どきどき My Heart
私はゆっくりと駅のホームで電車が来るのを待っていた。
次の電車にはきっとあの人が乗っている。
あの優しい笑顔をしている彼が。
一目惚れだった。
あのさわやかなエンジェルスマイルが私を魅了し続ける。
あれは、私に愛の告白を待っているんだわ。
そう!きっとそうなのよ!
彼ったら照れ屋さんなんだわ。
しっかりしなきゃ!ファイト!
でも、どう言おうかしら?
『一目会ったときからアナタに決めてました!』 っていうのはなんだかお見合い番組みたいで……。
やはり雰囲気とか可愛らしくして、ロマンチックに告白しなきゃ。
だから私はある作戦を考えてきたの。
歯磨きもしっかりして、シャワーも浴びた。おにゅーの下着も掃いてきた!
「まずはさりげなく近付いてボディブロー!そして気を失っている間に素早くキスをして、そのまま……」
シュッシュ
数度素振りをしてみる。
昨晩から練習して、すっかりボディブローのキレもいい。
この角度で振り込めば彼の鳩尾にぴったりヒット。
さすがの彼もイチコロよ。
あぁ、私は罪な女ね……。
「やるわよ!」
ぐっと拳を突き上げて叫んだ時である。
「それは無理よっっ!」
「その声はっ!?」
決断を否定され、私ははっと声のした方へと振り向いた。
自然に目線が上へ上へと向かう。
「そんな作戦で彼を落とそうなんて100年早いわっっ」
「大谷先輩!」
振り向いた先というか、駅のキヨスクの屋根の上に大谷先輩が堂々と私を指さして立っていた。
なんと非常識なんだろうと、心の中で小さく思う。
大谷先輩って大学に行ってもこんな事をしているのだろうか?
周りの人の視線がちょっぴり痛い。
「指さないでください」
「ふふふ……ゆかりっっ!よく聞きなさい」
「…………」
「ボディブローよりも延髄蹴りの方が確実だわ」
「はっ!そう言えばっっ」
盲点だった。
延髄蹴りがあったなんて……
でも、それも何か違うと思います。先輩。
頭のどこかで先輩の答えを否定している自分がいた。
「私は延髄蹴りで10人の男をたぶらかせているわ」
たぶらかすと言うのだろうか?
ちょっとした不安を感じる。
「今降りて、その極意を教えてあげるから待ってなさい!とおっ!」
と叫び声をあげながら、一気に飛び降りる訳もなく、うんしょうんしょと格好悪く降り出す。
「降りられないなら最初から登らないでも……」
「そんな訳にはいかないわっっ!登場シーンだけでも濃くないとインパクトってもんが……」
そんな事をしなくてもインパクト大です。
という言葉を飲み込みつつ、私はもっと重要な事を口にした。
「それはいいんですけど……先輩、パンツ丸見えです」
「え?えーーー?」
ばっとスカートの袖を両手で隠したモノだから、先輩はキヨスクの上からドスンっ! と派手な音を立てて落ちる。
スカートなんか履いてくるから……。
キヨスクのおばちゃんが露骨に嫌そうな顔をしていた。
おばちゃん、登る前に注意してあげればいいのに…。
まぁ、私でもキヨスクに登る女の人なんか注意したくもないけど。
中年のオヤジだったら即回し蹴りを入れるわね。
「アイタタタタ」
「それにしても先輩、大学生にもなってクマさんパンツはどうかと……」
「うるさいわね!」
顔を真っ赤にして大谷先輩は怒鳴った。
少しは自覚があるのかもしれない。
「ちょっと君!ここで暴れちゃ困るよー」
本当に困った顔をしながら、大谷先輩を注意する駅員さん。
新入社員なのか初々しい感じが母性本能をくすぐる。
あ、ちょっとカッコイイかも。
と思っているスキに、先輩が立ち上がると同時にくるりと回転した。
そして、そのまま延髄蹴り!
「カッコイイ駅員さん!付き合って下さいっっ!」
ゴスっっ。
鈍い音を立てながら、駅員さんはその場に崩れ落ちた。
「これが大谷美佐の延髄告白よ!」
「先輩、凄いです」
私は目を輝かせながら、大谷先輩の姿を追うが、すでに先輩は倒れ込んだ駅員さんを肩に持ち上げ、その場を後にしていた。
す、素早いっっっ!
さすがは大谷先輩。
感動してしまった。
流れるようなフォームと素早い行動。
私も見習わなくてはっっ。
「ゆかり。成功を祈っているわ」
先輩のそんな声が聞こえたように思えた。
幻聴だったのかもしれないし、本当に言ってくれたのかもしれない。
どちらにせよ、私のやる気のボルテージはどんどん上昇していった。
やるわっっ!
私。絶対に告白を成功させてみせるっっ!
変な興奮をしていると駅に電車が到達して、ぞろぞろと人が電車から降りてくる。
その人をかき分けるようにしながら、私はあの人を捜した。
私の愛しのダーリンになる人を。
「いた!」
彼は私を待っていたかのように微笑みながら、ホームに降りてくる。
思わず顔がぼっと火をつけたように熱くなった。
ドキドキドキドキ。
心臓が高鳴る。
落ち着いて!落ち着くのよ!
自分にそう言い聞かせるものの、ドキドキは止まらない。
犯罪をする瞬間もこんな気持ちなのかもしれないわ。
甘美にも似た鼓動を感じながら身体に力をこめる。
腰をひねり、力を溜め、一気に狙おうとした瞬間であった。
「ねぇねぇ。ゆー君、早くしないと映画始まっちゃうよー」
「大丈夫だって。千里は慌てるとコケるんだから」
「私そんなドジじゃないよー」
「この前もそんな事言って、派手に転んだじゃないか」
「あ、あれはゆー君が悪いんだからね!」
「はいはい。ちゃんと歩こうな」
「むぅ」
彼の隣で彼の腕をとりいちゃつきながら笑っている女!
思わず目標がずれる!
ちょっと可愛いからって浮かれてるんじゃないわ。
「私の(未来の)彼にくっついてるんじゃないわよっっーーー!」
延髄蹴りがあの変な女にきれいに決まる。
ゴスンっっ!
その後、その泥棒猫のような女は白目を向いてぶっ倒れた。
口から泡が出て、とても見れた顔じゃない。
無様ね。
「ち、千里!千里大丈夫か?おい。しっかりしろ!」
彼の彼女に対する絶望にも私への愛情にとも思える声が私にも聞こえた。
これで彼は私のモノ。
でも、今日はこれくらいにして、明日またレッツトライ
私たちの恋は誰にも邪魔できないのよ。
私はそんな気持ちで一杯になりながら、スキップで駅のホームを後にする。
大谷先輩。
私負けませんっっ!
きっとあの彼をGETしてみせます! 見てて下さい。
私の額の汗が太陽に当たりきらりと輝いた。
明日の未来が輝いてみる。
私は明日に向かって大きく深呼吸をした。
この物語はフィクションであり登場する人物名、また団体名、法人名はまったく関係ありません。また、物語中の行為をする場合、警察などに捕まるおそれがある表現があります。実際に試すなどと言うことがないようにお願いします。
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