2.村人LV1

「お引き取りくださいマルス王。私はもう傭兵ではありません。今はただの村人なんです。」
 タリス島の小さな家の庭で、白いユリの花に水をやりながら、すっかり老け込んだオグマが言った。
「な、なんだってぇ!?王自ら供を頼みに来たのに行けないだとぉっ。」
 僕は怒ってオグマが水をやっている鉢を叩き落した。
「あっ、なんてことするんですっ!『スウィート・ナバール』が、『スウィート・ナバール』が折れてしまう……。」
 オグマ……お前……。

 僕がわざわざタリスへ足を運んだのは、例の盗難のせいだった。
 カインが持ってきた「こんなもの」には、裏にも文字が書いてあったのだ。それはマリクからのメッセージだった。

  親愛なるマルス

 元気かい?僕の太ももは今日もむき出しだ。と、言いたいところだけれど、実はもう司祭になっててね。太ももは出せなくなったんだ。ごめんよ。
 ところで今、君の国所有の王家の武器を盗んでるところなんだ。
 理由はね。夢を叶えるためさ。
 僕の夢は世界征服。
 手始めに、君の首から頂きたい。王家の武器を返してほしければ、独りで僕のところへ来るんだ。そうすれば王家の武器は宅急便でアリティア国に送ってあげる。
 おいでませ。カダインへ。
カダイン王マリクより。


 いつの間にカダイン王になったのかは知らないが、マリクはこう書いていた。
 突然何なんだ。
 マリクもひどいと思うが、アリティア国の連中はもっとひどかった。
 マリクのメッセージを読んで、連中の言ったことなんてこんなんだっ。ちょっと読んでくれ。シナリオ風にしてみたぞ。

アベル 「と、言う事はぁ、マルス王だけ差し出せば
王家の武器は戻ってくるわけですね?」
カイン 「首は取っちゃうみたいですけど、王の首と
引き替えに王家の武器が戻ってくるわけだか
ら安いものですよ。」
ドーガ 「シーダ王妃がいなくなるのは国にとって一
大事ですが、王がいなくなるのは俺達ちっと
も困りません。」
Jガン 「というわけです。王。早くカダインへ行っ
て下さい。」

 何かが……何かが違うと僕は思った。思えば僕がメディウスを討たなかった、そのときから何かが狂い始めたのだ。
 とにかくカダインに行かねばならなくなった。シーダの助言で、各地の強者をスカウトしてから、それをお供にカダインに向かうつもりだった。シーダは言った。別に殺されに行くことはない。強者を連れて行って、おどすか戦うかしてくるのです、と。シーダありがとう。でも行くなと言ってくれる方がもっと嬉しかった。

 と言うわけで、最初にタリス島の強者オグマを訪ねたわけだが……。この男一体何があったんだ。
「ああ……。スウィート・ナバール……葉が一枚折れてしまった。」
 僕がオグマの情けない様子に呆気にとられていると、隣の家から一人の老人が出て来て僕にこう言った。
「お若いの。オグマさんはそっとしておいてもらえんか。オグマさんは三年前にちょっと辛い事があっての。それ以来、ワシより心が年寄りになってしまったんじゃ。」
 僕は聞いた。
「三年前に何があったんですか?」
 老人はニヤリと笑った。
「聞きたいか?お若いの。」
「勿論聞きたいです。」
「お若いの。お若いが年はいくつかな?」
「19歳です。それが何か?」
「良かったのう。この話は18禁じゃ。」
 老人はそう言うと、棒についたアメを差し出した。
「聞くならば、ホレ、アメの一本でも買わんと気分出ないじゃろ。」
 僕はよくわからないままにそのイチゴアメを買わされた。
「ちょっと待っていなされっ。」
 老人はそう言うと、一度家に戻り、それからゴロゴロと言う音を立てて一つの物を引きずって来た。
「この話は絶対紙芝居でやると決めておるのじゃ。ほーれ拍手、拍手ぅ。アンタ、せっかくアメ買ったんなら食べなさいよ。」
 老人はレトロな感じのする紙芝居の台を僕の前に置いた。
 一枚目にはまだ絵は無く、「オグ×ナバ紙芝居」とだけ書かれている。
 僕はアメを食べながら聞いた。
「『オグ×ナバ』って何ですか?」
「オグマとナバールの略じゃ。」
 ナ、ナバールだとぅ!?なんでここにナバールが出てくるんだ。
 僕が動揺しているうちに紙芝居は始まった。
「オグ×ナバ紙芝居の始まり始まりぃー。」
 アリティアとドルーアの戦い。それが終わった頃、その美しい青年は不思議にも空から落ちてきたのでした。
 運命に導かれたのでしょうか。それがまた不思議にも、落ちた下はオグマの家のオグマのベットだったのです。
「な、なんだってぇ!?」
 僕は驚きのあまり、舐めていたイチゴアメを飲み込んだ。幸いアメには棒が付いていたので、僕はもう一度それを取り出した。
 僕がアメを引き出している間に、老人は紙芝居の紙を替えた。ここで初めて絵が出る。
「お?」
 僕はちょっと喜んだ。
 そこには繊細なタッチで描かれた美しいナバールがいた。ベットに横たわって寝ている。落ちたときにでもケガをしたのか、右腕と右足に包帯を巻いている。布団は申し訳程度にしかかかっていない。
 僕は抗議した。
「ちゃんと布団かけてやってくれ。」
「でも美しいじゃろ。その演出。この絵、ワシが描いたんじゃ。誉めてくれ。」
 うん。確かに美しいがな。
 布団がかかっていないせいで、足がむき出しになっている。ズボンも穿かせてない。腰のあたりをビミョーに衣服が隠してるのがニクイ。
 その美しい青年はナバールと言いました。
 ナバールは、手当てをしてくれた賢者に、
「賢者とはワシのことじゃっ。」
健気にも恩返しがしたいと言いました。傷ついた体で闘技場へ行ってお金を稼いでくると言うのです。
「な、泣かせるじゃないかっ。」
 僕はアメを食べながら、じゅるじゅると泣いた。
 賢者はそれを止め、もし礼をするなら、この家の持ち主が帰って来てから彼にしなさいと言いました。
 賢者は、家の持ち主オグマがいい人なので、礼など要らないと言うとふんでいたのです。
 ところが!
 ここで絵が替えられる。
「げえっ。」
僕は思わず王らしからぬ声を出した。(「今更何を……」なんて言うなよ。)
 新しく出てきた絵には、オグマがいきなりベットの上のナバールに覆い被さるところが描かれていたのだ。
 思わずアメを地面に落としてしまった。
 オグマはナバールに会うなり、その体に覆い被さっていったのです。
 オグマはナバールに言いました。「礼ならカラダがいい。カラダ、カラダだ!お前が落ちて来るときブチ抜いた屋根代も皆カラダで支払え。それ以外では受け取らん!」
「ちょっと待てよ、会うなりって……。事情はいつ話したんだ。」
「オグマさんが覆い被さって、既に興奮し始めているときにワシが話した。」
「こんなカワイソウな事になるのわかってるんなら、言わなきゃいいじゃないかっ。」
「ワシ、律儀なんじゃ。」
 ナバールはそれを聞くと急におとなしくなり、オグマに身をまかせました。
「エ―――ッ!?」
「本当なんじゃよ。『それ以外では受け取らん』と言われた途端にどーゆー訳か……。」
 そういえばナバールって変に律儀なとこあったんだよなぁ……。でもあの誇り高い人が……なんてことだ。
「この紙芝居はここからがええんじゃよ。」
 老人は絵を替えた。
「うわぁぁ……。」
 新しい絵を見て僕はよろめいた。
 オグマはまず、ナバールの耳から責めていった。
「あの、ジィさん、ジィさん?これ、文章今まで敬体だったと思うんですけど……。」
「やおいはの。常体のほうがカッコイイんじゃっ。」
 カッコイイって言ったって……おい。
 ナバールは頑なに目を閉じ、自分の反応を見せようとはしなかった。
 ああ、なんで僕は好きな人が他の男に色々されてる紙芝居なんか見なきゃいけないんだ。
 僕は老人の語りをなるべく聞かないように努めた。しかし断片的にやっぱり聞こえて来る。
 オグマの舌がナバールの
「うわ――っ。」
に触れたとき、ナバールは自分の唇を血の滲む程噛んで耐えた。
 オグマはそのまま舌をナバールの
「ひえ――っ。」
に差し入れ
「するなーっ。」
した。
 くりかえしオグマが
「く、くりかえしだとォ……。」
していくうち、反応を見せまいとするナバールもついに声を漏らす。
「ん……あっ……ああ……ン。」
 僕はジジィを殴った。
「お、お若いの……。いいところですのになぜ殴るのじゃ……。」
「お前がナバールの喘ぎ声を演じるなんて許せんからだ。それに大体何故お前がそんなに詳しく知っているんだっ!今のなんかウソに決まってる!」
「のぞきましたのじゃ。」
「え?じゃ、じゃあ本当のことなのか?今の全部……?全部ホント?声とかも……?」
「ホントーですじゃ。お隣のよしみでのぞいていたわけですじゃ。」
「……。」
「続きを聞きたいじゃろう。」
「…………うん。」



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