ソウイウ関係
ソウイウ関係

 私には付き合っている人がいる。
 まだ肉体関係はない。
 というか、私が途中で中断させてしまった。
 初めては痛いと聞いていたけど、あれほど痛いとは思わなかった。
 本当に裂けると思うくらい痛い。
 彼には中断させてしまって悪いと思ったけども。
 あの痛さは半端じゃない。
 それで、彼に嫌われたんじゃないか?
 憂鬱。

 私は読んでいた雑誌を放り、ベッドに倒れ込んだ。
 読んでいた雑誌はそのアレの体験談がイロイロ書いてあるという、女性向けのソウイウ本。
 男は写真とか画像で興奮するけど、女はなんていうか、体験談とか言葉から想像をしてソウイウ気持ちになる。
 女はソウイウ気分にならないと思ってる人がいるかもしれないけど、そんな事はない。
 現に私だって、彼氏に抱かれて気持ちよくなりたいと思っているし。
 あぁ、最後までヤるより、彼に触られてる方が気持ちよかったなぁ。
 「あれから誘ってくれなくなっちゃったけど」
 天井を仰ぐ。
 やはりヤれない女は嫌いなんだろうか?
 雑誌に書いてあるのは、「こんな凄い事しました」的な事が多くて、「初めての失敗」とかは少ない気がする。
 それでも、同じような事をした同姓の記事を見ると、ほっとしてしまう。
 「はぁ、女ってなんで初めては痛いのかなぁ」
 一人呟く。
 もちろん、答えてくれる人はいない。
 あの時、あんな痛くなければ、彼を拒まないのに。
 「男はちゃんと最初から気持ちイイっていうのに」
 不公平だ。
 漫画であるような事はファンタジーであって、現実は難しい。
 最初から一緒に気持ちよくなるなんてある訳ないんだ。
 彼に嫌われたかな?
 やっぱ、最後まで頑張って、みなきゃだめだよなぁ。
 痛いのは苦手って逃げてたら彼にも愛想つれてしまうかも。
 「明日、明日がんばろ」
 私は明日のためにベッドに潜り込んだ。

 朝は少し早起きを心がけている。
 彼に会うためだ。
 早速彼の後ろ姿を発見。
 昨日の事もあって、少しドキドキしながら声をかけた。
 「オハヨ」
 「あ、あぁ」
 振り返らずにそれだけが返ってくる。
 今日は不機嫌らしい。
 声からしてなんだかピリピリしていた。
 そんな彼の機嫌を取ろうと、私は明るい声を出す。
 「どったの?不機嫌だよぉ」
 「あーなんでもない。なんでもない」
 「嘘。私の顔見ないじゃない」
 なんで、こう分かりやすい嘘を言うかなー。
 意地っ張りというかなんというか。
 このままでは、登校している間、ずっとこんな感じ。
 それを回避ようと、彼の前に飛び出す。
 彼の顔を見て
 「うわっ。表情が不機嫌そのもの」
 なんというか、不機嫌の固まりみたいな顔をしていた。
 「昨日眠れなかったんだよ」
 私から目を反らして彼はそう言った。
 それにしても酷い顔。
 心配になってしまう。
 「頑張りすぎじゃない?」
 進学が関わっているとはいえ、身体を壊したら元も子もない。
 「就職組に言われたくないね」
 「あー酷い」
 彼の皮肉に近い言葉を聞いて、抗議の声を上げる。
 あくまで口調は軽く、彼の雰囲気を柔らかくしようと微笑む。
 「うるさい!俺、三浦と馬鹿やってる暇ないんだ。先行くぜ」
 「あ……」
 突然彼が走り出す。
 凄く怒ってた。
 それが口調から分かって私は追いかけられなかった。
 「馬鹿なのはどっちよ……」
 誰にも聞こえないような声で私は呟いた。

 「そんなの、ヤっちゃえばいいのよ。そのうち気持ちよくなるんだから」
 「そうそう。男なんてタンジュンなんだから」
 「ま、そこが可愛いトコなんだけどねー」
 友達に相談をすると、そんな風に答えられた。
 「でも、彼、受験組だし…あんまりソウイウ事してる暇なさそう」
 「馬鹿ねー。男なんかソウイウ事しか考えてないよ」
 「それにあんまり彼氏のペースに合わせてるとツゴウノイイオンナとか思われるって」
 「たまには積極的なのも彼氏燃えたりして」
 「言えてるー」
 ケケケと下品に笑われた。
 周りのみんなは結構経験済みの娘が多くて、結構ためになる。
 ただ他人事だと思って、面白がっている点も考えなくてはいけないけど。
 「うー。他人事だと思って」
 「だって他人事でしょー」
 「そう言われると……」
 「いいから、今日は三浦から誘ってみ?」
 「うー」
 そんな無責任発言に、私は背を押される事になった。

 下駄箱で待ち伏せ。
 ここなら彼は絶対通る。
 嫌われてません様に。
 そんな事を祈りながら彼を待つ。
 「あ……」
 やっと来た。来るまでの時間はそんな長くはなかったが、私にしてみれば、凄く遠い時間待っていた気がする。
 ちょっと複雑な気分だ。
 「一緒に帰ろ」
 手を差し出す。
 が、彼はその手を握りしめてはくれなかった。
 不安が募る。
 「私の事、嫌いになった?」
 「え?」
 驚いたような表情を彼は見せた。
 が、安心は出来ない。
 肝心の部分を聞いていないからだ。
 「やっぱり、ヤれない女は嫌?」
 「は?」
 「最近、そういう事しようって言わなくなったし。今日もなんか冷たいし」
 結構女からこういう事を言うというのは勇気が居るのである。
 彼にそれが伝わるかどうか分からないけど。
 「エッチできない女じゃダメ?」
 凄く不安で、凄く怖かった。
 ここで「嫌だ」なんて言われたら、私はどうすればいいのか分からなくなる。
 賭だったのかもしれない。
 「あのさ」
 「うん」
 「話しながら行くか?」
 「うん」
 ぎこちなく二人で学校を後にする。
 気まずい雰囲気。
 足音と二人以外の喧噪しか聞こえない。
 「えっと…」
 「うん」
 不意に彼が口を開く。
 「三浦の事嫌いになった訳じゃないから」
 「本当?」
 「受験の事でちょっとイライラしててさ」
 彼の見せる苦笑は照れ隠しなんだろうか?
 でも、嫌われていないと分かると一気に脱力しそうになった。
 肝心の部分を聞いていないけど。
 「でも、今日は凄く怖かった」
 「え?」
 「なんだか、全然話聞いてくれそうじゃなかったし。このまま別れようとか言われそうな雰囲気で。私、凄く不安だったんだからね!」
 嫌われてないと分かると、一気に不満が口から出た。
 思いっきり睨んでやる。
 「私があの時最後まで出来なかったのがいけなかったのかな?とか、なんか悪い事言っちゃったのかな?とか色々考えたんだから!」
 「ごめん」
 「ごめんじゃないんだから!私、凄く不安だった!……ねぇ、一人で悩むの辞めようよ。私、馬鹿だからあまり力になれないかもしれないけど。それでも力になるよ」
 不満と同時に彼の力になりたいという気持ち。
 一人で悩む彼は、なんというか、母性本能をくすぐられる感じがする。
 彼は素直じゃないからそう簡単には話してくれないかもしれないけど。
 「笑うなよ」
 「笑わないよ」
 確認される。
 もちろん笑うつもりはない。
 「昨日読んだ参考書に、生命誕生は化学反応で立証されるとかいう話が書いてあったんだよ」
 「それで?」
 「なんか怖くなったんだよ。こんななんでも化学式とか化学反応で証明されてたら、俺の怒ってる事とか、悲しんでる事とかって何だろうって。もしかすると、鉄が酸化するのも、俺が呼吸するのも実は変わらない事なんじゃないかって。三浦への…その…好きだって気持ちも」
 「難しい事考えるんだ」
 なんだかよく分からないというか、そんな難しい事考えてるんだなーと変な気分になる。
 でも、考えてみると、それは凄い事な気分がしてきた。
 「私は頭良くないから納得できるような事言えないけど、私を好きだって気持ちは呼吸と同じレベルなんでしょ?」
 「鉄の酸化もな」
 「それって凄い事でしょ?呼吸しなきゃ人間死んじゃうんだよ?それと同じって事でしょ。私を好きってレベルは呼吸並みに普通で、必要な事なんじゃない?鉄が錆びるのだって自然でしょ?その自然と同じくらい私の事好きなんだよ」
 なんだ。彼ってば私の事嫌いじゃなくて大好きなんじゃない。
 嫌われてるとか考えて損した。
 「恥ずかしくないか?」
 「いいでしょ。別に聞いてる人他にいないんだから。ふふふ。そっか。私ってそんな必要だったんだ」
 「あんなぁ」
 「否定しないトコが怪しいぞっ。私と別れたら呼吸が出来なくなるくらい苦しいんだからね」
 もう嬉しくてたまらない。
 彼に凄く必要とされてると思うとスキップしたい気分になった。
 もうこの場でぎゅーっと抱きしめてあげたい気分。
 嬉しくて嬉しくて、彼の背中をバンバン叩く。
 「このこのぉ」
 が、その手を止められて、ぎゅっと抱きしめられた。
 「へ?」
 「んじゃ、その証明しないとな」
 「ん?」
 唐突に唇を塞がれた。
 なんか凄く嬉しくて、私は抱きしめられたまま、彼に身体をすり寄せるように甘える。
 「あ、あの」
 「ん?」
 「元気出たついでなんだけど」
 「おう」
 「ラブホ行こう?最後まで頑張るから…ね?」
 恥ずかしいが、言ってしまった。
 こんな私の事を好きでいてくれる彼に、私も証拠を見せなきゃいけない。
 今度こそ、今度こそは痛いのを我慢するぞっと変な力を込めながら。

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