ぼくたちの失敗
「ギスレムへ?」
「あぁ、だいぶ治安が悪くなってるらしいんだ。」
二人で合わせてとった休暇も残り少なくなってきた頃、次の仕事がもう決まってた俺は、アレクにそれを話して聞かせていた。ギスレムにはもともと荒っぽいやつらが多かったが、最近そいつらの無法ぶりが目に余るらしい。今回、長期滞在して警備に当たるのが俺の任務。
「そうなんですか…シェリル、大丈夫かな。」
「デンジャードームなんてもんがある限り、安心して暮らせる町にするのは難しいだろうがな。」
ギスレムの象徴とも言えるデンジャードームは、以前はそれなりの秩序が保たれていた気がする。現状はよく知らないが、まぁ手始めはあそこからになるだろう。
だけど俺、あの町は嫌いじゃない。なんとなくインディゴスに雰囲気が似てるからな。
「デンジャードームかぁ。昔、よくお世話になりましたよ。」
「へぇ…。」
なんだか意外な感じがした。あの場所がアレクにそぐわないという思いが少しと、アレクの言葉にも違和感を覚える。だってデンジャードームに対して、お世話になりましたなんて言うやつがどこにいる?
「六人もいると、やっぱり色々物入りで。」
はぁ〜、アレクにとっちゃアイテム調達所ってことか。あの仲間達なら、危なげなく勝ち取ってっただろう。だけどやっぱり腑に落ちない。
「あれだけ仕事こなしてりゃ、金には困らなかったんじゃないか?」
あんな短期間にレジェンドハンターまで上り詰めた仕事量は半端じゃない。しかもギルド本部からや町がらみの依頼だってこなしてた。キツイ分、報酬だって多かったはずだ。
「あ…ルッツとシェリルが高い合成アイテムをほしがるから、お金がいくらあっても足らなかったんですよ。」
「あぁ、それでか。」
「でもおかげでいいアイテムや武器をたくさん作ってもらいましたけど。」
そう言ってアレクは懐かし気に笑い、でもすぐに表情を硬くして、俺がつつがなく仕事を出来るように祈るというようなことを口にした。俺はそれに笑みで返し、その話は終わらせたんだ。
ギスレム入りした俺は、まずギルドに寄って打ち合わせをし、それからデンジャードームを目指して通りを進んでいた。俺も少し顔が売れてるせいか、人の悪そうなやつらが遠巻きにこっちを見ている。今はただ存在だけを知らしめればいい。俺は出来るだけ威圧感を湛えて歩いた。
デンジャードームには数人がたむろしていた。勝負の申し入れをしてるやつらも何人かいる。ここのルールはまだ健在のようだ。
見回してると、槍を持った男が勝負を挑んできた。同じエモノを持つ同士やり合おうってわけだ。ちゃんとアイテムだって出してくるし、そんな悪いやつには見えない。断る理由もないんで受けようとしたところ、そいつは思い出したように口を開いた。
「ちょっと待て。あんた、あんま見かけねぇがハンターか?」
「そうだ。」
「そういうことなら、今の話はなしだ。」
「へぇ…大抵のやつはハンターと見たらケンカ売ってくるのに、珍しいな。」
以前ほどじゃないが、それでも一部のやつらにハンターは目の敵にされてる。特にこのギスレムはその傾向が強いかもしれない。そのためギスレムを拠点にするハンターはずいぶん減った。だから治安が乱れたと言っても過言じゃないんだ。
「前にハンターにゃ、痛い目に合わされたんでね。」
普通はそれでハンターを忌々しく思ったりすんだろうが、こいつはそこんとこさっぱりした性格みたいだ。好感の持てるやつに出会えて、ギスレムも捨てたもんじゃないなと思う。そしてこいつを負かしたというハンターにも興味があった。
「そんな骨のあるやつがいたのか。」
「あぁ、だいぶ前の話だけどな。まだガキのくせにこんなとこ来やがって。大ケガしないうちに軽くあしらって追い出そうとしたら、逆にこっちが痛い目を見たんだよ。」
「ガキ?」
「ガキにしては高価なもんばっか持ってたから、目ぇつけるやつはけっこういたけど、まぁ返り討ちに合ってたぜ。」
「へぇ…。」
ハンター、ガキ、高価なもんと聞いて、脳裏に浮かぶのは優しく笑うアレク。あいつ言ってた、金が足らないくらい合成アイテムが必要だったって。それを手に入れるためには、それ相応のものを賭けに差し出してたはずだ。
「やたらと珍しいもんばっかほしがって。まぁ合成実験でもやってたんだろうが。」
「合成?」
「シェリルだよ。あいつが仲間にいたんだ。あと、なんかナイフ使う小僧が騒いでたっけな。」
間違いない、そのハンターはアレクのことだ。こんなとこで噂を耳にするとは思わなかった。
「他にもカーディストのガキと、魔法使うねえちゃんと、大剣操るにいちゃんもいてよ。こいつらは性質悪かったぜ。ガキはモンスターカード試そうとうずうずしてやがるし、ねえちゃんとにいちゃんに至っては肩慣らしと言わんばかりだ。」
「…そうか。」
あぁ、目に浮かぶぜ。アレク、よくまとめてたなそんな五人を。なんとなく讃えてやりたくなった。よっぽど印象に残ってるのか、槍使いの話はまだ続く。
「あまりにも調子に乗ってるから、何人かがキレちまってさ。戦利品を返せってけしかけたんだが、そのガキどもも譲るわけねぇよな。んでヤバイ雰囲気になった時そのハンターのガキが、ここはデンジャードームだから何でもいいから品物を出して自分と戦え、勝てば全部返してやるって言い出した。」
それって普通は、よっぽど腕に自信があるかハッタリかだよな。でもアレクのことだ、仲間に危険が及ばないように、その場を治めようとして出した妥協案のつもりだったんだろう。
「…それで?」
結末なんて聞かなくてもわかる。だってあいつは、デンジャードームに『お世話になりました』って微笑んでたんだから。
「そんなありがてぇ話ねぇから、皆のるだろ。でもそのガキ、見かけによらず強くてよ。剣も銃も魔法も使われたら、どうしようもねっつーの。かわいい顔してやってくれたぜ。」
そいつは楽しそうに、さらにアレクの特徴を追加してくれた。あいつの武勇伝は俺にとっても誇らしいけど、少し不安が過ぎる。
「今だに根にもって、荒れ狂ってるやつらもいるぜ。」
あぁ、やっぱり…こいつみたいに、物分りのいいやつばかりじゃない。そしてここギスレムは、ハンターへの風当たりが強い…。
「まさか、それで治安が悪くなったわけじゃ…。」
「そればっかじゃないだろうけどよ。ま、一端は担ってるかもしれねぇな。」
あぁ、アレク…俺、がんばるからな。
話のしめくくりとともに、俺は決意を新たにしたのだった。
end
<言い訳です>
エルクがギスレムに行ったわけ捏造です。
3プレイ中、デンジャードームでは赤い服着た弱い人を選んで戦って、アイテム巻き上げてたので、
実際こんなんしてたら闇討ちとかされそうだよなぁ、なんて考えたことがありました。