「すっごい仲間」
10月31日はハロウィンの日です。ハロウィンとは、秋の収穫を祝って、悪魔を追い払うお祭です。リノではこのお祭はしませんが、ベルニカ村はカボチャを飾ってお祝いすると聞いたことがあります。よその町では大々的なお祭をするところもあるそうです。
パンディラでも毎年開かれてて、ルッツさんがそれに僕を誘ってくれました。一緒に旅をした皆も集まるし、僕のことはアレクさんが連れてってくれると言うので、局長さんも行くのを許してくれました。僕はハロウィンのお祭は初めてなので、とっても楽しみでした。
そして待ちに待ったハロウィンがやって来ました。アレクさんが迎えに来てくれたので、二人でパンディラへ行きました。到着したのは夕方でした。
町の入り口で、僕達はその異様さに足を止めてしまいました。パンディラはいつもはきらびやかでとても派手ですが、あの日は町中に怪しさが満ちてました。照明が紫、赤、青、オレンジなんかが基調になってて、生きた心地のしない雰囲気です。いたるところにガイコツやコウモリが吊り下げられて、地面には四角い大きめの石が点々と置いてあります。よく見ると墓石でした。
何よりお祭に来ている人達が普通じゃないんです。どこで買ったんですかその服…って聞きたいくらいおかしいんです。というより、すれ違う誰もがお化けの格好をしてました。中には包帯ぐるぐるの人もいて、親切なアレクさんはキュアをかけてあげようとして、爆笑されました。町全体がお化け屋敷になったみたいでした。
とは言え、通りにはちゃんと屋台が並んでいて、その辺はお祭っぽかったです。でもその屋台も真っ黒く塗られてたり、蜘蛛の巣が張りつけられてました。そして売ってる人もお化けでした。
いい匂いにつられて一軒のお店を覗き込むと、狼男さんがお肉を焼いてました。とてもおいしそうでしたが、その店先には切り落とされた手首や足首が吊るされてました。今思えば偽物に決まってるけど、あの時は、喰われる!と思いました。
僕とアレクさんが叫んだまさにその時、背後で僕達に負けないくらいの悲鳴が上がりました。もうダメでした。振り返りもせずに僕達は絶叫しながら通りを駆け抜け、待ち合わせ場所の宿屋に逃げ込みました。
予想してましたが、宿屋もお化け屋敷でした。酒場のお姉さん達はいつもより豪華なドレスを着てて、顔を青白く塗ってました。明かりは全てロウソクになってたので、その中で見ると本物のお化けのようでした。怖くてアレクさんにしがみつくと、アレクさんは「大丈夫」と言いながら頭を撫でてくれました。外では僕と一緒に怯えてたアレクさんだけど、もう落ち着きを取り戻したようでした。さすがハンターだと、とっても頼もしく思いました。
受付でルッツさん達のことを尋ねると、二階の部屋にいると教えてくれました。ちなみに宿のご主人は吸血鬼でした。
部屋にはルッツさんとシェリルさんがいて、ケンカしてました。相変わらずだなぁと止めに入ろうとしたら、僕を見た二人はそれまで言い争ってたのが嘘のように、すぐさま笑顔に変わりました。
それを目にして、僕はすごく安心しました。今ルッツさんは協会集落のアイテム協会で働いてるので、シェリルさんと毎日のようにケンカして、誰も止めてあげる人がいなかったら二人の仲が悪くなっちゃうんじゃないかと思ってたんです。だけど今みたいにお互い隣合って笑っていられるんなら、きっとうまくやっているんだろうとホッとしました。
部屋には色んな物が散乱してました。ルッツさんは「よし、始めるか!」と言って、その内のいくつかを拾い上げてシェリルさんに渡し、シェリルさんをお風呂場に追いやりました。「覗かないでよ!」「お前なんか覗くかバカヤロー!」というやり取りが、なんだか懐かしかったです。
それからルッツさんは僕とアレクさんにも、ポンポンと何かを投げてよこしました。僕には黒っぽい物で、アレクさんのは茶色っぽい物です。そしてルッツさんは赤っぽい何かを引っ張り出して自分の足元に置くと、着てる服を脱ぎ始めました。
「もしかして、僕らもこれに着替えるのか?」
「おう!オレ様が皆にピッタリのやつ選んできてやったからな〜!」
アレクさんが尋ねると、ルッツさんは白タイツに足を通しながら答えました。どうやらこのお祭はお化けの格好をしなきゃならないみたいだと気づきました。聞いてもないし、頼んでもないですが、この時の僕はルッツさんが白タイツで何に化けるつもりなのかで頭がいっぱいでした。さっさとしろよと言われ、僕は渋々着替えることにしました。
ルッツさんが用意してくれたのはフード付きの黒いマントと、白い柄が入ってる黒いつなぎでした。収穫を祝うお祭で、なんでこんな目に…と思いましたが、白タイツじゃないだけマシだと自分に言い聞かせました。
「なんだよこれ!こんなの着ないからな!」
渡された茶色い服を突き出して、アレクさんが言いました。服というか毛皮のようでした。
「え〜!?気に入らないのかよ!?」
「誰が気に入るか!だいたいお化けの仮装するんじゃないのかハロウィンって!」
「皆同じじゃつまんねーじゃんか!」
「じゃ、お前が着ろ!」
「いーけど、じゃ、お前これ着る?」
ルッツさんは自分の身に着けてる衣裳を指さしました。ルッツさんは白タイツの上にカボチャ型の大きなブルマーを穿き、縁がフサフサの毛で飾られた豪勢なマントをしてました。そしてマントの下には何も着てませんでした。僕の目の前にいるのは裸の王様でした。確かにこのハロウィンのお祭で、誰ともかぶることのない格好でした。
「…それはイヤだ…!」
「なんだよワガママだなぁ!そんじゃ王様の命令!お前はそれ!」
一方的に言い渡されたアレクさんは、ひどく屈辱的そうに唇を噛みしめながら部屋のすみっこへ行き、のろのろと服を脱ぎ出しました。そんなにイヤなら突っぱねればいいのに、断れないアレクさんがなんだか懐かしかったです。
つなぎに袖を通し終えたところで、ふと自分の体を見下ろした僕は絶句しました。柄だと思ってた白い部分は、骨格を形作ってたんです。手、肩、胸、腰、足に、それぞれその場所にあたる骨が白で描かれてたんです。背中の方を引っ張って見ると、やっぱり背骨が描いてあるんです。
こんなのイヤだ!と脱ぎ捨てようとした直前、部屋の電気が消されました。すると骨が暗闇の中に光って浮かび上がって見えたんです。
「お〜いいじゃん死神、似合う似合う!やっぱ光る方にしといて正解だったな!」
「なんですかこれ!しかもわざわざ光るやつにしたんですか!?」
「もちろんっ!モンスターっぽいだろ?」
「モンスターっぽいってなんですか!」
「だってお前モンスター好きじゃん。」
「そんな配慮いりません!」
ルッツさんは電気をつけると、僕が脇に置いておいたマントを拾って「まぁまぁ、光りたくなきゃこうしとけって」と、僕に被せました。本当はモンスターっぽいというのにちょっとだけ心が揺れてましたが、どうしても吹っ切ることは出来なくてマントを着込みました。駄々をこねてもよかったけど、そしたら裸の王様にさせられそうで言えませんでした。あれだけはイヤでした。お風呂場からシェリルさんが出てきました。シェリルさんは胸が大きく開いてる、ビラビラしたスカートの白いワンピースを着てました。珍しく濃いお化粧で、赤い口紅が目立ってました。写真で見たことがある昔の女優さんにそっくりな格好でした。
見惚れてたら「変?」と聞かれたので、きれいですと言うと、少し照れくさそうに「ありがとう」と笑ってくれました。シェリルさんはこういうきれいな服が好きみたいです。似合うんだから普段からもっと着たらいいのにと思いました。ルッツさんも、もしかしたらそれをわかってて、シェリルさんのためにこの服を選んだのかもしれないです。
そのルッツさんは「その胸じゃ足りねー!なんかもっと詰めろ!」と暴言を吐いて、殴られてました。
「ところで、この紐はなんなの?」
肩の辺りから垂れてる紐を指に巻きつけて、シェリルさんが言いました。あぁ、と返事をしながらルッツさんは「ちょっと貸してみ」と紐を受け取ると、一気にそれを引きました。するとシェリルさんのスカートがバッと上にめくれ上がったんです!
ギャアッ!と必死に押さえるシェリルさんに「違う!もっと腕をこう!胸を挟む感じで!膝をくっつけて!」と、ルッツさんは自らもそのポーズをとって指導してました。ついにキレたシェリルさんは太ももに装備してた銃を抜き出し、ルッツさん発砲されてました。
僕は「シェリルさん!パンツ見えちゃいますから!」と命からがら止めに入りましたが、やっぱりなんだか懐かしかったです。