透明
透明
 
 博士は満足そうに笑みを浮かべながら振り返った。
 「ついに完成した!『他人に自分の事を分からなくする装置』が!」
 相変わらず博士は回りくどい事をいう。
 でも、私にはそれがハッキリと分かった。
 他人に、自分が分からないと言うことは透明になると言うこと……それはつまり、『透明人間』になる装置なのだろうと。
 「しかし、これは悪用されても困るモノだ。きっちり保管しなくてはならい」
 「そうですね。変な人間の手に渡ったら大変です」
 私はうんうんと頷いた。
 ひょっとすると、透明になる装置と聞いて、テロや犯罪に使う者が出てくるかも知れない。
 遊び半分で使うような代物ではない事は明白だった。
 しかし、私は博士の目を盗んで、ほんの少しだけその装置を起動させる。
 使い方は助手として私に快く博士は教えてくれていたのだから、試すのは簡単だった。
 びりっと痺れが来たと思ったが、それ以外は何もならない。
 用意した手鏡に自分の姿が写らない事を試そうと鏡を覗き込んだ。
 が、そこには間違いなく自分がいる。
 消えていない?
 首を捻っていると、そこに博士がやってきた。
 「あ!博士、こ、これはですね……」
 あわてて言い訳を言おうとしたが、その前に博士が口を開いた。
 「君!勝手に私の研究所に入り込んでそういうつもりだ!?」
 びっと身体をすくめる。
 そんなに怒っているのだろうかと心配になる。
 が、博士の目が真剣な事に気が付いた。
 「す、すみません。科学的好奇心というかなんというか……」
 「そんな事はどうでもいい!君は誰なんだ?どうやってココに忍び込んだ!?」
 「え?……だ、誰って…いやだなぁ。博士の助手じゃないですか。そんなに怒らないで下さい。この件に関しては全部私が悪いんですから」
 「誰が君なんて見ず知らずの人間を助手になんてするものか!」
 博士は私をまるで他人を見るような目で私を見ていた。
 その時、はっと気付いた。
 そうか!博士の作った装置は『他人に自分の事を分からなくする装置』。
 つまりは自分を自分と認識させないための装置だったのだ。
 過去を清算したい人間なら大喜びだろうが、私は単に自分の必要な過去を消したに過ぎない。
 これからどうすればいいのだ?
 きっと両親も私を私と見てくれまい……。
 途方もない恐怖が襲いかかって、私は更に顔を青くした。

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