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 ギルドに入ると、ふと受付に佇んでいる赤いマントに目がいった。赤は注目を引く色ではあるが、多用されているし珍しい色ではない。それでもその人物に視線が向いてしまうのは、よく正義の象徴として表されるその色と、纏う彼の本質が違えぬもので惹きつけられるからだろう。
 清算を終えて俺に気づいたアレクは、軽く頭を下げてからこちらに歩み寄った。以前から礼儀正しかったが、知り合った頃の固さは消えた。何気ない挨拶を交わすと、彼は穏やかに微笑んだ。
「僕これから家へ帰るんです。エルクさんも今日戻ってくるはずですから、何か伝えることはありますか?」
「いや、あいつとはこの前会った…そうか、それでか。」
「何か?」
「何日も前から船の手配をしていた。妙に浮かれていると思ったが…。」
 アレクと合わせた休みだからだったのか。わかりやすいやつだ。
「エルクさんがですか?」
 控えめに問いかけてくるのを相づちで返してやると、彼の目はたちまち細まり喜びを表した。照れてか、すぐに俯いて表情を隠したが、口元が嬉しそうに綻んでいる。こちらもまたわかりやすい。
「あ、それじゃ僕もこうしちゃいられないや。急いで先に帰らないと…。」
 少し慌てるように上げられた顔は、抑えてはいるがやはり笑みが離れていなかった。
「もしかして家事を全て君がやっているのか?」
「はい?」
「エルクの戻る前に片付けなどしなければならないことでもあるのか?あいつだって一通りやれるだろう。遠慮しないで働かせてやれ。」
「あ、違います、家のことはエルクさんも一緒にやってくれてます。」
「そうか…。」
 急いで帰宅しなくてはと聞いたので、てっきりアレクが一人でこなしているものと思ってしまった。いらぬ世話だったな。
「先にって言ったのは、そういうんじゃなくて…僕が彼を迎えたいんです。誰も待ってない家に帰るのは寂しいですから…。」
 静かに語る彼を見て、アレクも大災害で一人になったのだとエルクから聞いたのを思い出した。そして、かつて自分も抱いた感情が蘇る。
 エルクを助けるまでは、帰宅時に自分の部屋を見上げたことなど一度もなかった。あいつと生活するようになると、自室の明かりを確かめるようになった。最初のうちはエルクがちゃんと家に帰っているかを確認するためだったが、習慣になるにつれ点いているのが当たり前になり、消えていたら少し気落ちしたものだった。いつのまにか、エルクが出迎えてくれるのを快く思っていた。
 今エルクはアレクと暮らしている。自分のために灯された明かりと、アレクの和やかな出迎えを受けて、エルクはあの頃の俺と同じような気持ちを味わっているのだろう。
「それに僕も、“おかえりなさい”って言えるのが嬉しいんです。」
 目の前のまだ表情に幼さを残す彼と、俺に日常というものを教えてくれた元気な子供が重なって、また記憶が引き出される。
 仕事が長引き、予定より帰りが遅くなった時など、エルクはうつらうつら眠気をこらえながら俺を待っていた。揺り起こすと、目をこすりながら“おかえり”と言ってくれた。
 もともと子供に縁遠く接し方がわからない上、忙しさからあまりかまってもやれない俺のところにいても、つまらないだろうと思っていた。だがもしエルクも“おかえり”という言葉を特別に感じていたとしたら、俺も少しはあいつの心を満たしてやれていたのじゃないか。
 温かな思いが巡り、自然と口角が上がる。俺を見上げていたアレクが、恥じるように視線をはずした。
「…えっと…すみません、子供っぽい話をしてしまって…。」
 俺のリアクションを誤解したらしい。そんな彼が微笑ましく、俺はもう一度笑った。今度は感謝を込めて。
「いや…エルクが早々に帰宅の準備をするわけだ。」
 彼の優しさにエルクは慰められているだろうし、俺にもこの穏やかな心地をもたらしてくれた。
「…それじゃ、僕行きます。」
 こちらの胸中が伝わったのか、彼は晴れやかにそう告げて、一礼した後ギルドを去った。

 これから再会する二人を思う。今日はエルクが早く戻っているといい。アレクは自分が待つ側であることに喜びを見いだしているが、迎えられる方もなかなか嬉しいものだ。“おかえり”と同様“ただいま”も、相手がいてこそ口に出来るのだから。
 どうか幸せな時間を、俺の家族達に。

 

 

end

 

<言い訳です>

エルクの家族はシュウの家族!…てことで。
シュウの一人称は「私」と迷ったんですが、機神で「俺」だったのでこっちにしました。
途中のシュウが、息子のいたらなさを嘆き嫁を気遣う母になってます。
シュウにはもっと難しい言葉をしゃべってほしいのに…アレクとほぼ変わらない思考に…。

 

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