 できる事は、自分は大丈夫だと言い聞かせる事くらい。
 この聖夜に何故こんな緊張をするのだろう?
 さっきまであんなに楽しくゲームをしていたじゃない。
 何か私が悪い事した?イヤ!そんな目で見ないで。
 叫びたい気分。
 しかし、今や、彼の命令は絶対である。
 彼に逆らう事は違反であり、不可能に近い。
 隣の娘もビクビクしながら彼の言葉を待っている。
 余裕の表情は、今や絶対の権利を持った彼だけである。
 みんな脅えているのだ。彼の行動に。そして、彼が口にする命令に対して。
 「何にしようかなぁ?」
 楽観的な声。この場所で一人だけ優位な人間。命令をする事ができる唯一の。
 私は逆にひどく緊張していた。
 ドキドキと胸の鼓動が早く鳴り響いている。
 誰かに聞こえはしないかと脅えている。
 早く開放して、この呪縛から。一つの命令から!
 命令する権利は一人にしか与えられない。でも、それが固定された一人とは限らない。
 次は隣の娘かも知れないし、憧れの彼かもしれない。
 ひょっとすると私かも……。
 そんな淡い気持ちも彼の命令によって崩れるかもしれない。
 泣き叫ぶような命令が下っても、今の私に抵抗する手段などないのだ。
 にやにやした笑いが妙に印象に残ってしまう。
 彼はそんな嫌な人間だっただろうか?
 いや、そうではない。権力が彼をそうさせているのだ。
 ぐっとテーブルの下で拳を握る。
 手の中で小さな紙きれがくしゃりと潰れた。
 「んー」
 品定めをするような彼の視線。
 何を考えているのだろう?誰を狙っているのだろう?
 しかし、指名されなければいいのだ。彼は私の事を本当には知ってはいない。
 それだけが私の頼りである。
 「それじゃぁ……」
 彼の口から命令が下る。
 私じゃありませんように!
 祈る事しか私にはできないのだ。
 「7番の人、腕立て50回!」
 「えええっ。鬼ぃ!」
 叫び声をあげてしまった。
 「仕方ないじゃん。王様ゲームなんだから」
 「ふぇぇん」
 私は泣く泣く腕立てを50回する。
 運動不足なのがたたってか、腕がぎしぎしと痛んだ。
 こういう時に友情など助けにならない。
 「ねぇ、もう1回やろう?負けっぱなしは嫌だからね!」
 「OKんじゃ、もう1回くじ引いてねー」
 聖夜の夜はこうして過ぎ去っていく……。

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