卒業

卒業

 この物語はフィクションであり、登場する人、団体、法人名等一切関係ありません。

 卒業式の校長の話なんて面白くも何とも無い。
 ただ、いつものごとくウダウダ何か言ってるだけである。
 「暇だ……」
 大きな欠伸と共に、そんな言葉が口から漏れる。
 卒業式でもつまらないものはつまらない。
 唐突に、校長の話が面白くなる訳でもない。
 これから卒業して、こんな話を聞けなくなるかと思うと、少しだけほっとした。
 「早く終わんねーかな?」
 隣の奴に話と、奴も苦笑を浮かべて
 「終わって騒ぎたいってのにな」
 と答えた。
 誰も思いは一緒らしい。
 ウワサではあの校長、ズラだって話だ。
 最後に礼をする時にポロっと落ちねぇかな?
 「え〜、では手短ながらこれをお祝いの言葉と……」
 ありきたりな言葉で絞める校長。
 礼をした時、もちろんズラだと思われる髪は落ちなかった。
 それから続く来賓の挨拶やらなんやら、卒業生にとって本当にありがたいのか、その人が単に喋りたいだけなのかよく分からない祝辞を終え、手にした卒業証書を持ってその場を後にした。
 「泣いたか?」
 「いや、でも、アイツ泣いてたぜ。2組の後藤」
 「ホントかよー。あの後藤が?」
 教室に戻れば、そんな話が聞こえてくる。
 俺も興味がない訳ではない。
 うずうずとした好奇心を持ってその話の輪に加わろうとした。
 「待て!友よ」
 ふいに声をかけられる。
 この恥ずかしくなるような声は……。
 「佐々木、俺はお前に用はないぞ」
 「何を言うか!?未来のマンガ界を背負って立つ心友をっ!!」
 「誰がだ!誰が」
 「向井、お前しかいないだろう!お前になら分かる!この熱きマンガのハートが」
 「んなもん知りたくもないわ」
 俺はどっとした疲れを感じながら佐々木と向かい合った。
 こいつと話しているだけで疲れるというのに、美術部で賞を取った事に目を付けられこうやって勧誘されている。
 何やら、同人誌とか作っているらしいのだが。
 「大丈夫。お前ならきっと俺を超えられるぞ」
 「超えてどーする。超えて」
 「もちろん、他の奴等とは桁違いの同人誌を発行してスバラシキ道を歩むのだ!!2次元の魅力を魅せしめていくのだぁ」
 「勝手にしろ」
 相変わらずのアホらしさにどっと疲れが出るような気がした。
 「くっくっく。そう言っても心はこっちの世界に傾いているのが分かるぞ。心友よ。俺は感じるぞ!お前の燃え盛る炎のような心をっっ!!」
 「いっぺん死んでこい」
 軽い頭痛に頭を抑えながら、俺はふらふらと教室の外へと出た。
 教室内では、まだあの佐々木のバカが騒いでいる。
 ウルサイ。
 「ヒロシ、大変そうだね」
 「あん?正樹か」
 「あはは」
 教室の外で声をかけたのは正樹だった。
 バスケット部のくせにあまり背が高くないのに、素早い動きを買われレギュラーを2年の頃から取っていた奴で、俺の幼なじみ。
 童顔のせいか、女子にはやたらもてていた。
 「なんでこんなトコにいるんだよ?お前4組だろうが」
 「あはは。ちょっとね」
 「どうせ、女子に第二ボタンくれとか騒がれて逃げてきたんだろ?」
 羨ましい奴め。
 俺なんかすべて揃って帰るのが目にみえてるぜ。
 「ヒロシは?」
 「俺はいつものだ」
 「大変だね」
 「お前ほどじゃねぇよ」
 苦笑を浮かべて正樹は手を振る。
 まぁ、考えて見れば、コイツの方が羨ましい限りである。
 なんで俺があんなバカで、正樹は女子なんだ?
 神様ってのは不公平だぜ。まったく。
 「僕にはどうでもいい事だし」
 「おーおー。言うねぇ。このモテモテ君は」
 「そうじゃないよ」
 苦笑を浮かべたまま、正樹は否定をした。
 何故か、奴の頬が赤い。
 何照れてんだか。
 「いや、僕が好きなのはヒロシだから………」
 「は?」
 「好きなんだ!ヒロシ、ずっと前から」
 倒れそうになる意識を寸前でおしとめる。
 って、もしかしてこれは?
 告白とかいう奴?
 全然嬉しくないのは何故だろう?
 頬に涙が流れるのは何故だろう?
 「こんな卒業いやだぁぁぁぁぁぁ」
 がばっ!! 
 辺りを見渡す。
 俺の部屋だ。
 「なんだ夢か」
 酷い夢を見たもんだ。
 汗でぐっしょりになったパジャマから制服に着替えた。
 こんな時に乗り気ではないが、卒業式だ。
 気が重い。
 トゥルルルル……トゥルルルル……トゥルルルル……。
 電話のベルが聞こえ、俺は慌てて電話の前に移動する。
 「はい、もしもし向井ですが?」
 「あ、ヒロシ?正樹だけど」
 「な、なんだよ」
 夢の事も重なって声が少し上ずる。
 「実は大切な話が……」
 ガチャン。
 そこまで聞いて俺は静かに受話器を置いた。
 スマン。
 静かな朝をしばらく堪能する。
 平和だ。
 ドンドンドン。
 「友よ!朝だぞ。今日という晴れ舞台を踏み台にしてマンガの世界にダイブする時が来たのだ!!」
 ドアの向こうから佐々木の怒鳴り声が聞こえる。
 近所迷惑を考えろっちゅーに。
 ため息を吐きながら、俺は玄関のドアに手を触れふと思った。
 これ以上ない重い気持ちで。
 まさか、あれ、正夢なんかないよなぁ………と。

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