5.ギムナジウム四天王

 ゴードンと約束したのは今日の午後一時。
 僕らは今待ち合わせ場所のカダイン城前まで来ていた。
「ゴードンさん。遅いですね。何かの事情で来られなくなったのでしょうか。事故などでないと良いのですが……。」
 レナが心配そうに言った。
 ジョルジュは内心では心配しているのだろうが、それを表に出さないようクールに振舞っていた。しかしその目はしきりに遠くの方を見ていて、ゴードンが来るのを心待ちにしている事は誰の目にも明らかだ。
「これ以上は待てない。ゴードンは多分来られない訳があるんだろう。仕方がない。僕らだけで城の中に入ろう。」
 僕にとってゴードンは、ジョルジュを釣る為のエサでしかない。非力なアーチャーの彼が今加わったところで、戦力アップにはほとんどならないだろう。
 内心ガッカリしているジョルジュも連れて、僕はカダイン城の中へ踏み込んだ。
 城内はシンと静まりかえっている。
「ごめんくださぁーいっ。どなたかいらっしゃいませんかぁー。」
 誰もいない。
 マリクはどこにいるんだろう。
 僕らは城の奥へと進んでいった。
 進んで行って。
 つきあたりの「お台所」と書かれた扉の前で皆止まる。
 みんな「お台所」という字を見つめている。
 何人かの腹がグゥーと鳴った。
 ラディがふてくされたように言う。
「マルス様が経費をケチって昼食とらせてくれないから……。」
「だって。シーダが無駄遣いしちゃいけませんってあんまりお金持たせてくれなかったんだ。ゴードンに急いで手紙送るのに大金使っちゃったし……。切り詰めなくちゃいけないんだよ。」
 なんか言っててミジメになってきた。僕これでもアリティアの王様なんだよう。
「子リスくん。私が出してあげたいところだが、ニーナに言われてしまったのだ。アリティアの為に行くのであれば、アリティアのお金を使いなさいとね。だから私は一文無しなのだよ。」
 ハーディンがそう言った。アンタもなんかミジメだね。
 空腹過ぎてミジメな僕らは、「マリクは悪党になったのだから悪党の食べ物を盗んだって善良な人々に責められないよね」などと、訳のわからない理屈をこねながらその台所の扉を開けた。
 ここにも誰もいない。これはラッキー。
 僕らはテーブルの上にあったパンを貪り、貯蔵庫にしまわれていたハムやソーセージにかぶりついた。レナなどは「栄養のバランスが悪いですよ。もっと野菜を食べましょう。」と言って、そこにあったナベや調味料を勝手に使って野菜スープを作り始めている。
「はい。やっとスープが出来ましたよ。その辺のお皿とスプーンを勝手に使って召し上がれ。」
 みんな子供のように「はーい」と言ってスープを食べ始めた。
 うーん。この状況で五種類もの野菜を使ってしまうとは。レナってある意味強者かも知れない。
「はぁー。食った、食った。満腹、げっぷ。」
 僕らはいつもの二倍程の昼食を平らげて、テーブルの下にごろんと転がった。満腹過ぎて動きたくないといった感じだ。
 あれ?
 扉の外の方から足音が……。
「みんなっ、起きろっ!誰か来るぞ!」
 僕はガバッと起きようとした。
 が。
 起きられない。な、なんでっ!?
「マルス様ぁー。起きられませーん。どおしましょー。」
 ロシェが情けない声をだす。他の者達も床に転がったまま「うーんうーん」と唸っている。
 足音が近づいて来る。数人分ありそうな足音だ。どおしよう。どおしよう。
 バタン!
 来たぁ。魔道士が四人も。えーん。
「まさかこんなくだらない罠に本当にはまるとはな。そのパンに毒を入れたのは我々だ。」
 魔道士の中の一人が嘲るように言った。
 やはり罠か(と言っても疑いもしなかったけど)。悔しいので一応強気で言ってみよう。
「貴様ら誰だっ!?」
「我々か?我々はな。聞いて驚け。まずこの私は『ファイアーの君』。」
「次の私は『ブリザーの君』。」
「次の次の私は『サンダーの君』。」
「最後の私は『得体が知れない君』。」
 一人ずつ名乗り終わると、今度は四人同時に叫んだ。
「四人そろって、『ギムナジウム四天王』!」
 僕らはきょろきょろと周囲を見回した。
「貴様ら何をしている。」
 ジョルジュが答えた。
 「『ゴレンジャー』みたいなヤツならテレビカメラが来てるはずだ。」
「これは特撮ヒーロー物のロケではない!!我々は悪の司祭太もものマリクに命じられ、アリティア王マルスの供の命を奪いに来たのだ。」
 ロシェが質問した。
「君らなんでマリクの言うこと聞いてんの?あ、ひょっとしてお給料がいいんでしょうっ。ねェ、いくら?いくら?そっちの方が儲かるんなら今すぐそっちの味方するからさァ。ネ、教えてヨ。」
 ロシェ、このヤロー……。とか僕が思っていると、四天王は高笑いを始めた。
「愚か者め。我々には給料などどうでもいい事だ。なぜなら、」
 今度はまた四人同時に叫ぶ。
「美少年マリク様に誑かされた、砂漠のギムナジウム・カダインの上級生だからだ!!」
 そんな事えばるなよ。
「おや?……ファイアーの君。毒を入れておいた黒パンは全部残っています。な、なぜなんでしょう?」
 ブリザーの君がテーブルの上を見て言った。
 ロシェが疑問に答えてやった。
「ああ、それネ。ボク黒パン嫌いだから柔らかい白パンだけ食べたの。でもテーブルの上の白パン少なかったから、後は棚の中のを探して食べたんだヨ。」
「私も固くて安い黒パンは買ってしか食べない。タダで食せる高価な白パンが好きだ。」と、ジョルジュ。
「魔道のガニュメデス達、私も白いパンの方が好きなのだよ。そしてカレーパンはもっと美味だと思っているのだ。」と、ハーディン。
「私は小食なのでパンまで食べられませんでした。ジャガイモとニンジンとタマネギとグリーンピースとマツタケのスープを五杯食べただけです。」と、レナ。
「ボクだってスープ五杯と白いパン八個とハム丸ごと二本食っただけだ。」と、ラディ。
「何だ、ラディ。それしか食べれないのか。情けない奴。」と、僕。
 四天王はしばらく黙り込んだ。
 沈黙を破ってサンダーの君が恐る恐るファイアーの君に聞いた。
「あの……。こいつらが動けないのって……ひょっとして……。」
「ひょっとしなくても単なる食い過ぎだ。ふ、ふざけやがって……。ええいっ、どっちにしてもマルスの供は殺せとの命令だっ。殺るぞっ!!」
 皆、キャーッと悲鳴を上げて、起き上がれないまでも床の上をゴロゴロ転がってゆっくり逃げた。
僕も転がっていたが、「あれ?」と思って途中で止めた。
「おい、四天王。供を殺すと言ったな。どういう意味なんだ?」
 ファイアーの君が怒って答えた。
「何を寝呆けた事を。マリク様は独りで来いと紙に書かれたはずだ。それをお前が卑怯にも供なぞゾロゾロ連れてくるからマリク様がお怒りになったのだ。必ずお前独りで自分の元へ来させようというマリク様の御命令なのだ。」
 ロシェが転がりながら扉の方へ移動しようとしている。
「マルス様ぁ。そおいう事なら独りで行ってよネ。ボクにとって一番大切なものは金でも宝物でも名誉でもないんだヨ。やっぱり自分の命が一番だよ……ネ。」
 ロシェ。お前それでも聖騎士か?
「俺、別にマルス様のお供じゃないよ。ナバール先輩探しに来ただけなんだから。」
 ラディ、お前はそーゆー奴だよ!
「私もラディと同じです。ナバールさんに恩返しをするのが目的で来ました。私が死んだら子供達とストロベリー・ブロンドの夫が困ります。どうか私を殺さないで、マルス様独りを連れて行ってください。」
 レ、レナさんまで……。
「私はゴードンが来ないなら本当はどうでも良いのだ。すぐ帰るから攻撃しないでくれ。」
 ちくしょう……。銀のバナナのくせに……。
「私は面白いからついて来ただけなのだよ。では子リスくん、アデュー。」
 勝手に帰れ。
 おや?オグマだけが扉の方へ移動していない。ボケてるようでもやはり大陸一の剣闘士だな。
 ん?何をボソボソ言ってんだ?
「…………ナバール……。」
 やっぱりボケとる。
 あ……ヤバい。四天王がマジで怒り出してる。
「ええいッ!!何をゴチャゴチャとっ。そんなこと信用できるかッ!ブリザー、サンダー、得体が知れないのっ、殺ってしまえッ!!」





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