ナバールの手記
5.サムソンとアラン
俺は一人の勇者のことについて考えていた。と言うよりはむしろ、一人の勇者についてくる不審な人物についてと言った方がいいだろうか。
サムソンの後をこっそりついてくる一人のパラディンがいるのだ。そのパラディンのことを、俺は最初アリティア兵だと思って(なにしろ俺は全員の顔を覚えていないから)声をかけてしまった事がある。その時のパラディンは焦って逃げた。
この事をシーダに話すと、
「敵のスパイかも知れないわ。今度見つけたら教えて。『話す』でゴーモンして、吐かないようだったら殺してしまえるわ。」
関係ないが、そこにレナがやって来た。
「肛門のお話ですか?」
「いいえ。ゴーモンです。」
「そうですか……残念です。実は今、肛門のことが気にかかっていて……。と言うのは、ジュリアンの肛門の傷がいくらリカバーしても治らないのです。やはりあれは心の傷と関係あるからなのでしょうか。」
ジュリアンも苦労が絶えないからな……。俺も経験があるのでよくわかるが、精神的に疲労が重なると一度治ったように見えてもすぐにまたひどくなる。痔は治りにくいのだ。
俺がオグマやマルスを嫌うのはそのせいもある。奴等はそういう事に関して無神経なのだ。自分が同じ目に遭ったことがないからやたらにせまってこれるのだ。一度オグマなどはハーディンあたりにやられてしまうといいのだ。考えたくはないが……。
俺はジュリアンに少し同情したので、レナに一つ提案してやった。
「リカバーがダメならハマーンを使ってみてはどうだ?例え治せないものでも何とかなるかも知れん。」
レナの顔がぱっと明るくなった。
「ジュリアンのお尻の強度を上げるのですね!それなら出来るかも知れません!」
レナは俺に礼を言い、嬉しそうにハマーンを装備しながらジュリアンの元へ走っていった。
本当に関係なかったな。話を元に戻そう。
「じゃあ、ナバール。お願いよ。その不審なパラディンを見つけたら私に教えてね!」
ばっさ、ばっさ、ばっさ……。
シーダは「楽しみだわ」と言いながら飛んでいった。
冗談じゃない。俺が先に見つけたのだ。敵なのならば俺が斬る。
その日の夜。
俺はいつものようにテントで寝相の悪い勇者サムソンに苦しめられていた。
俺はクラスチェンジをしていて今はサムソンに劣らぬ勇者となった。しかし睡眠中のステータスはどうも奴の方が上のようだ。
「んーー。かーちゃん、腹減ったよお。」
おまけにサムソンは寝言もうるさい。
「んーー。アランっ、お前はよおっ、人の菓子盗むんじゃねぇよっ!」
うるさい。
「アランっ。許さんぞうっ!!」
来たっ!エレファント級の蹴りっ!!
どすん。
俺はまだ眠れてなかったので素早く避けた。
今夜はもう寝るのを諦めよう。例のパラディンの事も気になるし……。
テントを出る時、アストリアの小さな寝言も聞こえた。
「んーー。ミディア、許してくれ。僕はあの人のゲロにイカれてしまったんだ。ああ、ナバール、美しくもどす人……。」
……このテントをまた使えなくなる日もそう遠くないらしい。
テントの出口の幕をめくると、気配に気付いてか、急に馬を走らせる音がした。
奴だ。
「待て!怪しいパラディンめっ!!」
シーダに獲物を奪われまいと意識してか、俺はいつになく大声を張り上げていた。
俺の大声で他の兵士達がわらわらとテントから出てくる。
シーダが出てこなければいいが……。
「ナバールっ!例のパラディンが現れたのねっ?私に任せて頂戴!」
ばっさ、ばっさ、ばっさ、ばっさ……。
しまった。移動力のあるドラゴンで行かれては獲物が、俺の獲物が……。
ああ、「はなす」のテーマ曲が流れ出している。
「不審なパラディンさん。貴男は一体何者なの?」
不審なパラディンが答えた。
「わ、私はアラン。かつて騎士団長を務めたこともある。決して怪しい者ではないっ。」
シーダの口調は優しかったが、手には今にも襲いかかりそうなデビルソードがあった。
「では怪しくない人が、何故隠れて私達についてくるの?」
アランと名乗ったパツキンの男はうろたえた。
「そ、それは……。」
誰も気付かないのか。シーダの口の端が僅かに上がっている。シーダはアランにもう少し近付き、そして囁いた。
「答えなければゴーモンするわ……。」
アランは真っ青になった。
その時レナが飛び出した。
「待って下さいっ!」
ゴーモンを止めようと言うのか。さすが聖職者と言ったところだな。
「ジュリアンの肛門が今治ったんですっ。私、嬉しいっ!それが言いたかったんです。お休みなさい。」
レナはテントへ帰った。
いい女だな。シーダが斬るにしろ俺が斬るにしろ、これを止める人間はあまり好きではない。斬るのを止めない女は感じがいい。
ん?誰だ?俺の肩に手を置いたのは。またオグマかと思って嫌そうに手の主を見ると、
「おい。みんな集まって何やってるんだ?」
サムソンだった。
「あっ、あれ?あのパツキンの男、まさか……!」
アランを見てサムソンが驚いている。
アランはと言えば、サムソンを見るなり何故か嬉しそうな顔をした。
「あっ、サムちゃん。サムちゃぁん!!」
サムちゃん……?
「助けてよう、サムちゃぁんっ。この女がゴーモンするっていうんだようっ。」
「アラン、お前何でここへ来たんだよ。」
二人は顔見知りのようだ。しかもこの馴れ合い方は幼馴染みと言うやつか?
「本当はサムちゃんとアリティア軍に入りたかったんだよう。でもサムちゃんの村とボクの村仲が悪いから……。マルス王子がサムソンの村を訪ねたら、うちの村は王子が来てもいないふりしようねって村のおきてでぇ……。」
「では真っ先に王子の僕に相談してくれれば良かったのに。」
いつの間にマルスが来てたんだ?
「あっ、マルス王子っ!」
アランは急に声色と口調を元に戻した。
「聖騎士アラン。アリティア軍は君を歓迎する。今日から君も世界の平和のために戦ってくれるね?」
アランは感動して目を潤ませていた。
「ちょっと待って下さい。王子。」
サムソンが口を挟む。
「恐れ入りますが王子、俺はアランが側にいると非常に不快です。彼を仲間に加えるのなら、俺の事は諦めて下さい。」
「そ、そんなっ。サムちゃあんっ!!」
アランがサムソンに泣きついた。
マルスは考え込んでしまった。マルスは考えた末、次のようなことを言った。
「アラン。君のステータス表を見せてくれないか?」
アランは鎧とお揃いの赤いポシェット(因みに俺はウエストポーチを使っている)から一枚の紙を取り出し、恭しくマルスにそれを渡した。
ステータスを読み終えたマルスはアランにこう言った。
「残念ですが今回の採用は見合わせて頂くことになりました。」
アランのパツキンに冷たい風が吹いた。
アランはアリティア軍に入れなかった。が、彼はまだサムソンの後をついて来ている。
もしこれを読んでいるお前がサムソンだけを連れていったゲームプレイヤーなら、時々画面上の林の中などに恨みを込めてこっちを見ているアランを見つけるかもしれない。怖かろう。
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