say the word

 

 

 あんな場面でシュウが現れるなんて、夢にも思ってなかった。
 氷の回廊を出てから、落ち着くようずっと自分に言い聞かせてた。とにかくクタオの迷宮に行くことにしたんだ、あれこれ考えたって仕方ないと。
 でもそれも長く続かなかった。ジハータに着いてすぐ、念のためギルドでシュウのことを聞いてみたが何も知らないという。期待してたわけじゃないけど、なんだか苛立っちまって。ギルドを後にする時、フィニアに話しかけようとした職員をどついてやった。それでもイライラはおさまらない。このままじゃアレクやフィニアにまで八つ当たりしちまいそうだった。
 一人になって頭を冷そう。二人には宿の手配なんかを頼んで、俺はヒエンへと向かった。

 

 ヒエンのチェックを簡単に済ませ、それからずっと槍を振り回してた。ずいぶん気は晴れたけど、さすがに疲れた。こんだけやればもう余計なことは考えられないだろうと、ヒエンの中で寝転がったが全然ダメだ。やっぱ動いてないと色々浮かんできちまう。だいたいヒエンはシュウからもらったもんだ、思い出すなって方が無理なんだ。
 場所を変えるか。でもアレク達にはここにいると言ってあるから、もし迎えにきて俺がいなけりゃ更に心配かける。っていうか、そう思うなら戻ればいいのにな。まだ心の整理つかないのかよ、なっさけねぇの。
 思わず苦笑した時、誰かが草を踏みしめるのが聞こえてきた。意外に近くて、すぐにタラップへ足をかける音が響く。こんな時間にこんな場所へ来るなんて、町の人間じゃない。
「エルクさん…。」
 二、三段上ったところで、ためらうように呼びかけてくる。おそらく俺が町を出る時に、用事を言いつけることであいつを遠ざけたのを悟ってるんだろう。それ以上は何も言わず、上がってもこない。
「……どうした。フィニアは宿にいるんだろ?おまえも休んでていいぞ。」
 出来るだけ優しく声をかけてやる。体を起こすと、ようやくアレクも姿を現した。
「何か手伝えることはありますか?」
 俺が返事をしたことで安心したのか、さっきよりは軽い調子で言う。俺を気遣う言葉と笑顔に、素直に応えられない。そんな自分に苛ついて、それをそのままアレクへと向けてしまいたくなる。
「…俺はいいから、フィニアを一人にするなよ。」
「そのフィニアさんが心配してるんです。エルクさんの様子を見てきてほしいと頼まれました。」
 俺があんな言い草したことをもう後悔してるのがわかったのか、アレクはひるまず微笑む。
「別に…俺は大丈夫だ。整備が済んだらすぐ戻る。」
 気まずくて、また突き放すように言ってしまう。穏やかなアレクを前にして、こんなにガキっぽいことやってる自分が恥ずかしくなってきた。アレクにはそんな俺を見せたくないのに。
「じゃ、待ってます。」
「…アレク……。」
 アレクは俺の嫌な言葉なんて気に留める様子も見せない。いつものこいつなら、俺の何気ない一言にでも気落ちする。俺だけに限らず、相手の言葉に食い下がることもそうないだろう。それだけ今俺はアレクを心配させてるんだ。
「気持ちは嬉しいけど、おまえだって疲れてるだろ?今日いろいろあったしさ…。」
 フィニアもアレクも、シュウのことでショックを受けたに違いないのに、それでも人を思いやることが出来る。俺だけが立ち直れず、あげく当たり散らしてるんだ。
「そうですね、ずっと寒いところにいましたし…。」
 情けないったらないこんな俺なんて、放っておいていい。二人を支えてやりたいのに、今はまともに顔も見れない。
「だったら先に…。」
「でもエルクさんの方が大変でしたよ。だから僕が先に休むわけにいきません。」
 俺の話を遮り、アレクがゆっくり、きっぱりと言い切った。少しだけ強い口調に、怒らせたかと思い表情を伺う。だが見上げたそれは、俺なんかよりよっぽど苦しそうだ。なんでこいつはこんな顔してるんだ?おまえが言ったんだろ、俺の方が大変だったって。
 でも、そんなはずないよな。おまえが疲れてないはずがない。シュウが姿を消してから、俺はろくに口もきかなかった。戦闘だって協力しようとしなかったな、好きなように炎操って。もちろんおまえ達には及ばないようにしてたけど、フィニアが体を強張らせてたのはわかってる。おまえは気が気じゃなかっただろ。俺は自分勝手に進んでいくし、フィニアはモンスターと俺に気を張り詰めててさ、その両方のフォローをしなきゃならなかったもんな。おまえが冷静さと優しさを示してくれたから、俺達は無事に氷の回廊を抜け出すことが出来たんだ。
 一番大変だったのは、おまえだよ。
 そう口にしようとした矢先、アレクは俺から視線をはずすように少し俯き、でもすぐに微笑を返してきた。
「ヒエン、また明日南スラートまで飛ばすんですから、ちゃんと点検しなくちゃいけないですね。僕、機体に異常がないか外を見てきます。」
 アレクが努めて明るく振舞ってるのがわかる。俺に暗い顔を見せるわけにいかないと思ったのか、それともうまく慰められない自分がもどかしくなったのか。どっちにしても、俺の気が済むまでとことん付き合うと決めたみたいだな。
「…外、もう冷えるだろ?」
 こいつが頑固なのはわかってる。だから俺がなんて言ったって、もう先に帰ることはないのも想像つく。それでもこんな聞き方するのは、最低にどうしようもない俺でもアレクは側にいてくれるって、もっと確かめたいから。
「そんなでもないですよ。それに僕ここへ来るまでずっとあったかくしてましたから。」
「まだ整備かかるかもしれないぜ…。」
 予想通りだ。でもまだだ、もう一言甘えさせてくれ。
「そうですか。それじゃ、念入りに見て回れますね。終わったら声をかけて下さい。」
 俺の求めてた答えを残し、アレクはこの場を後にした。言い終わる前におまえは背中を向けちまったから見えなかったか?もう俺は笑ってるぜ?おまえのおかげでな。
 でも一度緩んだ顔はなかなか戻ってくれねぇよ。たいした嬉しがりようだな、オイ。なんか照れくさいから、せめて見られる顔になるまで待ってくれ。きっとアレクは本当にヒエンを調べて回るだろうから、そしたらいつもの俺で出迎えてやろう、一周してきたあいつをな。

 

 

 

end

 

<言い訳です>

エルク、途中からシュウのこと忘れてるじゃん…

 

 

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