feel fine
朝起きて一番にすることは、窓を開けること。晴れてても曇ってても、外の空気は気持ちいいから。
身支度を整えて廊下に出ても、やっぱり目は窓へ向く。今日はよく晴れてる。まぶしい日差しに目を細めながら、ゆっくりと窓の前を通り過ぎていく。目的の部屋はドアが閉じられているけど、きっともう起きてるだろう。私のために鍵ははずされているはず。
「おはようございます!」
ノックをして、挨拶と同時に扉を開ける。そうして目がいくのはやっぱり窓。
「おお、おはよう。」
「おはようございます。」
エルクさんとアレクさんはまだ仕度中のようだ。でも服は着替え終わってるから、入っちゃってもいいよね。この部屋からは何が見えるんだろう。笑顔で応えてくれた二人の間を通って窓辺へ向かう。
「あ、川が見えるんですね。」
私の部屋とは少し離れてるから、違う景色が見れて得した気分。空は晴れ渡っていて、白い雲がとてもよく映えている。この世界には雪というものが降るらしい。雲のように真っ白で、氷のように冷たくて。すごく寒い日に降るそうだけど、いつか見てみたいな。
雪のことを教えてくれたのはエルクさん。彼は明るくて太陽みたいな人。今日みたいな空がよく似合う。アレクさんは穏やかな木漏れ日のイメージ。心地よい優しさを与えてくれる人。まるで私達が焦がれてやまなかった、この地上そのもののような人達。
外を存分に眺めたら、今度は室内に視線を戻す。二人はほとんど仕度を終えていた。ふとアレクさんが腰掛けているベッドに目が留まる。実は前にも少し気になったことがある。
「アレクさんて几帳面ですね。」
「え?」
「いつもベッドをきれいになおしてるでしょう?」
今だって座ってるために出来たシワしか見られない。寝る前とほとんど変わらない状態になおすなんて、私にはめんどくさいことだけど、この人にとってはそうじゃないんだろうな。
「…あっ…これはっ…。」
なんだろう、アレクさんが心なしか恥ずかしそうにしてる。
「…あぁ、こいつはもともと寝相いいから、あんま乱さねぇんだよ。」
エルクさんがグローブをはめながら教えてくれた。そっか、それならシワを伸ばすくらいで十分だもんね。エルクさんの方は、寝返りしまくったんじゃないかってほど全面がグシャグシャ。二台を比べたらまるで使用前、使用後ってくらい違う。まぁ、私が寝た後のベッドもエルクさんのとそう変わらないけど。
「そ…そうなんです…。」
まだちょっとしどろもどろなアレクさん。私、そんなに変なこと言ったかしら?もしかすると几帳面って言ったの、神経質とか女性っぽいって意味に聞こえたのかな。きちんとしているのがとってもアレクさんらしいと思ったんだけど。
「いいなぁ、私あんまり寝相よくないんですよ。」
「ベッドから落っこちたりしてるのか?」
「そこまで悪くないですよ。時々枕が落ちてたりするくらいです。」
あと掛け布団が横になってたり、枕が足元にあったりしたこともあるけど、言わないでおこう。
「僕も子供の頃はそんなによくなかったですよ。」
「へぇ、じゃあよくなったんですね。」
よかった、アレクさん笑顔に戻ってる。つられて私も嬉しくなっちゃう。
「えぇ、一緒に寝るようになってからは…。」
「え?誰とですか?」
「えっ…。」
聞き返した私にまたアレクさんは固まってしまった。あれ?一緒に寝るってことは、つまり…アレクさんがこれだけ真っ赤になってるってことは、もしかして恋人のことを言ってるのかな?
「……そうだな、横に何かあればその分動けねぇかもな。フィニア、なんなら今日一緒に寝るか?」
「えっ!?エルクさんとっ?」
考え事の最中にとんでもないことを言われて、ずいぶんすっとんきょうな声が出てしまった。
「多少なら蹴っ飛ばされてもかまわねぇぞ。」
そんな私の様子がおかしかったのか、にやにやしながらエルクさんが続ける。あー、びっくりした!完璧にからかわれてるわ。
「ひどーい、そんなことしませんよーだ!」
「そうか?案外、枕だって蹴落としてたりしてな。」
こういう時のエルクさんってすごく楽しそう。絶対に小さい頃いじめっ子だったに違いないわ。でも私だって負けないわよ。
「エルクさんこそ、布団蹴っ飛ばしたりしてるんじゃないですか?」
「あぁ、よくわかったな。」
「それじゃ私が蹴られちゃうじゃないですか。遠慮しときます。」
一緒に寝るなんて冗談に決まってるけど、私だけドキドキさせられて悔しいから、こっちからお断りしてやる。それを聞いてエルクさんが笑い出した。
「そっか。じゃ、また今度な。」
さもおかしそうに笑ってる。「また今度」って、まだ言うか!って気もするけど、なんだか私も楽しくなってきて笑っちゃった。ひとしきり笑い合ったら、エルクさんがドアの方へ向かって歩き始めた。
「さ、メシ食い行こうぜ。」
「はい。」
「は…はい…。」
私が窓から身を離すと、アレクさんもぎこちなく立ち上がった。そうだ、アレクさんの恋人の話を聞こうとしてたんだっけ。アレクさんはまだ赤い顔してる。純情な人なんだなぁ、なんだか聞き出すのが気の毒に思えてくる。だから、まぁいいか、いつか話してくれるかもしれないし。彼の恋人も寝相がいいのかな。
エルクさんがドアを開けたまま待っててくれてる。駆け寄って見たその顔は、いまだに笑っていた。
end
<言い訳です>
フィニアは二人のこと気づいてません。
アレクのベッドは未使用なんだってことも気づいてません。
この日の夜、アレクは「使ってるよ〜」と見せかけるためベッドを荒らしにかかります。
でも余計怪しまれるぞと、エルクが止めるので、きっとフィニアは気づかないままでしょう。