ナバールの手記
4.攻撃法
アリティア軍も随分賑やかになってきた。
行く先々で仲間が増え、今はもう四十六名の大所帯となっている。あんまり多いので、俺は全員の顔を覚えていない。間違って味方を殺しそうな気がする。
「あっ、先輩っ。ナバール先輩っ。」
俺の事を「先輩」と呼んで駆けてきたのは、ワーレンで仲間になった傭兵のラディだ。同じ職だという事と、よくまとわりついてくる事で、俺がこいつを間違えて斬る事はまずないだろう。命拾いしたな、ラディ。
人数が増えたことで良かったことが一つある。それは俺がテントの中で休めるようになったことだ。
同じ職種のシーザとラディが軍に加わって来たとき、彼らに提供された寝床は俺達のテントだった。
シイタケもといオグマは人目のあるところでは何も出来ないらしく、俺は安心してテントを使えるようになった。
しかし傭兵及び勇者のテントというのは狭い。いや、狭くなった。シーザとラディだけならともかく、その後加わったアストリアと、アリティアで加わったサムソンなんて寝相の悪い男がウチのテントにぶち込まれたせいだ。俺は昨夜、寝ているサムソンに腹をエレファント級で蹴られ、思いっきりゲロを吐いてしまった。ゲロはアストリアの顔にかかった。全部。
「ーーー昨夜は大変でしたね。……でも俺、アストリア羨ましかったなぁ……。」
もうこういう奇妙な言葉にも俺は慣れてきていた。アリティア軍にはこの手合いが多い。やはり軍というのがいけない。女が少ないから俺にまで変な気を起こす輩がいたりするのだ。俺のゲロに憧れるのもそのせいだ。
俺は思わず呟いた。
「女がもっと増えればいいのだが……。」
「女ですか?今日あたりエストという女の子が来るんじゃないかって噂ですよ。」
「エスト?」
「ええ。何でもパオラやカチュアの妹で、メリクルを持って帰って来るらしいんですが……。あ、メリクルがあると、マルス王子が物凄く強くなるんだそうです。」
「あれ以上物凄くなってどうするんだ。」
「え?王子がより強くなってくれなくては、メディウス打倒は無理ですよ。」
そうか。あれ以上物凄くなるつもりなのか。もう絶対に近付きたくないな……。
そう思っていると、
「やったぁっ!メリクルだメリクルだっ!」
メリクルらしき剣を振り回し、マルス王子がこっちへやってきた。
来るな。
一緒に見慣れないペガサス・ナイトも飛んでくる。あれがエストだろうか。
「お姉様ーーーっ!」
そしてパオラやカチュアが反対側から飛んでくる。
「エストっ。来た早々悪いけど、あなた成長が遅れてるわっ。早速レベル上げするわよっ!」
「はいっ、お姉様っ!」
パオラとカチュアはその辺で一番強そうな敵の一人を選び、その左右で何故か待機した。
何だろう。攻撃もしないで……。何もしないんなら俺が代わりに斬ってやろうか?
「あっ、先輩、ダメですよ!あれはエストさんのレベル上げの為にやってるんです。」
俺が「どういうことだ?」と言いかけたとき、エストの叫び声が聞こえた。若い女にしては気合いの入ったどすこい声だ。
「トライアングル・アターック!!」
一撃で敵は倒れた。必殺が出たのだ。
皆は「おおっ」と同時に歓声を上げる。
それからアリティア軍では、このペガサス姉妹の技をほかの兵士達にも出来るかどうか試すことが流行った。
「サジ!」
「マジ!」
「バーツ!!」
オグマ(最近はなるべく本名で呼ぶようにしてやっている)の部下が名乗りを上げながらトライアングルの陣形をとった。
敵はたじろいでいる。
バーツが叫ぶ。
「うおっすっ。トライアングル・アターック!!」
ずば。
必殺は出ない。敵も倒れない。
「うおっす、隊長っ。今日もダメっスよ。」
いいかげんあきらめろ。
「では…リフさん、マリアさん。お願い致します。」
この声はレナ?
後ろを振り返ってみると、頼りなげな僧侶三人が何やら話し合っている。
「しかし……大丈夫ですかの……。」
「あたし不安だわ。」
「でも皆さんが頑張っているのです。私達も頑張らなくては……。それに……リフさんは竜の盾を使っていらっしゃるから守備力が六、マリアさんが四、私が三。敵は守備力が一番低い私にくるはずです。お二人は安全です。」
「でもそれではレナ殿……貴女が……。」
こいつらまさか、と俺は思った。
そしてこいつらは「まさか」と思うことを本当にした。
「では、あの聖騎士(パラディン)様の元へ。」
レナは銀の剣を持った敵兵の一人を杖で示した。
僧侶達は遅い足で移動を始めた。
「一番……リフ。待機……で良いのですかな?」
「二番、マリア。待機。」
「三番、私は神の名のもとに今、ここで待機致します。願わくば、ジュリアンの肛門の傷が早く治りますように。アーメン。因みに神に申し上げる言葉を記した文書のことを、『こうもん(告文)』といいます。」
僧侶達は攻撃が出来ない(と言うことになっている。でもレナは俺を杖で殴ったことがある。やろうと思えば出来るではないか。)。一人の敵の周りをトライアングルの陣形で待機した。
どうすると言うのだ。
見ろ。敵兵もこの異様な雰囲気に怯えている。聖なるたたりでもありそうだ。
「な、な、な、なんだあ?攻撃するぞ?いいのか?……し、知らないぞ……ええいッ!」
敵兵の攻撃。
そのとき、レナが叫んだ。
「トッ、トライアングル・アタック当たられーッ!!」
すかっ。
レナは三十八の経験値を得た、ようだ。見事なよけっぷりだ。しかし、その陣形は意味ないぞ。
「ナバール。一緒に来てくれないか?」
グルニア城へ向かう途中のジョルジュが俺に声をかけた。
ジョルジュと一緒にいる赤毛のパラディン(ソシアル・ナイトから昇格した)はロシェという奴だ。いつもの甘ったるい声で奴も俺を誘った。流し目を俺に送りながら……。
「ナバール。カミュを倒しに行くんだヨ。一緒に……来て。ジョルジュと、ボクと、君とで行かなけりゃダメなんだ.ふふ……。」
俺は誘われた意味については深く考えず、二人について行った。
移動しながらロシェが言った。
「一人で倒しに行ってもいいんだけどォ、グラディウスの反撃って恐いじゃない?死んじゃうよ、きっと。だからネ、ボク達三人でトライアングル・アタックするんだよ。」
「しかし、ペガサス姉妹以外のそれは、はっきり言って必殺など出さないぞ。」
「知ってるよ。」
「試すにしたって、俺達では職がバラバラだぞ?」
「いいんだよ。」
よくわからない。
考え込んでいるうちに、カミュの城は目の前にあった。
ジョルジュが銀の弓を装備しながら言った。
「さあッ、カミュをトライアングルの陣形で囲むんだッ!」
たたたたたたた(俺の足音)。
たたたたたたた(ジョルジュ)。
ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ(ロシェ)。
カミュを囲んだ。ん?これでは僧侶と同じ状態ではないか。早く倒さないのか?
「……何だね?君達は……。今、私はマルスと戦おうと思っていたところなのだ。邪魔をしないでくれたまえ。」
カミュが冷たく俺達に言った。
ガサッ。
林の中から枝をかきわけ、マルスが現れた。隠れてたに違いない。
「やあ、ナバールにジョルジュにロシェ。よく来てくれたね。じゃあ始めようか。」
そういうなりマルスはカミュにかかって行った。
カミュは戦いながらマルスに言った。
「そうか。読めたぞマルス。君の考えが……。君は次のターンでの私の反撃が怖いのだろう。今戦うことは出来ても、次のターンで私の攻撃を受ければ君は確実に死ぬ。だから他の兵の方へ私の攻撃がいくようにしたいのだ。」
なんだ。俺達はオトリになりに来ただけなのか。
カミュは微笑みながらグラディウスをマルスに向けた。
「だがマルス、それは甘い。君がいくらオトリを使おうとも私は決してよそ見などしないのだ。私には君しか見えていないのだよ、マイ・スウィート!」
ずばばばばばばばばばばば!
予想通り残りHP僅かになったマルスは、血だらけの腹を押さえつつ、カミュに向かってニヤリと笑った。
「果たしてそうかな?」
そして次のターン(コンピューターのターン)。
「さあ、次は私の番だよ、マイ・スウィート。む?な、なんだ?まわりがキラキラしていて君が見えないぞ!マルス!!」
カミュは眩しそうに手で目を覆った。
確かにキラキラしているな。何だか細かい星に似たものがそのへんを舞っているような気さえする。
キラキラ星の舞う中、ロシェの甘ったるい声が響いた。
「カミュ。美しい人。そんなにマルスの方がいいの?ボク達だって……ほら、こんなに魅力的だよ。」
ロシェはカミュに得意の流し目を送った。
「ボクはロシェ。育てにくさでは定評のあるとってもか弱いパラディンさ。いま持ってるこの銀の槍、当てたことは一度もないよ。守備力だって低いんだ。」
ロシェは「はいっ、次っ。」と言って隣のジョルジュを槍の先でつついた。
「私はジョルジュ。スナイパー。ウララ、ウララ、ウラウラで、この世は私の為にある。弓をキリキリ心臓めがけ、逃がさないパッと狙い撃ち。でもこの位置からじゃ無抵抗。」
ジョルジュは「はいっ、次っ。」と言って、やはり隣の俺を弓の先でつついた。
「……………。」
黙っていたらロシェが怒った。
「ほらぁっ、自分をアピールするんだよっ。」
アピールか。それで殺し合いが出来るのならば……。
「俺はナバール。殺戮が好き。」
沈黙。
「自分を弱い者としてアピールするんだよっ!」
ロシェがまた怒った。ロシェのように可愛らしく言ったつもりなのだが、今のではダメらしい。では何と言えばいいのだろう。
俺が悩んでいるとカミュが呻き始めた。
「お……おお、惑わされる。惑わされてしまう。私は愛らしいマルスが好きだ。だが私と同じように美しい者はもっと好きなのだ。」
マルスは嬉しそうだった。
「フッ……。惑わされているな。カミュ、これが僕の軍の『美形トライアングル・アタック』だ。どうだ?素晴らしいだろう。」
「おお……確かに素晴らしい……素晴らしいぞ。特にそこの君ィっ!!」
カミュの攻撃!
ジョルジュは身構えた。
「やはり無抵抗で美形でパツキンの私に来るかっ!?」
ずばばばばばばばばばばばばばばばばば!
う。
俺に来たじゃないか。
くそう。痛いなんてもんじゃないぞ。こんなのは初めてだ。頭にくる。腹が立つ。
斬ってやる!
俺は残りHP二の体を引きずって、
「あっ、ナバール。それはもしやデビルソード!?」
「きゃああっ、死んじゃう死んじゃう死んじゃう……かも。」
ジョルジュやロシェの止めるのも聞かず、俺はそのまま、
ずばばばばばばば。
ナバールのの安否は?!第四章 其の弐に急げ!
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