| ラヴ論
「今日はラヴについて語りたいと思うのだが」
「ラブですか?」
「そう! ラヴだよ! ラヴ! アキラクン」
先輩の威厳を見せるべく、なんとなく胸を張ってみる。
部室には、自分と、部員のアキラの2人しかいない。こんな状態では、部活などできる訳もない。と言うわけで、少し先輩らしく後輩に語ってやろうとしているのだ。
「アキラクンには恋人は?」
「い、いえ。ボクはその特定の人とおつき合いというのは……」
「同志よ!」
同じ境遇に合っている後輩の両肩を叩く。これで付き合っているヤツがいるとか抜け駆けをしていたら、話はココで終わっていたかもしれない。
うんうんと頷き、俺はとっておきの笑みを浮かべた。
「そんな事もあろうかと、今日は俺と恋人作成の秘策を練ろうではないか!」
「せ、先輩…」
アキラクンは俺の先輩らしさに感激したのか、瞳を少し潤ませながら、俺を見つめる。
「で、アキラクンの好みは?」
「ボクは、その、頼りがいのある人で、明るい人が」
赤面しながら言葉を紡ぐアキラクン。なかなか初々しい。
なんだか気をよくした俺は、素晴らしい作戦の1つをアキラクンに伝える事にした。
「作戦その1! ポイントは曲がり角と朝!」
びしっと人差し指を立てて、胸を張る。
「はい!」
アキラクンも瞳を輝かせて先輩である俺を見ている。
「朝寝坊をして、食パンをくわえたまま走って登校! そして曲がり角でぶつかる見たことも無い制服の美少女! ぶつかった事を謝まりつつ、そのまま学校へダッシュ! そして学校に着いてすぐ、担任の先生に転校生を紹介されると、そこには先ほどぶつかったヒロインがっっ! って何故にそんなイヤそうな顔をする!? アキラクン」
「先輩、ソレ、本気で言ってますか?」
「もちろん。もう26回くらい行っているんだが、曲がり角で謎の美少女にはぶつからないんだよなぁ……。いや、ぶつからないとフラグが……」
どこで間違っていたんだろうと悩んでいると、アキラクンの大きなため息が聞こえた。何故か哀れみの視線を感じる気がするんだが。
これは先輩としての威厳の危機ではっ。
「いや、今のはジョークだよ。ジョーク。やっぱアレだよ。朝起こしに来てくれたり、お弁当を作ってきてくれたり、色々世話してくれる幼馴染みに焦点を絞るべきだな」
「で? その幼馴染みっているんですか?」
冷たい視線を感じる。
「スミマセン。イマセン」
何故か言葉が敬語になってしまった。先輩なのに。
威厳がだんだん弱くなっている気がしてくる。何故だろう?
「でもこれから作れば」
「それ、幼馴染みじゃないです」
クリティカルヒット! 心に剣がザクザク刺さっていく。
しかしあきらめはしない。まだ作戦はほんの一部でしかないのだから!
「となると、酒を飲んでベロベロになった次の朝、目覚めると見知らぬ美少女が隣にっっ」
「あの、ボク達未成年ですよね?」
にっこりと迫力のある笑みをアキラクンは浮かべた。命の危険を感じて、これ以上のこの作戦の話をするのを辞める。ここからが見せ場だというのに。
「じゃぁ……」
「空から美少女が降って来るのを待つとか言うんじゃないですよね?」
な、なぜその作戦33号の内容をっっ!? もしかしてエスパー?
もしかして、アキラクンは、俺が毎日下校時に、美少女が降ってこないか空を仰いでいるのを知っているのではないだろうか。機密事項だったのに!
「それとも、お兄ちゃんと慕ってくれる後輩とか義妹とか探しますか?」
「ううっっっ」
「考えてたんですか。先輩……」
心底大きなため息を吐かれる。視線はもう刺さるように痛い。
なぜ、ここまで作戦の内容がバレバレなのだろうか? もしかしてアキラクンも試しているのではないだろうか?
「ボクはそんな事やってませんからね」
見透かされたようにそう告げられた。
睡眠時間を3時間も削って考えた作戦が、そんな事呼ばわりぃぃぃ!?
きっとアニメだったら、俺の背後は真っ暗で、雷光が光っているに違いない。
「はぁ、どうしてボク、こんな先輩なんか…」
呟くようなアキラクンの声。
「こんな画期的なアイディアなのに」
「ベタベタな展開ばっかりじゃないですか」
ベタベタぁぁぁぁっっ。
だ、ダブルショーーーーッッック!
オヤッサン……真っ白だ…真っ白に燃え尽きちまいそうだゼ……。
もう立ち上がれそうもない。
「あ! そうだ! 先輩、同じ部活で芽生える恋なんか考えてませんでした?」
いままで冷ややかかだった、アキラクンがなんだか優しげに聞いてくる。
「まぁ、多少はな」
しかし、その相手がなかなか現れないので実行出来ないと言った事は伏せておく。
いや、いつかきっと転校生とか新入生とかでフラグが。
「あの……その相手、ボクなんかどうですか?」
「え?」
一瞬、頭が真っ白になる。
「ボク、先輩だったら尽くしてあげちゃいます!」
「いや、その……」
「先輩が望むんだったら、ボク、なんでもしちゃいます。その……ちょっとエッチな事も頑張りますし!」
「いや、あのな」
「ダメ…ですか?」
上目遣いに顔を下からのぞき込むように見られた。一歩一歩とアキラクンが迫ってくる。
おいしい展開である! これ以上のシュチュエーションはないだろう。
でも、でも、でも!
「男同士はいやだぁぁぁぁ」
「愛は性別も超えます! 大丈夫です! 性別を超えた愛。美しいじゃないですか」
「落ち着け! 動転するな。新手の冗談にしてはちょっと度が過ぎるぞ」
「冗談じゃないです、ボク、本気です!」
変な汗が出てきた。初めての告白がコレかよ。
と、トラウマになるぞ。オイ。
自然と涙が出てきた。もちろん喜びの涙ではないことは確かである。
そこから、部活には出なくなった。
数年後。
大学にも受かり一人暮らし。未だに彼女は居ない。現在彼女イナイ歴は着々と更新中だ。
しかし、なんつぅか空しい生活だなぁ。
潤いってモンがやっぱり……。
考え込んでいると、唐突にチャイムが鳴る。
新聞とかの勧誘だったらイヤだなぁと思いながらも、腰を上げた。チャイムがまた鳴った。
「はいはい、今出ますよーっと」
無造作にドアを開けると、そこには見知らぬ美少女。
線の細い身体に長い髪と大きな目が印象的だ。
「どなたですか? あ、新聞だったら要りませんけど」
「あは。勧誘なんかじゃないですよ」
「だったら、部屋間違ってるんじゃないですかねぇ」
「いえ、ボクは、貴方に会いに来たんです」
感極まったようにその女性は俺に抱きついてきた。
こ、これは作戦46号の「突然の美少女訪問」!? しかも「ボクキャラ」!?
何も考えずに抱きしめる。
「俺も君を待っていたんだ」
「う、嬉しいです」
腕の中で彼女が泣いている。なんだか感動だ!
しばらくすると彼女が俺の腕を優しくほどいて、瞳を閉じて、顎を上げる。
こ、コレはキス!? キスなのですか!
ドキドキしながら、彼女と唇を交わす。柔らかな唇の印象が伝わってくる。
「先輩、ボク、嬉しいです! 女の子になって良かったです!」
「へ?」
「先輩に断られても、ボク、先輩が忘れられなくて。だから手術して女の子になっちゃいました」
「は?」
「いっぱい、かわいがって下さいね」
脳裏に浮かぶ一つの考え。
確認したくはない。いや、この甘い空気に紛れてその考えはどこかにやってしまいたかった。
「アキラ…クン?」
「はい! 先輩! 大好きです! 勝手に住所調べて、押しかけて来たのに、いきなり抱きしめてキスまでしてくれるなんて! ボク、先輩の為に女になって良かったです」
抱きつき、唇を交わされる。
「幸せになりましょうね」
「ははははは」
嬉しげな声を聞きながら、なぜか意識がブラックアウトしていくのを感じる俺だった。 |