ナバールの手記
3.人付き合い
さつりく。
さつりく。
さつりく。
さつりく。
めくるめく殺戮の日々。
俺は幸せだった。
殺戮友達も出来た。それはペガサス・ナイトのシーダだ。俺をこの軍に誘った殺戮の匂いがする女だ。タリスの王女だと後で教えられた(また白髪パラディンに説教されたのだ)が、この際そんな事はどうでもいい。
彼女も殺戮が心底好きなようだった。俺達は守備力の低い者同士、皆が止めるのも聞かずに先頭切って戦った。
アリティア軍のほとんどの人間がシーダのことを「天使のようだ」と言う。だがいつも側で見ている俺は知っている。シーダが敵兵を倒したとき、僅かに彼女の口の端が上がっていることを……。
シーダはおそらく未来のアリティア王妃と言う話だし、「天使のような」女だと誤解されてもむしろそれは良い事なのだろう。シーダの事はかまわない。
しかし、なぜ俺の事を「天使のようだ」と誤解する人間がここに約一名いるのだ。
「ナバール。お前は今までその腕一本で生きてきたんだろう。相当苦労して来たんだろうな……。あっ、もっと酒飲めよ。遠慮などするな。」
夜になると俺は気が重い。何故か同じ傭兵同士で同じテントになってしまったシイタケと、同じ酒を酌み交わすことになってしまうからだ。
シイタケとの酒盛りは疲れる。
「ナバール、お前、本当は人殺しをするのは嫌なんだろう?」
好きだが……。
「いや、言わなくても俺にはわかる。仕方なくやっているんだよな。お前のような人間には辛いはずなんだ。お前は本当は……平和な国の春の草原を、年頃の愛らしい娘と微笑みながら駆けて行く……そんな姿が似合う若者なんだ。」
俺は戦中の嵐の草原を殺戮好きなシーダと薄笑いを浮かべながら敵を斬り倒していく自分を想像した。かっこいい。
「だがな……ナバール。シーダ様は駄目だぞ。」
え?なに?シーダが殺戮しちゃいけないのか?そんなことを言うとシーダがガッカリするぞ。
俺は聞いてみた。
「何故だ?」
シイタケは俺が珍しく酒盛り中に喋ったことに驚いた。そして、「ふうっ」と息をつくと、何故か俺の肩にポン、と右手を置く。
「いいか?はっきり言った方がいいと思うから言うが……お前の恋は報われない。シーダ様は未来のアリティア王妃だ。永遠にお前のものにはならない。報われない恋をしているお前を見ると……俺は……俺はもう……。」
シイタケのおっさんはかなり酔いがまわっているらしい。ここから先が俺は嫌なのだ。
「ナバールっ。」
とうとう抱きついて来た。
重い。
何だか子供の頃地震で倒れてきた洋服ダンスを思い出す。シイタケは本当によくタンスに似ていて、自分が倒れてきて俺を下敷きにした。
「かわいそうな、かわいそうなナバールっ。純愛が報われないなんて辛いだろうっ。せめて……せめて俺と色々しような……。」
ずばばばば……。
俺はシイタケを残りヒットポイント一にしてテントを飛び出した。
何故俺がシイタケと色々(いかがわしいこと)しなければならんのだ。
とは言うものの、テントを飛び出してしまって……今夜はどこで寝たものか。野宿は慣れている方だが今夜は特別に冷える。大体いくつもテントがあるのに、わざわざ自分だけ外で俺は辺りを見回してみた。
木々とテントの群。真ン中辺りにペガサス模様のテントがある。シーダがいるはずだ。
行ってみた。
「ナバール殿。ここは女性用のテント。男子禁制ですぞ。」 見張りの白髪パラディンに追い返された。
シーダのところはダメか。
さあ、どうしよう。どこのテントへ行こう。
考えてみればシーダ以外の兵士とはあまり馴染んでいない。そうすると後はどこへ行っても同じか。ともかく同性のテントならなんとかなるだろう。
今、軍に女はシーダとレナだけしかいない。二人共さっきのテントにしまってあるはずだ。では他のテントならなんでもいいのだな。
俺はシーダの隣のテントに声をかけた。白髪パラディンが不審な目で俺を見ている。男用テントならかまわないんじゃないのか?
俺はかまわず中の人間に向かって声をかけた。
すると、中から出て来たのは、あのナマイキそうなガキだった。
「やあ、ナバール。……どうしたんだい?こんな夜遅くに……。」
俺はちょっと嫌な感じがしなくもなかったが、他のところへまた頼みにいくのも面倒だと思い、そいつに宿を頼んだ。
「ああ、かまわないよ。さあ、どうぞ。」
ガキはあっさりと承知してくれた。入り口の布まで捲くり上げてくれて、「どうぞ」と俺に手をさしのべている。いけすかない奴だと思い込んでいたが、以外と親切な奴のようだ。
中に入ると他に人のいる様子はなく、かといって一人用のテントにしては広い感じもした。敷物も傭兵のテントのと少し違う。そう言えばコイツは王子だったな。
「ナバール。そこへお座りよ。」
俺は示された毛皮の上に座った。ふかふかしている。いいなぁ、これ……。
「何か飲む?これしかないけど……。」
受け取った小さな器の中にはワインが入っていた。いいなぁ。オグマとはイモ焼酎の水で薄めたのをスープ椀で飲んでいた。
久し振りのまともな酒を俺がゆっくり楽しんでいると、ガキもとい王子はそっと隣に座り、身を寄せて来た。
「ナバール。君の方から来てくれるなんて……。嬉しいよ……。」
何が嬉しいのだろう。
俺は寝るところが出来たし、まともな酒が飲める。俺は確かに嬉しいが……。
「僕はナバールに……嫌われてるんじゃないかとずっと思ってたんだ。ずっと気になってて……。」
マルス王子は俺の左腕にそっと触れた。
「ナバール……。こんな夜遅く来るって事は……君の目的は……その、君は自分のテントがあるのに僕のところへ来たって言うことはつまり……。」
目的?決まっている。
俺はきっぱり答えた。
「寝に来たんだ。」
当たり前じゃないか。
「だ、大胆だね。僕、ドキドキしちゃうよ。」
王族というのはこういう変なのが多いんだろうか。就寝前にドキドキする血筋だとか。
マルスとの会話も少し疲れを感じる。早く休ませて欲しいと思い、言ってみた。
「すぐ寝たいんだが……。」
マルスは何故か真っ赤になった。
「ほ、本当にいいのかい!?僕と……で……。」
?何だかよくわからなくなってきたぞ。
左腕に触れているマルスの手が震えている。
「僕、したことないけどナバールが好きだから……頑張るよっ。」
なに!?
これはもう絶対におかしいと気付いたとき俺は既に王子と言う名のガキに押し倒されていた。
迂闊だった。
ファイアーエムブレム百科にもマルスは攻だと書いてあったではないか。
俺はファイアーエムブレム百科の「F.E戦略講座」の2頁目を思い浮かべる。
その1
大将マルスは攻めまくれ!
本当に迂闊だった。
二回攻撃が出来る貴重なキャラクターか。さすがの俺も押し倒されてしまったな。
目を細めて感心しているうちに、マルスはすっかりファイヤーな気分に仕上がっていた。
「ナバールッ、好きだよっ、好きだよっ。」
まずい。
えい、はがれろっ。俺の服を剥ぐなっ。
しかし、どついても蹴飛ばしてもマルスは剥がれなかった。マルスは俺よりも能力が勝っていたのだ。
何という事だ。こんなガキに屈辱を受けることになろうとは……。
どうにも出来ないでいる俺を組み敷いて、マルスは興奮しまくっていた。興奮のあまり恐らく自分でもわけのわからないであろう、こんな叫び声すら上げている。
「ファイヤー!」
魔道士だってこんなときに言わない。
ああ、こんな事になるのなら、洋服ダンスの下敷きになっていた方がまだ良かった。
そんなことを考え始めたとき、
「王子っ!何という事をっ、何という事をしているのですっ!?」
白髪パラディンがテントにいきなり入ってきた。
「王子っ!ナバール殿から剥がれてくださいっ。剥がれるのですぅっ!!」
そう言ってパラディンは、「ファイヤー!」と叫んでむずがるマルスを、俺から何とか剥がしてくれた。
ホッと一息ついたのはいいが、またテントの外だった。また追い返されたのだ。
テントの中で休もうと考えない方がいいのかも知れない。あきらめた方が平和だ。
でも寒い。
ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ。
蹄爪の音とカレーの匂いが近付いて来る。
ハーディンだ。
「ボン・ソワール。迷える子羊よ。」
それ……俺のことか?
「外は寒い。そんな薄着で何をしているね?」
「そういうアンタこそ下半身に何も着けないで何をしている。」
思わず聞いてしまった。なるべく奴のそこを見ないようにして……。
「私のこの姿を疑問に思うとは、君は人の心を解さない子羊だね。」
俺は黙り込んだ。訳が解らなくて……。
「下半身に何も着けずに馬を駆る。それは私の情熱の証し。私は情の深い人間。だが君は、見たところテントメイトと上手くやってゆけない迷える子羊だね。だからこうしてさ迷っている。人と心を通わせにくい、哀れな子羊よ。」
その子羊というのはともかく、言っていることは……まぁ合っているような気も……。しかしあんなのと心を通わせたら体が汚れてしまうぞ。
「迷える子羊よ。君はもう用心棒ではないのだ。アリティア軍の一員なのだ。もっと仲間との交流を大切にすべきであろう。そう、特に君のテントメイト、そしてマルス王子と仲良くすることから、君の真の人付き合いは始まるであろう。やるのだよ。美しい子羊よ。」
テントメイトのシイタケと、マルス。この二人と仲良くしなければ、俺の真の人付き合いは始まらないのか。
では絶望的だ。俺はこの軍の中でずっと孤立するだろう。
「そうすれば君も知るであろう。私の情熱の姿の意味を……。では、アデュー!」
蹄爪の音が遠ざかっていく。カレーの残り香が忌々しい。
ヘンタイの意味など俺は知りたくはない。なにが「アデュー」だ。すぐ帰って来るくせに。
容量が足りないので第三章 其の弐に続く(^^;
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