夏の終わり

 

 

 最初に手にした武器は、シュウが選んでくれた槍だった。剣や斧を使うこともあるけど、一番扱いやすいのはやっぱ槍だ。
 鍛冶屋が流行ってた頃は一つの武器を鍛えて長く愛用したもんだけど、大災害後にウェポン協会が普及してからは、合成技術によって新しい物がどんどん開発されるんで新品に買い換えることが多くなった。より良い武器を欲して売り買いを繰り返しはしても、やっぱり愛着が湧いた物は売り難い。
 手元に残したいくつかの武器を、それにまつわる思い出を一つ一つ浮かべながら、床に並べてく。あんま出番はなくても、時たま手入れをしてるんだ。シュウが銃の整備は欠かさない質で、俺もそれに倣ってガキの頃からやってたんで面倒には思わねぇ。
 昔はシュウの横で行ってたが、今は隣にアレクがいる。アレクも俺と並んで座り、数種類の武器を広げ出しだ。出会った頃のこいつは様々な武器を用いてたけど、最近は主に剣とナイフを使ってるようだ。前は銃を必ずと言っていいくらい携帯してたのに、ここんとこ実戦で使用してるのを見ない。不思議に思って聞いてみたことがあるけど、銃弾を手に入れるのが困難な時もあって、不便さを感じてからはあまり持ち歩かなくなったと説明された。
 そういう理由もあるだろうけど、たぶん俺のためでもあるんじゃねぇかと思ってる。だいぶ前アレクに、どうして俺は銃を持たないのかを尋ねられたんだ。養い親とも言えるシュウが銃の達人なんだから、教わったりしなかったのかって。俺はガキの時、一時期だけど銃に恐怖を抱いてた。村が攻められて、目の前で父さん達を撃ち殺されたから。記憶をなくしちまってる間も朧気だが夢に見てたしな。だから自分から銃を取ろうとはしなかったと答えると、よく覚えてはないけどアレクは済まなそうにしてたんじゃねぇかな。アレクが俺の前で銃を使わなくなったのは、あの話をしてからだ。なんか、愛を感じるよな。
 偶然かもしれねぇけど、なんて謙虚な俺が頭ん中に現れたが即退場させて、いい気分のまま作業を開始する。アレクも用意し終わると、まず一本の剣を取り上げた。
「その剣、ずいぶん古くねぇ?」
 手入れは行き届いてるが、鞘の傷付き具合なんかに年季が感じられる。誰かから譲られたとかなんかな。
「はい…これは大災害の時に助けてくれた人にもらったんです…。」
「そっか…。」
 アレクの命の恩人。どこの誰かはわかってねぇが、いまんとこ空中城で敵として戦った相手が有力なんだよな。アレク、あの時すげぇ苦しんでた。今だって切なそうに剣に触れてる。でもまだガルドだって決まったわけじゃない。信じ続けるのも悪くねぇさ。アレクの気持ちを盛り上げてやりたくて、話題を変えようと口を開いた。
「あ、じゃあもしかして、おまえのマントもその時にもらったもんなのか?」
 あ?微妙に話変わってなくないか?いや、前々からあのマントのボロさは謎だったんで、つい聞いちまったぜ。
「いえ、あれは村の人が作ってくれたものです。」
 アレクにとっても予想外の質問だったようで、顔が素に戻ってる。とりあえずこいつの気はそらせたからよしとすっか。
「なんだ。てっきりそうかと思ったぜ。」
「なんでですか?」
「だってボロボロじゃん。」
 アレクの眉間に少しシワが寄る。あ、やべ、口が緩んだついでに本音が。アレクは戸惑いがちに俺から剣へ視線を移して俯いた。まずい、アレク自分のマントのボロさを意識したことなかったらしい。
「ボロボロ…。」
「ボロボロっていうか…ずいぶん使い込まれてるってかさ!よっぽど大事なもんだと思ったんだよ。」
 呆然と呟いてるアレクに、無意味に声を張り上げてフォローした。セーフか?大丈夫か俺?いいや、後は笑顔でカバーだ、笑っとけ。なんでか恐々と上目遣いで俺を伺ってるアレクにとにかく笑いかけると、アレクはホッとした様子を見せ、つられるように小さく微笑んだ。
「えぇ、大事ですよ。僕がハンターに憧れてたから作ってくれたんです。使わなくなったカーテンを縫い直して。」
 カ、カーテン?今度は口を滑らせるのはなんとか留まったが、吹き出しそうになったのを笑顔を固まらせて堪える。カーテンって、ハンターごっこして遊ぶ子供に与えられた、汚れようが破れようが構わない布で作ったマントもどきをいまだに使ってるってことか?
「すごいんですよ。炎に強いし、光も通さないんです。」
 あぁ、防炎・遮光処理のカーテンな。きっともらった時に大人からそう教えられたんだろう、とっても優れものなのよとかなんとか言って。いや、そりゃ大抵マントにゃそんな素材が使用されてっから、布的に問題はねぇんだけどもさ。アレクがあまり自然に話すので、もしかすっと消臭加工もされてんじゃねぇの?とからかうのはためらわれた。
「そっか…。」
 これが俺に出来た精一杯の返事だ。物にこだわらないアレクは非常に男らしいが、不憫に思えて仕方ねぇのはなぜだろう。
「なぁ明日、買い物行かねぇ?」
「いいですよ。何を買うんですか?」
「ちょっとな…。」
 急にマント買ってやったりしたら、不審がるだろうか。これから寒くなるからな、とでも言おう。色はやっぱ赤か?丈は寒さを理由にするなら長い方が納得しそうだが、今のカーテンの長さもこいつに似合ってるよな。まぁ、いくつか着せてみて選べばいっか。
 槍を手に取ったものの、アレクを横目で盗み見ては頭の中で着せ替えごっこを展開してしまったため、手入れはなかなかはかどらなかった。

 

 

end

 

<言い訳です>

アレクのマントがボロボロなのは、ハンターごっこの最中破き、繕ってもまた破くので縫ってもらえなくなった為。
無頓着なアレクは気にせず着用。村人は見慣れてボロさを忘れ、あの格好のアレクを世に送り出しました。
一般の人々は、アレクがあまりに平然とまとってるので何も言えず…という案を押してみます
この後、エルクにもらったマントとボロボロマントをアレクは交互に使い、エルクちょっとへこみます。まだ使うか…と。

 

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