コノヨノシルシ
自分の部屋と同じくらいに見慣れたドアをノックする。「うぉ〜い」っていうふぬけた返事もまた少しの間は聞けなくなるのかと思うと寂しいかな。
「ルッツ、ちょっといい?」
「おう、どうした?」
床に広げたアイテムやら本やらの真ん中にルッツはいた。最近は僕とイティオへ出向くより、家でヂークベックをいじったり、こうしてアイテムマスター目指して勉強することの方が多い。
「写真見せてほしいんだ。」
「写真?ちょっと待って。」
「一枚持って行きたいんだけどいいかな?」
「あぁ。何すんの?」
「何かに使うってわけじゃないんだ。出来るだけ僕の子供の頃のがほしいんだけど…。」
二人してベッドに上がって、ルッツが戸棚から取ってきたアルバムを間に挟んで座った。
「そんじゃこの辺かな?」
「うん、どれにしよう…。」
僕個人のアルバムは作ってない。ほとんどルッツかクレッタさんと一緒に写ってるから、カネック家のものにまとめて貼ってくれてるんだ。少し前の僕達が並んでたり遊んでる写真がある。さすがに大災害直後のものはないから、なるべく顔がよくわかるものにしよう。
「で?何すんだ?」
「うん…今日、海を渡る仕事を受けてきたんだ。」
「えっ…行っちゃうのか?」
ルッツがアルバムから顔を上げた。村への帰り道で考えた話す順番を、もう一度思い起こす。
「明日、南スラートへ行ってくるよ。」
「大変な仕事か?」
「届け物だから、心配ないよ。」
「うん…。」
ルッツは戸惑うように視線を落とした。どんな言葉が返ってくるのかすぐには知りたくないような気がして、続けて口を開く。
「それでさ、僕まだ記憶は戻らないけど、ロマリアにいたってことは思い出せただろ?」
「うん…。」
「だからもしロマリア出身の人がいたら、写真見てもらおうと思ってさ。もしかしたら僕のこと知ってる人がいるかもしれないから。」
「…そっか。じゃあかわいいの選ぼうな〜。」
「それは普通でいいけど。」
明るい口調に、僕は苦笑した。ハンターになるため村を出ると告げた時、ルッツは間髪入れずに一緒に来ることを決めた。もうあんな風には言ってもらえないんだろうな。
「あ、これいいじゃん。」
「うん、じゃあそれにする。」
ルッツが指差したのは二人でとってもらったもの。おどけた顔をしたルッツと、それを見ておかしそうにしてる僕。昔からルッツは僕を笑わせて、寂しさを紛らわせてくれてた。
「ちょうど俺様もいるし?」
アルバムからはがした写真を差し出す時に、ルッツが写真とよく似た表情をしてみせるから、僕も同じように笑い返す。
「ちょうどって?」
「アレク寂しい時さ、その写真で俺様のこと思い出せるだろ?一石二鳥じゃん。」
「そうかもな…。」
「お?もうすでに寂しくなってんのー?」
「そんなことはないけどさ。」
やっぱり今回は僕一人で旅立つことになりそうだ。ルッツがアルバムを閉じて、それを胸にギュッと抱き寄せた。
「俺様の方が先に寂しくなっちゃって、アレクのこと追っかけちゃうかも。」
「来てくれるのか?」
「行く。絶対会いたくなるもん。」
アルバムにあごを載せたままルッツはきっぱり頷いた。会いたいと思ってもらえるだけでこんなに嬉しい。だから余計に側を離れたくないんだ。
「…僕も、ルッツに会いたくて、帰ってくると思う。」
自分の気持ちを確かめるようにゆっくり言葉にすると、ルッツが目を大きく見開いた。
「マジで?」
「うん。」
「姉ちゃんでもゴゼ老でもなくて?」
「そりゃ、皆に会いたいけど、一番会いたいのはおまえだよ。」
ルッツの手からアルバムがすり抜けた。そのまま床へ落ちちゃいそうで、慌てて腕を伸ばして受け止める。ベッドの上に置き直してルッツを見ると、ルッツは俯いて両手で顔を覆ってた。な、泣いてる?
「な…どうした?」
「ちょっと…おまえも俺が一番ってのが…すげー幸せ…。」
くぐもった声はまるで恥らってるように聞こえた。なんか僕の一言に過剰に反応してるけど、こっちだってさっきルッツが言ってくれたことすごく感激したんだぞ。ルッツが一番に決まってるのに。
「そんなの…ルッツ以外に誰がいるんだよ。」
思ったままを呟いたら、ずいぶんすねた感じになっちゃった。言い方がまずかったのか、ルッツがびっくりしたように頭を上げた。
「へっ?」
「…なんでもない。」
「なんでもなくねぇって!今すごいこと聞いた!」
「…すごくなんかないよ、おまえが気づいてないだけじゃないか。」
「おぉっ!?いつそんな意思表示してた!?」
「いや、特にはしてないけど…。」
「そんじゃわかるわけねぇじゃん!」
「はっきりと言ったりはしてないけど、ずっと一緒にいただろ。少しは感じとれよ。」
「そんな高度な技もってねぇし!」
親友だとか色々ルッツが言うたび、僕は頷いてたじゃないか。なんでそれでわかんないかな、僕も同じ気持ちだって。
「ルッツはさ、自分ばっかり僕のこと考えてると思ってるんだろ?僕だって…。」
「…うわわわわアレクっ、仕事ってホントに届け物だけか!?」
「え?」
両肩を掴まれて詰め寄られたけど、意味がわからない。
「なんかもう二度と会えないかもしれないからって急にそんなこと言い出してんじゃねぇ!?」
「二度と会えないってなんでだよ?さっき帰ってくるって言っただろ。」
「ホントだな!?」
「ホントだよ。」
「だってさ、さっきから信じられねぇことばっか言うんだもん!」
そんな風に半泣きでわめかれると困る。信じられなくても僕は変われない。
「…僕に一番に思われてるなんて迷惑?」
「違う!その信じられないじゃなくて!信じられないくらい嬉しい!だってアレク俺のこと好きなんて!俺マジでどうしようっ、両思いになった時のシュミレーションまだ出来てねぇ!」
ルッツがムダに大きい身振りで頭を抱え込んだ。今ところどころに不可解な単語が混じってたような…。
「両思い…。」
「あ!俺ちゃんと言ってないな!待って待って、俺もコクらして!」
パパッと居住まいを正しまっすぐにこっちを見る。
「俺おまえのこと大好きだから!」
握った掌を膝に押し付けた前のめりの姿勢で真剣に告白された。僕はまばたきするのも精一杯で、息も出来ない。ルッツはすぐに情けない顔になって、髪をかきむしってる。
「両思いだってわかったのに早速離れ離れかよ俺達。もっと早くに言っときゃよかった〜!」
大げさに嘆いて、体の脇に下ろしてた僕の手めがけて倒れこんできた。
「わっ…。」
「アレク〜…。」
ルッツが両手で持った僕の手に頬を寄せた。指が口に当たり、息もかかる。びっくりしてついルッツの手を握り返すと、気づいたルッツがそのままの格好で見上げてきた。つないだ手も見つめられてる顔も、急に熱を帯びてきた気がしてならない。
「俺さ、おまえと一緒に行きたいよ…けどさ〜…。」
また目を反らし、今度は僕の指をいじり始める。子供っぽいその仕草を見て、腕から力が抜けた。だけど胸が少し苦しくなった。一緒に行きたいっていうお互いの思いを、指先で知らせ合ってるみたい。
「…アイテムのこと…たくさん、勉強するんだろ?」
「うん…はぁ〜、なんか切ない…。」
「…何が?」
「だってさ側にいねぇと、おまえが心変わりしそうになっても止めらんねぇじゃん。」
「な、何言って…。」
そう言えば、ルッツが僕を好きって話をしてたんだった。両思いっていうのは、僕もルッツを好きだってことだ。心変わりって、僕の一番がルッツじゃなくなるってことだ。
「アレクもてるしな〜、誘惑がいっぱいだぜきっと…浮気しないでな?」
お願いするように下から覗き込まれて、またドキドキしながら首を縦に振った。浮気するなと言われて自然に頷いちゃったし、つながったままの手も嬉しいし。だから僕もそういうことなんだろう。
「…そんな心配ないよ…もししそうになったら、ルッツに会いに帰ってくるよ。」
「それ、なんだかちょっと嬉しくねぇぞ〜。」
「なんだよ、会いたくないのか?」
「いや会いたいっす!」
「よかった。」
ガバッと勢いよく起き上がったルッツに微笑んだ。目線は僕よりちょっとだけ上のいつもの位置、でもいつもより近い距離。あぁそうだ、触れてる指からだけじゃなくって、僕もちゃんと伝えないとな。
「僕も、大好きだよルッツ。」
end
<言い訳です>
すみませんルアレです…。
3後、二人で村へ帰ってから、アレクはイティオで仕事して、
ルッツは時々それ手伝って、でもほぼ村で姉孝行とお勉強…って感じだと思いました。
二人が初めて離れ離れになる前夜に、アレク流されました。