3.アカネイアの人々

 キング・レベル一の僕は老けこんだ村人のオグマを連れて、此処アカネイアへ来ていた。
 オグマに戦力が期待出来ない為に、ここでなんとか強力な助っ人を見つけたいと思ったのだ。まとめて何人か来てもらうのが理想的だ。
 ドルーアとの戦いの時に、重点的に育てていた人物が此処には何人かいる。
 まずはスナイパーのジョルジュ。
 街の人に人相書きなどを見せて聞き込みをする。
「あ、あの美形スナイパーね。カラオケ酒場でいつも歌ってるわよ。そうね。もう夕方だから、今行ったら会えるんじゃないかしら。」
 早速行ってみた。
 街で女の人(目がちょっとナバールに似ていてドキドキした)に教えてもらった酒場。そのドアを開ける。
 うわ。ほんとにいた。いきなり歌っているところだ。


   ♪弓をキリキリ
    心臓めがけ
    逃がさない
    パッと
    ね・ら・い・う・ち

    神がくれたこの美貌
    無駄にしては罪になる
    世界一の兵士だけ
    この身に触れてもかまわない
「ジョルジュ!」
 僕は腰を振り振り歌っているジョルジュに声をかけた。
「サインなら後にしてくれ。……あ、マルス様。」
 「狙い撃ち」の伴奏が響く中、僕は事情を話した。
 ジョルジュは少し考え込んでからこう言った。
「ゴードンも行くのですか?」
 あっ、そうか。ジョルジュはゴードンがお気に入りだったんだったよな。ゴードンをエサに釣ればいいんだったりして。
「今連れて来てはいない。彼はまだアーチャーだし、僕は危険かなぁと思ったんだ。……でもジョルジュが行くと聞いたら、すっ飛んで来るだろうね。アリティアに手紙を出してゴードンを呼んでみようか?」
 ジョルジュはクールな表情を崩さずに、顔だけ赤くして、「はい」と言った。
 やったね。これで強いスナイパー一人をキープしたぞ。
 約束通り、手紙を書いた。指定の日時にカダイン城前で待ち合わせしましょう、と。
 安いペガサス便、安全で、も少し安いドラゴン便。僕は一番高いワープ便で手紙を送った。国民の血税を使った。こういう時しか自分が国王であるということの実感がわかない。はっきり言って他に機会もない。
 日が大分沈んできたな。夕食時だな。

「で?夕食時に私の家を訪ねて来たその御用件は?」
 ひきつりながら司祭リンダが言った。彼女もアカネイアの住人だった。
「御馳走してくれるなんて、悪いなぁ。あ、庶民の食べ物でいいからね。気をつかわなくていいよ。」
「御用件は?」

 リンダにカダイン行きを断られた。オーラは封印したし、静かに、ひたすら静かに暮らしたいんだ邪魔すんな、とリンダは言った。そんな言い方する娘じゃなかったのに……。やはり僕が王になったことで、以前と感じが違うから戸惑ったのだろうか。何もしていないようでも威厳は出るものだ。やはり血筋かな。
 しかし一番優秀な司祭に断られるとは困ったものだな。司祭は絶対誰か一人は来て欲しいんだが……。
「マルス様。オグマも疲れているようですし、もう大分遅い時間です。今夜は何処か泊まる所を探しませんと……。」
 ジョルジュが言った。そう言えばオグマの存在を忘れていたな。体は中年(ちょっと言い過ぎかな)、心は老人か。旅立ってからウンともスンとも言わない。疲れていると言われてもピンと来ない。いつも疲れている感じがするからだ。
「そうだな。ここからはパレス城が近いはず。アリティア国民の血税で宿に泊まるのも勿体無いから、今夜はパレス城に泊まろう。」
「えっ。パレス城……ですか?」
「なんだ?嫌なのか?ジョルジュ。」
「いえ、嫌だと言う程でもないんですが、ただ、ニーナ王妃と……あの国王がいるな、と思ったんです。」

「ようこそアカネイア・パレス城へ。久し振りだね。森の小動物達。今夜はこの城で疲れた体を十分に癒すのだよ。」
 やっぱり来るんじゃなかった。
 城中に立ち込めるカレーの匂い。これは彼の体臭。パレス城は異様な雰囲気だった。
 彼の名はハーディン。カレー粉を分泌出来る特異体質の為に、「カレーの王子様」の異名をとる(と言うか、そう自分で名乗ったことがあるだけ)。
 そして今は何と、第二十四代アカネイア国王だ。カレーの王様といったところか。
 傍らのニーナ王妃(今、彼の后!)が彼を選んだ。彼女の男の趣味にはいつも驚かされる。カミュも凄かったもんな。
 僕らはニーナ王妃達と一緒にごーせーな夕食をたっぷりいただき(良かった!ハーディンの分泌したカレーじゃなかったよ!)、そろそろ部屋へさがらせてもらおうか、と思った。
 そこへハーディンが声をかけて来た。
「どうかね森の小動物達。せっかく久し振りに会ったのだから、寝に行く前に余興などいかがかな?」
 余興?
 ハーディンは食後の僕らをこれまたごーせーな居間へ案内した。なんか、アリティアより金かけてんよなー、室内の飾りとかさー、等と僕がブツブツ言っている間に、「余興」の用意が出来たようだ。ハーディンが何か手に持っている。……え!?そ、それはっ!?
「おお、マルス王はこの紙芝居の絵に見覚えがおありのようだね。そう、これはタリス島の紙芝居名人に特別に作らせたものだ。絵のタッチに見覚えはあるだろうが、同じ物は二つと無い。今日のは初公開だよ。折角なので、ノリの良さそうな客人も一人招いておいた。」
 居間の入り口にラディが立っていた。そう言えばこいつもアカネイア人だったな。
「あのぉ。俺、突然呼ばれたんですけど……。何が始まるんですか?」
 何も知らないのか。気の毒に。僕は少しは免疫出来てるからいいけどな……。
「では始めるよ。森の小動物達。紙芝居の始まり始まりトレビヤーン。」
 王室御用達のせいか、一枚目の紙にもきちんと絵が描いてあった。ナバールが素肌に薄絹を一枚だけ纏わせて、しどけないポーズをとっている。しかし決してイヤらしくなく、あくまで繊細な美しさを追及した描き方はさすがと言えよう。しかしこれをタリスのジジィが嬉しそうに描いてるかと思うと、なんか腹立つ。
 絵の上のほうに美しい文字で『流されて』と書いてあった。これがタイトルらしい。
 ラディが絵に見とれてつぶやいた。
「わあ。あれナバール先輩にそっくりだなァ。キレイだなぁ……。」
 そっくりな人じゃなくてナバールなんだよ。
 ハーディンは「流されて。」と題名を言うと、早速絵を次のものに替えた。
「うぎゃあっ!」
 叫んだのはラディ。
 ……何も一枚目からしてるとこじゃなくていいだろうに……。
ナバールは今日もオグマに組み敷かれていた。
「ナ、ナバール!?オグマ!?きょ、今日もって……何ですか!?これっ!?」
オグマと関係を持つようになってから、数回目の
「え―――っ!?」
だった。
 ラディは僕と同じ反応を示す。僕も最初こんなだったのかと思うと恥ずかしい。同時に同情もしたので、僕はこれは実話でかくかくしかじかなんだよ、とラディに教えてやった。
「屋根を壊した弁償?それであんな事を?……そんな……。」
 ラディは、ボーっとして窓の外を眺めているオグマをキッと睨んだ。
ナバールは何度オグマに抱かれても、心は決して相手に許さなかった。
「当たり前だ。」と、ラディ。
ただ、心が嫌でも身体は快楽に流されてゆく。それがいつもナバールの心を傷つけた。
「……ナバールさん。」
 ラディの奴。マジ(オグマの部下のコトじゃないぞ)になって観てやがる。あ、僕もか。
ああ、今日も流されてしまう。
オグマの唇がナバールの敏感な
「あわわわわ。」
に触れ始めたとき、彼はあきらめに近い感情におそわれ、唇をゆるく開いた。
「んっ……ああ……。」
 ずばばばばばば……。
 ラディの攻撃。
 ハーディンは二十四のダメージを受けた。
 ラディ、気持ちはわからなくはないが、お前、それ自分の国の王だぞ。
「あ、あなたの声でナバールさんの……声を聞きたくありません!」
 暴力的な国民に対し、ハーディンの反応は余裕のよっちゃんだった。血はダラダラ流しているのに、表情を変えないのは大物なのかヘンタイなのか。そういやヘンタイだったよな。
「森の小動物達よ。もっと想像力を持つのだよ。そうすればきっと楽しめるはずだ。」
 ラディは黙っていた。
「本当は続きが知りたいのだろう?」
「…………はい。」
 ラディはこんなところまで僕の反応と同じだ。僕は恥ずかしい。
オグマはそんなナバールに言った。
「好きなんだろ?……舐められるの……。」
「やっぱこの男殺す―――っ!!」
 絶叫してオグマに斬りかかったのは僕の方だった。ジョルジュに止められなかったら、本当に殺すところだった。ここで殺してもしょうがない。落ち着かねば……。
「ナバールのここ、もっと舐め舐めしてやるからな。」
「やっぱり許さ―――んっ!!」
 僕とラディは一緒にオグマに斬りかかった。
 僕とラディの攻撃!
 オグマは額に汗が滲みまくった。
「森の小動物達。続きは聞かないのかね?」
 僕とラディは同時に答えた。
「聞きますっ!!」
「ああ……ン…ぁ、ああ……。」
「わ――――っ!やっぱ、聞いてらんねいよ―――っ!」
 僕とラディは床に転がってジタバタした。
「森の小動物達。では止めるかね?」
「続けてくださいッ!!」






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