勝敗
勝敗

 秋風が吹く空。
 グラウンドではにぎやかな声が聞こえてくる。
 そのフェンスの向こう側。
 声から一番遠くの場所に一人の少女が立っていた。
 学園の生徒だろう。
 2年生を示す黄色いネクタイが見える。
 彼女は、何も言わず、一人でグラウンドを見つめていた。
 にぎやかな声が聞こえている方角を。
 サッカーの試合。にぎやかな原因。
 秋風の吹くグラウンドを走り抜けていく選手の姿。
 その中の一人を少女の視線は追いかけていく。
 残り時間が少なくなっていく。
 1−1の同点。
 ぐっと両手でフェンスを握りしめる。
 彼女の視線は一人の選手をただひたすら追いかけた。
 刹那、ボールが少女の追いかける選手に渡る。
 目が大きく開いた。
 息をするのを忘れているのではないかと思うくらいに、じっと見つめる。
 一人……二人……三人…
 なんとか相手をかわし、前へと進む。
 四人目!
 その瞬間、彼女の視線からボールが消えた。
 選手も同じだったかもしれない。
 そのまま、転倒。
 ボールは相手側の選手に奪われている。
 フェンスを掴んでいた両手に力がさらにこもった。
 選手は暢気に寝ている場合ではない。飛び起きると、ボールに向かって走り出す。
 が、その前にボールは逆サイドの相手にパス。ボールは綺麗に通った。
 違う選手がボールを持った相手にプレッシャーをかけるが、惜しくも抜けられる。
 再度パス。
 ボールは上空を動きながら、中央へ。
 一人の選手がパスカットの為にジャンプ!
 が、ほんのわずかに左にそれて、ボールはそのまま中央に向かう。
 着地時点を、彼女はじっと見つめた。
 見守ってきた選手と、相手の競り合い。
 お互いの身体を張り合う!
 なんとかヘディングをして競り勝った。
 が、ボールは相手の足下に転がる。
 ボールを奪って、一人ゴール前で手を挙げている選手に向かってパス!
 ボールは上空を飛び、手を挙げていた選手の胸へ。
 はっとゴール前を見た時、相手側の選手がゴール目がけてシュートを繰り出していた。
 右にのびていくボールをなんとかキーパーが弾く。
 少女は安堵のため息をついた。
 が、その刹那、再度こぼれ球を拾われてシュート!
 笛の音が聞こえる。
 はっと顔を上げる少女。
 見えたのは、ゴールの中に転がっているボール。
 少女は目を擦って再度ゴールの中を見る。
 が、その白黒のボールの姿は消えない。
 がっくりと項垂れる選手。
 喚起にその場で飛び跳ねている相手の選手。
 それが何を意味しているのか分からないほど、彼女は愚かではない。
 ぐっとフェンスを握る。
 が、フェンスはカシャンと小さな音を立てただけ。
 彼女の姿に誰も気付かない。
 選手は項垂れ、逆側ではガッツポーズを決めていた。
 大きく深呼吸。
 なんとも言えない笑みを浮かべて、少女はその場を去った。

 「んで?試合はどうっだったん?」
 「ロスタイムぎりぎりで点を取られて負け」
 「あらま」
 残念そうな表情を浮かべながら、スナック菓子を口に含む。
 が、不意ににやりとした表情を浮かべた。
 「んじゃ、私の勝ちということで。500円ね」
 「くぅぅっっ」
 小さな財布の中から、500円硬貨を一枚取り出して、相手の手の中に納める。
 「次は絶対勝つ!次はバレー部の試合で勝負!」
 「ふっふっふ。受けてたちましょう」
 騒がしい放課後の中、いつも通りの空気が流れていた。

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