ナバールの手記


8.運命

 決戦のときがやって来た。
 アリティア軍はこの最後の戦いに、以前から予定していた精鋭十五人で赴く…………つもりだった。
「何だって!?下痢ぃ!?」
 マルスが自分もゴロゴロいう腹をさすりながら情けない声を出す。
「は、はい。予定していたメンバーのほとんどが……と言いますか……兵士のほとんどが下痢でろくに動けない有様で……。」
 白髪パラディン・ジェイガンも腹を押さえながら報告している。
「何とか戦える者は……?」
 不安げにマルスが尋ねた。
「はあ……。予定していたメンバーの中の一人だけ……ナバール殿は大丈夫だと言っています。」
 当たり前だ。昨日のカレーには精神ダメージを受けただけだ。俺の腹は丈夫だ。
「ジェイガン。……あとは?」
 ジェイガンは、たくさん赤線の引いてあるメンバー表を見ながら答えた。
「王子にはオマル抱えながらでも行っていただくとして……あとは予定外の者ばかりになりますな。ホースメンのウルフとザガロ。彼らはとても元気です。……それからちょっと苦しいようですが、何とか戦えそうな者を書き出してみました。レベルも確認出来ますのでこちらをご覧ください。」
     チェイニー(コマンドLV1)
     ラディ(勇者LV8)
     レナ(司祭LV1)
「これだけ?」
 マルスがひきつった。
「はあ……。」
ジェイガンが汗を拭いた。
「おい。」
 俺が口を挟んだ。
「ハーディンの名が無いようだが、まさか奴は自分のカレーで腹をこわしたのか?」
「いいえ。ハーディン殿は急に垢を取った為に風邪を引いたのだそうです。」
 ……馬鹿?

 結局、精鋭揃いとは言えない七人でドルーア城へ行くことになった。
 マルスとチェイニー、ラディ、レナ、そしてこの俺は同じ入り口から、二人のホースメンは別の入り口から潜入することに決めた。
「ウルフとザガロは、近くにいる敵を少しでも多く倒してくれ。中央のメディウスの部屋まで無理して来ては駄目だ。命を大切にしてくれ。」
 そう命じるマルスの顔には、「期待してない」とハッキリ書いてあった。
 そして遂にドルーア城の中へ。
「あっ、扉が開かない……。鍵がかかってますよ!」
 シーザが叫んだ。
 マルスが焦る。
「鍵?僕は鍵なんて用意して来なかったぞ。誰か持ってるか?」
 皆首を横に振った。突然合流してきた司祭ガトーも首を振った。
 レナが提案する。
「一人ずつワープで中央の部屋へ送りましょう。ハマーンで新品にしたばかりのワープの杖を私が持っています。」
 マルスが下痢腹をさすりながら俺に言った。
「じゃあ、ナバール。君、先に行ってくれ。僕が先にと言いたいところだが、腹がこんなだしファルシオンも持っているわけじゃ内。そのデビルソードで遠慮なく殺戮してきて欲しい。もし君がメディウスまで倒すことが出来たら……その時は……特別な恩賞を与えよう。」
 恩賞などは興味はないが、何だか最高の殺戮が出来そうだ。よし、行こう。
「レナ、ワープを頼む。」
「はい、ワープ!」

 むぉんっ(ワープの音だぞ)。

 メディウスのいる中央の部屋へ俺は送られた。
 メディウスは一番奥にある玉座で、頬杖をついて居眠りをこいていた。
 メディウスを一番先に殺したいところだが、奴を守っている雑魚が邪魔だ。先にそれを片付けねばなるまい。
 俺はまずスナイパーを斬り、次に襲ってきた硬そうなマムクートも必殺の一撃でキレイに片付けた。
 さて、次のターンだ。次にワープしてくるのはさすがにマルスだろう。
 むぉんっ。
 ワープの音がした。
「勇者ラディ、参上!」
 おや?
 ラディは、あと一人いたスナイパーを斬り倒した。
「無事でしたかっ?ナバール先輩っ。」
 別に大した事は無い。以外に早く事は終わるだろうと俺には思えた。この中央の部屋に残っている敵は、メディウスと僧侶二人。もうそれだけしかいないのだ。
 その残りのうちの一人。僧侶も今、俺が斬る。
 ずばばばば……。
「先輩っ、次のターンですよっ。俺、最後の僧侶殺しますねっ。」
 ずばばばば……。
 よし。あとはメディウスだけだ。
 むぉんっ。
 おっ、ワープの音だ。次こそマルスだろう。
「マルス王子参上!……なあんちゃって。本当は王子に化けたチェイニーだよーん。」
 ……ち、力が抜ける。
「……マルスはどうした。」
 俺はマルスの姿をしたチェイニーに尋ねた。
「王子ぃ?王子はホラ、例のマリク事件でファルシオン手に入らなかったじゃない。ファルシオン無いならココに来る必要あんましないと思ったんじゃないかなぁ。」
     ※マリク事件については、マリクが何かの
      形で読者に語ると思う。
      例えば小説「マリクの太もも3」。
      これを読むときはマリクを思い切り嘲っ
      ていいぞ。俺が許す。
「あ、それからねぇ……。」
 チェイニーは話を続けた。
「王子がナバールに手柄を立てさせたいってしきりに言ってたよ。メディウスはナバールに倒させたいってさ。早くメディウス倒してやんなよ。俺は他の敵兵が入ってこないように入り口塞いどいてやるからさ。」
 言われずとも俺は殺る。
 誰の邪魔も入らない中、俺は必死と言う名の悦楽の中でメディウスをひたすら斬り続けた。

 そして……。
 むぉんっ。
「マルス王子参上。」
 メディウスを何とか倒してその場にヘタりこんでいる俺に、マルスはこう言った。
「勇者ナバール。約束どおり『特別な恩賞』を与えよう。」
 特別な恩賞?そう言えばそんな事言ってたな……。メディウス斬っているうちにそんな事は忘れていた。
『ナバール。この世の中で一番大切なものとは何だろう。金だろうか。地位だろうか。否。それは人間(ひと)自身だよ。そうは思わないかい?」
 何が言いたいのだマルスは……。何でもいいから早く終わらせてくれ。早く休みたい。
「金や地位……そんなものは幾らでも与える事が出来る。それは他の兵士達に与えよう。だがこの僕の体。一番大切なこの僕の若い肉体はただ一つ……。」
 だから何だ。
「ナ、ナバール先輩っ!アブナイっ!」
 ラディが叫んだ。
 え?
 次の瞬間、俺はマルスに組み敷かれていた。
「勇者ナバール。君に僕の肉体と言う特別な恩賞を与える。……メディウスを倒したということで、君は恩賞を……僕を欲しいと言ったも同然……。君が僕を欲しいと思うのは現在。どうだい?紳士的だろう?」
 どこが?と言おうとすると、代わりに叫ぶ声がした。
「そんなムチャクチャな理屈が通るかっ!お前のしていることは、自分の立場を利用してナバール先輩をオカそうとしてるだけじゃないかっ。そんなことは、この勇者ラディが許さない。月に代わってオシオキだっ!」
 マルスは馬鹿力でヒットポイント残り一の俺を押さえ込んだまま(サイテーだと思う。)、ラディに向かって不敵に微笑んだ。
「たかが勇者レベル八風情が、ステータス・オール二十の僕に盾突こうと言うのか?」
 ラディは怯まなかった。銀の剣を装備しながら、ラディはマルスを睨みつける。
「俺のステータスにはっ、お前には無い項目があるっ!!」
「ほう?それは何だ?」
「『勇気』だっ!!」
 ラディはマルスに突進した。
 ラディの攻撃。
 マルスはすばやくよけた。
 マルスがすばやくよけたので、押さえ付けられていた俺は自由になった。
 マルスは気付かない。ラディの「ゆうき・二十」攻撃に気をとられている。
「『勇気』か……。勇気が何の役に立つ(光の王子がこんなこと言うな)。」
「ナバール先輩が逃げるのに役に立つっ!!」
「あっ。しまったっ!待ってくれっ、ナバールぅ!!」
 待つものか。
「ナバールぅ!!あ、……ぐぐっ。ま、また腹が、腹がにがって来た。だ、誰か……。」
 チェイニーが(マルスの姿をしたまま)しゃしゃりでた。
「はい、マルス様オマル。ダジャレのつもりだよーん。」
「ち、違う。誰かナバールを捕まえてくれっ!」
 マルスはそう言ったが、走って行く俺を誰も捕まえようとはしなかった。
 遠ざかった後ろのドルーア城からは、マルスの悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「待ってくれぇぇっ!ナバールぅっ!愛してるんだぁぁっ!」
 そうか、俺を愛しているか。ならば俺を失うことがお前の運命だ。お前の持っているファイアーエムブレムとはそういう伝説があるんだろう?よく知らんがな。
 ばっさ、ばっさ、ばっさ。
 おや?シーダが何故追って来る。下痢で留守番部隊に居たのではなかったか。
「ナバール。下痢がひどいけれど私、見送りに来たの。野営地にワープして来たガトー様が、貴男が行ってしまうと教えてくれたのよ。どうか立ち止まって後ろを見てあげて。みんな下痢腹抱えて貴男を見送りに追って来るわ。感動的な別れのシーンをしに来たの。」
 確かに感動的だ。臭いたつほどだ。
 「どどどどど」と言う音をたて、アリティア軍が追って来る。見送りだと言わなければ、俺は条件反射で剣を構えそうだ。
 シーダの次に俺の元へ来たのは、ペガサス三姉妹だった。彼女らはトライアングルの陣形で俺を囲むと三人でハモった。
「トライアングル・アターック見送りっ!……意味無いわねーっ。」
 本当に意味無いぞ。
 ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ。
 次は馬か。
『馬だと思ったでしょ。残念でした。ボク、ホースメン。ちなみにボクは下痢してません。」
「ナバールさん。来世では是非ホースメン同士で会いましょう。ホースメン同士でロマンスが楽しめることを僕は夢見て待ってます。」
 そんなこと考えてないで、現世での子孫繁栄に精を出せ。それにしても生きていたのか。良かったことだ。
 ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ。
 馬しかいないな。
「やあ、ボクだよ。」
 ロシェか。ジョルジュと二人乗りなんかして……。
「また『美形トライアングル・アタック』やろうね♪」
「ウララ、ウララ、ウラウラでぇ。今度こそ私が狙い撃ちされてみせる。美しさでは君にひけをとらないつもりだ。私はパツキンだ。うっ……腹が……。すまない、ロシェ。ここでしていいか?」
「ヤダよォ。馬の上でなんて……トリートメントしたばかりなのにィ。」
 美しさか……。でもこの世の中で一番美しいのは俺でもお前でもないぞ。一番美しいのは敵の流す赤い血だ。
 ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ。
 今度はミディアがアストリアを連れて来た。
「アストリアがどうしてもお別れを言いたいんですって。」
「ナバールさん。貴男のゲロは本当に美しかった。今度はゲロだけでなく下痢をしたときに――――。」
 ピシッ!
 ミディアが馬の鞭で彼氏をぶった。
「そこまで言ったら人間おしまいよーっ!!」
 読者の中で今の意味がわからなかった人は、わからないまま美しい心でいてほしい。
「何が美しい心なのかね?私の心はいつも美しいよ。去りゆく子羊くん。」
 かぎかっこ内以外は俺の心の中で思っていることだ。勝手に心を読むんじゃない。
「それは失礼した。シャイな子羊くん。けれど私にはわかってしまうのだよ。それは君の寂しい心が私を呼ぶからに違いない。これからも、寂しいときには呼ぶのだよ。では子羊くん、アデュー!」
 もう立ち止まってないで走ろう。これ以上変な奴が来たら――――。
 むぉんっ。
「うわっ!」
 驚いた。レナがワープしてきたのか。しかしワープという手も使われるとすると……もしアレがワープで来たら怖いな……。
「ナバールさん。間に合って良かった。貴男のおかげでジュリアンのお尻は治りました。今まで色々とありがとうございます。お礼に貴男がこわれたときの為にハマーンは一回分必ずとっておきます。その時は来て下さいね。」
 嬉しいような……嬉しくないような……。素直に喜べないのは嫌な予感がするせいだ。もしあの男がワープで――――。
 むぉんっ。
「ナバールッ!まだ色々してないのにどうして行ってしまうんだぁっ!」
 し、しいたけ……!
 俺は去る。すぐ風のように去ってやる!
「レナっ!ハマーンはいいから俺をワープでどこかへ送ってくれ。遠くだ。出来るだけ遠くがいいっ!」
「できるだけ遠く……ですか?遠距離は試みたことがありませんが……ナバールさんの頼みです。杖、一気にこわれるかもしれませんが……やってみましょうっ。」
 レナは真剣な表情でワープの杖を両手で握った。握る手に徐々に力を込めているのがわかる。レナの顔に汗が滲んだ。
 俺達のいる草原に強い風が吹き始める。
「これってぼくのエクスカリバー?」
「うっ、うわっ!からだが飛ばされそうだっ。目が開けられん。ナ、ナバール、どこにいる!?」
「きゃあっ!ペガサスが飛ばされちゃうっ。翼閉じるのよーっ!」
 杖の力なのかレナの念力なのか、強風は俺を空中に押し上げていく。
 空中に押し上げられながら俺は、今までに聞いたことのないレナの力強い声を聞いた。
「超ぉワぁぁプぅっ!!」

 むぉんっ。



第八章其の弐に続く

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