IT'S SO DELICIOUS

 

 

 

 いつもより酒場が賑やかなのは、バレンタインだからかな。テーブルはほとんど埋まってたんで、カウンターに二人で並んで座った。
 今日は一日エルクさんと一緒にいた。ビビガさんにヒエンを作るのに不足してる部品を聞いて、ガレキの滝やジャンク山で使えそうなものを探してた。僕は機械とかよく知らないから言われた通りに動くだけだったけど、前に空中城へ乗り込むためにヒエンを修理した時は全然関われなかったから、今度は手伝えて嬉しいんだ。
 そうして特別なことはしないで過ごしたけど、バレンタインのチョコは用意してある。夜にあげようと思ったんで、渡した時のエルクさんを見るのを今から楽しみにしてるんだ。きっと喜んでくれるはずだから。
 エルクさんはお酒を、僕はご主人に年がバレてるからジュースを飲みながら話したりしてるところに、誰かが僕達の後ろで立ち止まった。
「エルクさん。」
「あ?」
 振り向くとシェリルがめんどくさげな顔で立ってて、手にした袋をぞんざいにエルクさんへ差し出した。
「これ、とりあえず受け取って。」
「なんだ?」
「いいから。渡したよ。」
 シェリルは有無を言わせずそのまま彼に押し付けた。
「おっ、シェリル、チョコレートか?」
「えっ…。」
「バーカ!」
 彼女の行動を見てたご主人がカウンターの中から声をかけてきた。チョコと聞いて驚いたけど、即座にシェリルが否定する。
「言っとくけどあたしからじゃないから。じゃあね。」
 念を押して去ろうとするのを、エルクさんが呼び止める。
「ちょっと待て。誰からか知んねぇけどいらねぇから。返しとく。」
 シェリルからではないとしても、エルクさんへの思いが込められたものに違いないから、彼がきっぱり断ってくれてホッとした。でもシェリルはそれを取ろうともせず、いらついたように髪をかきあげた後またも踵を返した。
「捨てていいよ。」
「おい!」
「とにかく中見てみな!あたしは関係ないからね!」
 エルクさんが腕を掴もうとするのをかわし、そう言い残して二階へ上がって行った。
「なんなんだ一体…中見ろって、めんどくせぇ…。」
 袋を開けるエルクさんの横で、僕は複雑な気持ちでいた。どこかに彼へ好意を寄せてる人がいたっておかしくないけど、僕だってまだ渡してないのに。そりゃ無理やり受け取らされた形ではあるけど、だからってシェリルの言うように本当に捨てられるわけないし。エルクさんが中から紙を取り出した、きっとラブレターだ。
「…やっぱり、バレンタインのですか?」
「…あいつ、焼かれたいらしいなっ!」
 エルクさんが急に怒りを顕にグシャッと握りつぶした。今にもシェリルを追っかけていきそうな勢いだ。
「えっ、なに…。」
「一度は許してやったけど、二度目も黙ってると思ったら大間違いだぜ。」
 何がどうなったのかさっぱりわからなくて、袋をのぞいてみた。中にはよく見かけるチョコレート菓子がラッピングもされずに箱のまま入ってる。
「あの…これが何か?」
 尋ねると、握ったままの拳が僕の目の前に突き出された。彼の手から紙を抜いて少しシワを直して目を走らせる。まず『ハッピーバレンタイン』と書かれていて、真ん中に大きくコアラの絵が描いてある。
「…これ…ルッツの…。」
 浮き輪をしてるコアラの下に添えられた『コアラプールを探してね!見つけたらラッキーなことがあるよ!』という文字は、紛れもないルッツの字。
「まだ協会集落にいる時間か、あの緑は!」
「あ、いえ…あいつはなんか調査で今ギスレムには…。」
「あーのーやーろー!」
 叫んだ拍子に炎が上がっちゃうんじゃないかと思った。手紙の内容はもちろん、お菓子も1コ1コに色んなコアラが描いてあり珍しい絵のをついつい探しちゃうっていうもので、いくらルッツでもやり過ぎだ。
「すみません、あいつには僕からも痛い目合わせときます。」
「あ?おまえが謝ることじゃねぇだろ。」
「でも元はと言えば僕のせいだし…。」
 僕がエルクさんの名前を聞き間違えちゃったことがあったせいで、ハロウィンにもそれをネタにルッツがやらかしたんだ。
「おまえはいんだよ。むしろそれがおまえ。」
 強い口調のまま言い切られた。常日頃エルクさんは僕のすることがおかしいらしくて、必要以上におもしろがってる感じなんだ。でも僕はわけがわかんないまま笑われて、イヤな気がしないと言ったら嘘になる。
「あ、怒った?」
「いえ…。」
 僕が自分でボケッとしてる自覚がないのと同じで、彼にも悪気はないんだもんな。エルクさんは落ち着きを取り戻したみたいで、少しバツが悪そうに座りなおした。
「…俺は、おまえがそんなだから興味ひかれたんだし。」
「そうなんですか?」
「あぁ、今思えばあれがきっかけだったかもな。」
 インパクトはあっただろうけど、どうしてあれがきっかけでこういう関係になれるんだろう…僕わかんない…。
「…でも…あの、エルクさんけっこう早くに気にしてくれたんですね、僕のこと。」
「…うん、まぁ…。」
「…僕はもうちょっと後だったな。」
「…へぇ。」
 最初に僕が彼を必要として、それからエルクさんも僕を好きになってくれたと思ってた。もっと話を聞きたいけど、エルクさんはわざと視線をはずしてこっちを見ない。照れちゃってるんだ、きっともうここでは答えてくれないだろう。
「エルクさん、もう行きませんか?」
「…ん。」
 少し顔を寄せて提案したら、思いの外素直に従ってくれた。これはそうとう照れてる印だ。
「あ、これどうします?シェリルの部屋に返してきちゃいましょうか?」
 早々に立った彼に置いてかれないよう急いで紙を袋に戻すと、エルクさんはそれを軽く取り上げた。
「食う。好きなんだよこれ。」
 あんなに怒ってたのに、掌に袋を載せてそう言う彼は子供っぽくてかわいかった。しかも好きなんだってコアラのお菓子。
「僕のもちゃんと食べて下さいね?」
「え…。」
 つい笑いながら口にすると、エルクさんはギクッとしたように僕を見下ろした。
「あれ?2つくらい平気ですよね?エルクさん甘いの好きだし。」
 今おなかいっぱいなのかな?いつものエルクさんならへっちゃらな量なのに。もしそうなら仕方ないけど…出来れば僕のチョコは今日食べてほしいよな、全部でなくていいから。
「あ、びっくりした。食えって、自分のことかと思った。」
 首を傾げてた僕に、驚き覚めやらぬ様子で目を大きくしたまま言った。
「自分?」
「ん、わかんねぇならいい。どっちも食うよ。行こうぜ。」
「はぁ…。」
 僕の疑問を手で制し、そのまま腕を引いて立たせてくれた。エルクさんはカウンターにお金を置き、僕の肘のあたりを持ったまま歩き出す。まるでエスコートされてるみたい。何がそんなお気に召したのかわかんないけど、間近に見る彼はとっても楽しそうだ。
 怒ったり照れたり笑ったり、かわいいところもある彼が大好きだ。そんなエルクさんの好物がコアラのお菓子だってのは、ルッツには絶対教えてやんない。

 

 

end

 

 

<言い訳です>

コアラのお菓子はコアラのあれです。エルクは「僕もちゃんと食べて下さいね?」って聞こえちゃいました。
アレクも自分も誰かから告られたりしないように、エルクはわざわざ一日町を離れてました。
ルッツはわざと仕事で不在だったわけじゃなく、本当なら自分で渡したかったと思います。
自分で渡すとしたら、街角でエルク待ち伏せして「これ受け取って下さい!」って、キャーvvって走って逃げると思います。

 

back