春ある国に生まれ来て
二人で暮らし始めて間もない頃だった。僕らは何をするでもなく、ただ他愛もない話をしていた。エルクさんも話題が尽きて、なんとなく聞いたんだと思う。
「おまえさ、誕生日っていつ?」
「五月…。」
その日が、誕生日を聞かれて答えるべき日付かどうか迷った。
「五月?」
言葉に詰まった僕に、エルクさんは首を傾げる。自分の生まれた日を言えないなんて、不思議がられて当然だ。
「…サシャ村では、五月十四日に祝ってくれてました。僕、誕生日を覚えてないんで。」
ある日、ルッツがお菓子やプレゼントをもらってて、僕も与えられるものと思い隣で手を差し出したんだ。でもルッツは誕生日だから贈り物をされてると教えられて、忘れてしまった僕はダメなんだとすごくがっかりした。そしたら村の人達が僕の誕生日をつくってくれたんだ。きっと僕はよっぽど泣きそうなひどい顔をしたんだろうな。
「そっか。何の日なんだ?その日。」
エルクさんがごく自然に口を開いた。僕はこの人のこういうところが好きだ。同情するんでも気にならないフリをするんでもない。ただ、今の僕を認めてくれる。
「僕がサシャ村に着いた日です。エルクさんの誕生日は?」
「俺は四月だ。十一日。」
「四月十一日ですね。じゃその日はお祝いしなくちゃ。」
日付を心の中でも繰り返して、しっかりと刻み込む。エルクさんと一緒にその大切な日を迎えられたなら、僕はどんなに幸せになるだろう。
「五月十四日もな。」
エルクさんは穏やかに微笑んでいた。なんで彼がその日もと言うのかわからなかった。だって僕が村に流れ着いただけの日なんだってことは説明したのに。
真意を知りたくてエルクさんの瞳をのぞき込むと、彼も見つめ返してくれ、そっと僕の頬に手を伸ばした。
「俺にも祝わせてくれよ。その日がおまえにとって特別なのは変わらねぇだろ?」
手の温もりと優しい声が体中を満たした。僕は顔が笑み崩れるのを止められなかった。僕の特別な日を祝福したいとエルクさんも思ってくれてるのが、言葉にならないほどの喜びをもたらした。五月十四日は単に特別なお菓子を食べられる日だった。けど次からは違う。彼がいてくれる限り、とても愛しい時間を過ごせる日になる。
嬉しくて、添えられた手に頬をすり寄せ、包むように自分の手を重ねた。そしてエルクさんからは唇が重ねられた。春が待ち遠しくてたまらなかった。
end
<言い訳です>
短っ!
アレク誕生日小説です…一応。
当日の話じゃありませんが…春ですらないもよう…なんとなく言葉のアヤで…。