4.赤いチューリップ

 僕らは司祭を求めてマケドニアに着いた。当初の予定通り強者揃いと言うわけにはいかなかったが、それなりの人材が三名ほど加わっているし、これで司祭がいれば僕の護衛として、まあ何とかサマにはなるだろう。

「え?ダメ!?」
 大勢の子供達に囲まれた司祭レナは、申し訳なさそうにカダイン行きを断った。
「ええ。私はこの通り、戦争で親を亡くした子供達の世話をしてるわけですから……。それに自分の子供もいるんです。まだ手のかかる年齢なので……。」
 そぉかぁ……。それじゃ無理に連れて行くわけにいかないな……。レナはハマーンが使えるし、いいと思ったんだが……。こんなことならアカネイアでボアやガトー様を探しておくんだった。
「マルス様がジジィはオグマだけで沢山だって、レナだけアテにするからいけないんですよ。」
 と、ラディに言われた。でも今更アカネイアに戻るわけにもいかない。時間が無い。
「ところで、マルス様……。私の夫ジュリアンの肛門の恩人(詳しくは『ナバールの手記』を読んでくれ)ナバールさんがどうしていらっしゃるのか、マルス様は御存知ありませんか?」
 レナにそう聞かれたので、僕は知っている事を全部話してやった。
「そ、それでは……私の遠距離ワープのコントロールが効かないせいで、ナバールさんは苦しい思いをした事になります。あのワープは恩返しのつもりだったのですが……。ナバールさんに恩返しをし直さなければなりません。マルス様、子供達の事は何とかします。私を一緒にカダインへ連れて行ってください。」
 レナは大勢の子供の世話をジュリアンに押し付けて、僕らの一行に加わっ,た。

「子リスくんよ。折角マケドニアに来たのに翼ある者達には会わないのかね?」
 ハーディンにそう言われたが、僕は「いいんです」とだけ答え、極力その話題には触れないようにした。シーダと結婚してからドラゴンナイトの女やペガサスナイトの女が怖くなったからだとは、口が裂けても言えない。
 でも確かにもっと強い人間をスカウトする必要はある。飛ばない奴で強い奴がもっとひっかかんないかな。あともう一人ぐらい……。
 独りで考え事をしていると、他の連中が何かの話題で盛り上がり始めた。こら、僕を仲間外れにするなっ。
「あ、マルス様。今この辺りに出没すると言う『赤いチューリップ』のウワサをしていたのですよ。」
 と、ジョルジュが教えてくれた。
「赤いチューリップ?花がどうかしたのか。」
「違います。旅をしながら色々な闘技場で勝ちまくっていると言う人物のアダ名です。マケドニアにも新しい闘技場が出来ているとかで、今日もその男が出るらしいって話をしていたんです。」
 勝ちまくっているのか。相当な強者だな。この際、知らん奴でもスカウトしてみるか。
「よし、カダインへ発つ前にその闘技場へ行ってみよう!」


 闘技場に行ってみると、そこはもう凄い熱気だった。
 今話題の人、赤いチューリップが出場するからだ。特に女性のファンが多いらしく、ギャラリーは赤いリボンを両手にフサフサさせている少女や、花束を抱えた妙齢の女性でほとんど埋め尽くされている。
「ふん。」
 と言って面白くなさそうなのが、僕の一行の中に独り。もちろんジョルジュだ。自分以外のものが女にキャーキャー言われるのが面白くないらしい。
「あっ、司祭よ。赤いチューリップ様の今日の相手は司祭だわっ。」
「やったあ。じゃあ今日は一撃で倒してしまわれるわねっ。」
 女性客のそんな言葉を浴びながら、一人の司祭がおずおずと所定位置に進み出た。
「キャーッ!!赤いチューリップ様よぉっ!赤いチューリップ様ぁっ!!」
「麗しのパラディン様――っ!!」
「今日も華麗にキメてぇぇっ!!」
 女性ファンの声援の中、赤いチューリップという男が所定位置に進み出た。
「ふん。どんなイイ男かと思えばひょろひょろの赤毛頭ではないか。赤毛など品が無い。私のパツキンの方が美しい。」
 僕はもう少し逞しい男を想像していたが、その予想は外れた。赤いチューリップはスリムな若者で赤い馬に乗ったパラディンだった。僕らは安い後ろの方の席からしきりに顔を観察しようとしたが、仮面舞踏会で使うような仮面を付けていて、遠くでも顔はよくわからないようだった。
 闘技場名物の「火豚」が天井から落とされた。係の者がロープを切って豚を落とすのだ。
 戦いの火ブタは切って落とされた。というわけだ。こんなくだらん事を伝統にしている闘技場だが、ドルーアとの戦いではよく世話になったもんだ。
 火ブタが切って落とされた為、戦闘が始まっていた。
 すかっ。
「わーっ!!バカ!いきなり外したっ!!」と、ラディが叫ぶ。
 司祭の攻撃!
 司祭は両手を前に突き出し、呪文を唱えた。
「トロンッ!!」
 観客はパニックを起こした。
「トロン持ってる司祭が闘技場に来るなんて聞いてないわぁっ!」
「赤いチューリップ様が死んでしまうっ!!」
 しかし、皆の心配をよそに、赤いチューリップは素早くよけた。
 トロンを一回しか出させないなんて、すばやさの数値高いんじゃないか?これは結構イケるかも……。しかし、最初のあの外しっぷりは何だか誰かを思い出すな……。
 赤いチューリップの再攻撃!
 必殺の一撃!!
 ずばばばばばばばばばば……。
「キャーッ!!やったわぁっ!」
「赤いチューリップ様ぁっ!」
「キャーッ!ステキ――ッ!!」
 こいつはイケると思った僕は、早速赤いチューリップのいる控え室へと向かった。
 懐かしくも怖い顔をした闘技場のオヤジに案内され、僕らは赤いチューリップのいる部屋のドアの前まで来た。
「赤いチューリップさん。僕はアリティア王のマルスと申しますが……。」
「マルスッ!?」
 いきなりドアが開いた。
「あれェ?どうしたのォ?マルス様ひさしぶりじゃなーい。」
 あ、その声は……。
 ロ、
 ロシェっ。
「あっ、ハーディン隊長もいるゥー。隊長ぉ、お久し振りですぅ!」
「おお、元気だったかね紅雀クン。ファイアーエムブレムのエンディングで『戦いに疲れて騎士団を退く。その後の消息は誰も知らない』などと書いてあったから心配していたのだよ。」
「素性を隠して英雄になるのってボクやってみたかったんですゥ。闘技場でお金稼いだら『ロシェ美容院』も作れるなと思ってェ。」
 そう言えばロシェって美容師になりたいとか言ってたよな。
 あ、エンディングといえば、ラディって戦場の中で知り合った少女とラブラブで本人は幸せだと言っているとか書かれてなかったっけ。その彼女を置いてきてナバールにうつつを抜かす旅に出てるわけかぁ。ひどい奴だなー。
 僕はラディを責めてやった。
「誤解ですよ。何でだか話が歪んで伝わってしまったんです。幸せだと言ったのは助けた少女がお金持ちの娘で、親元に送り届けたらたくさん礼金を貰ったからなんです。その娘さん、まだ4歳なんですよっ。オレはロリコンじゃありません!」
「ロリコンじゃなくてホモだもんな。」
「ホモじゃありません!ナバール先輩が好きなだけですっ。そんなこと言ったらマルス様だって立派なホモじゃないですかっ。」
 僕がホモ!?考えた事もなかった。僕だってナバールが好きなだけだ。別に男が好きなわけじゃない。うーん。でもナバールが好きだとホモなのかなぁ。若い僕には難しすぎる。
 僕が悩んでいる間にハーディンがロシェに事情を話してくれたらしい。恩賞は僕の持ち物の中から与えるという事(勝手に決めるなよっ)で話はついた。
 それにしても、何でロシェはこんなに強くなったのだろう。ロシェはよく外すし、あんまり育てにくいのでパラディン・レベル一にした所で諦めて二軍に落としたくらいなのに……。
「え?なんで強くなったかですかぁ?闘技場通いしてレベル上げてたら、だんだん英雄呼ばわりされるようになったんですけどォ。」
ハーディンが歩きながらロシェに言った。
「紅雀クンは大器晩成型なのじゃないかね?」
 そうだったのか。くっそう。
「それで女どもに騒がれていたのか……。赤毛で品がないくせに、ナマイキなことだ。」
 ジョルジュが面白くなさそうに言った。
 僕はロシェが怒るのかと思ったが、彼はジョルジュの方を見て「フフン」と笑っただけでこう言った。
「赤毛なんてダサい言い方しないでよネ。ストロベリーブロンドって言ってよ。」
 それを聞いてレナが嬉しそうに言った。
「まあ。それはステキな言い方ですね。じゃあジュリアンの髪もストロベリーブロンドと言っていいのかしら。ジュリアン似の私の息子コーモンの髪のことも……。」
 赤毛は赤毛だ。僕は心の中でそう思った。
「あっ、髪の色と言えば……。マルス様、ボク三年前からずっと気になっていたんだけどォ。マルス様の髪はどおして青っぽいんですか?」
 ロシェに聞かれたので、ボクは誇らしく答えた。
「青いヘアマニキュアしてるんだ。」
 戦中でもオシャレを欠かさなかったんだ。僕ってなんてダンディーなんだろ。

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