草原にはためく


作 . なばる野のぐそ

 草原の狼。
 人は彼をそう呼んだ。

 彼は馬を駆る。戦いの為に。
 そして彼自身の情熱の為に。

 その日、彼は情熱の為に馬を走らせていた。
 彼は体に馬を感じることが好きだった。故に馬に鞍をつけずに走らせることがしばしばある。鞍どころか、彼は腰から下の衣類をつけないことさえもあった。
そんなハーディンの事が、馬はとても嫌だった。
(感触がイヤ。)
 馬はそう考えていた。
 彼は気の済むまで馬を走らせると、そろそろ仲間達が憩うテントの方へ帰ろうと思った。
 もうすぐテントの群が見えるであろうと思ったその時、彼は草原の中でポツンと生えている一本の木を見つけた。
 木には何か白い布のようなものがかかっている。
 彼は近づいてみた。
 フンドシだった。
 風通しの良いところへ干そうと思ったのだろうか。いや、それだけではこんなテントと離れた場所に干すまい。
 彼はそのフンドシの持ち主に興味を持った。この場所に干すことは男の恥じらいを意味するように思えたからだ。あるいは草原の中ではためく一枚のフンドシに男のロマンを感じたからかも知れない。
 早く帰りたそうな愛馬インドカレーを無理に立ち止まらせながら、彼はそのフンドシを見つめ続けた。
 草原の中で唯一フンドシを見つめるハーディンの方へ、テントの方から三人の戦士が鋼の斧の素振りをしながら近づいてきた。
 戦士の一人が干してあるフンドシを見て言った。
「ややっ。あれは隊長のフンドシ。」
 二人目の戦士がフンドシに触れながら言った。
「もう乾いているようだ。」
 三人目の戦士がフンドシを枝から外しながら言った。
「では持って行って差し上げよう。」
 三人の戦士は「そうしよう、そうしよう。」と言い、また鋼の斧を素振りしながら帰って行った。
 ハーディンは考えた。
(あの三人の戦士はサジとマジとバーツ。彼らの隊長と言えば、タリス王国軍の隊長オグマ・・・・。)
 オグマ、とハーディンは頭の中でもう一度名を繰り返してみる。そして今度は上質のワインを口の中で転がすようにその名を味わってみた。
 オ・グ・マ・・・・。




 次の野営地では、やはりテントから離れた位置にフンドシが干してあった。
 一枚だけではない。
 いつも干してある白いフンドシの隣には、寄り添うようにもう一枚の紫のフンドシが枝にかけられている。
 風の吹き渡る草原の中で、二枚のフンドシは時々互いの身体を絡ませながら風景に解け込んでいった。
 ハーディンは丘の上からそれを眺め、満足気に微笑むと、また馬を走らせた。


 彼は馬を駆る。戦いの為に。
 そして彼自身の情熱の為に。





ENDE.   
「草原にはためく」        
副題、「草原のヘンタイ」でした。

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