ナバールの手記

6.夢のクラスチェンジ

 もうレベルが上がらない。
 俺を含めて殆ほとんどの者がそういう壁にぶち当たっていた。
 俺はレベルが上がろうと上がるまいと、殺戮さえ出来ればいいじゃないかと思うが、他の人間はどうも違う考えらしい。
「パラディンのレベル二十かぁ……。敵を倒しても経験値が入らないって、何かつまらないなぁ……。」
 と言ったのはアベル。
「そうだな。パラディンから更に何かに昇格するアイテムでもあればいいのにな……。」
 と言ったのはカイン。
 二人の座っている間に「どしっ」という音をたてて座り込み、アーマーのドーガが話に加わった。
「俺だったら将軍になりたいな。なれるものならね。将軍になれるアイテムがあったらいいのになぁ。ロシェ、お前はクラスチェンジ出来るとしたら何になりたい?」
 ロシェは彼らの側で、愛馬レッドチューリップ号の赤毛をトリートメントしていた。
「うーん。そうだネ。ボクは美容師になりたいなァ……。」
 アベル達は「なんだそれは!真面目に答えろ!」と非難していたが、俺にはロシェが冗談を言っているようには見えなかった。
 ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ……。
 ホースメンのウルフとザガロが通りかかった。
「あっ、傭兵さん。こんにちは。」
「ザガロ、ナバールさんはもう傭兵さんじゃないんだよ。勇者にクラスチェンジしたんだよ。」
 そういえばウルフやザガロもレベル二十になっているはずだ。
 ホースメンの二人にアベルが声をかけた。
「よお、ホースメン!今、クラスチェンジの話をしてんだけど、お前らだったら何になりたいと思う?」
「もしもって話だから何でもいいんだぞ。」
 と、カイン。
 ウルフとザガロは顔を見合わせた。
 ザガロがカインに聞いた。
「本当に何でもいいの?」
「いいとも。」
「じゃあボク。人間になりたい。」
 聞かなきゃいいのに、と俺は思った。
 カインとアベルはシラけたムードを何とかしようとあがいた。
「ナ、ナ、ナ、ナバールっ。お前は何に昇格したいと思う?」
 カイン、お前なんでそこで俺に振るのだ。余計シラけても知らんぞ。
「俺は別に、何にもなりたくはない。」
 沈黙がカインとアベルを襲った。
 こういう時に俺に話を振るな。
「ナバールさんは、女王様になったらいいんじゃないかなぁ……。」
 いきなり現れたのはアストリアだった。まともだと思われていたアストリアの異常な発言は、周囲に波紋を投げかけた。
 アベルがすがるようにアストリアに言った。
「アストリア。冗談だろ?冗談だと言ってくれ。」
 だが俺は知っている。アストリアはもう既に……。
「飛竜の鞭か何かで女王様にクラスチェンジ出来るといいのに……。女王様だけが味方を攻撃することが出来るんだ。ああ、許してくれ、ミディア。俺はあの人のゲロにイカれてしまったんだ。ああ、ナバール。美しくもどす人……。」
 アストリアは俺にすり寄って来た。
 間が悪いことに、洗濯物を抱えたミディアが通りかかった。
 ドサッ。
 ミディアの手から洗濯物が落ちる。
「アストリア……。前から『ナバール、ナバール』ってよく口にすると思ったら……そういう事だったのね……。私にパンツまで洗わせておいて……ひどいわっ。あんたなんか……あんたなんか、こうしてやるっ!!」
 ミディアは一緒に来たパオラの飛竜の鞭を「ちょっと貸してっ」と言って取り上げると、それで思いきりアストリアをぶちまくった。
 アストリアはミディアにムチでぶたれて幸せそうだった。
「ああ、ミディアー。惚れ直してしまうよ。もっとしばいてくれっ。ああっ……。」
 アベル達はその光景に怯えていた。
 俺は二人のヨリが戻って良かったなと思った。
「あら、カレーの匂いがするわ。」
 とパオラが言った。
 皆、「本当だ」と言ってクンクンと匂いを嗅いだ。俺は呼吸を止めた。何故ならそれは……。
「ボン・ジュール。陽気な雀達。楽しげに何の話をしているね?」
 ハーディンの匂いなのだ。嗅いではいけない。いけないぞ。
「ほう?雀達はクラスチェンジの話をしていたのかね。」
 「貴男は何に昇格したいと思いますか?」
 アベルがハーディンに尋ねた。
「私かね?フフフ……。そんな質問をするとは君もまだまだ青いのだね。私はこれ以上望めないくらい素晴らしい人物なのだよ。これ以上、何を昇格する必要があるのだね?」
 ハーディンは愛馬インドカレー号をピシッと鞭で打った。
「陽気な雀達。もっと世間を知りたまえ。そして私を知りたまえ。君らの考えはまだまだ青い。では諸君、アデュー。」
 ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ……。
 俺はやっと呼吸を再開した。
 ドーガがボソリと言った。
「昇格したくないんだと。ナバールと同じだな。考え方似てんじゃないか?」
 やめてくれ。


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