年下の男の子
パルトスは近々開かれる武闘大会の話題でもちきりだった。去年のこの時期に起きた事件を思い出しながら町を出る。僕とエルクさんは今一緒に行動してて、行き先を知ると彼もついてきてくれた。
山道を進んでたどり着いたのは、リシャルトさんのお墓。アカデミーとの戦いの中で命を落として、一年になる。
目を閉じ黙祷を捧げた後、町には戻らずリシャルトさんが暮らしてた山奥の家へ向かうと、普段は無人の住まいにヴェルハルトが帰ってきてた。お墓にまだ新しい花が添えられてたから、たぶん会えるんじゃないかと思ったんだ。僕達が先にお墓に寄ったことを聞き、ヴェルハルトは感謝の言葉を口にした。顔を見せるだけのつもりがお茶を出してくれたんで、少しお邪魔することにした。
しんみりとしてたけど、互いの近況を話してるうちにそんな感じもなくなった頃、それまで静かだったエルクさんがヴェルハルトに言った。
「おまえ年いくつだっけ?」
「18だ。」
「だよな。アレク、おまえなんでこいつはタメグチなのに俺はずっとそんな丁寧なんだよ。」
「は?」
「俺、ヴェルハルトと1コしか違わねぇじゃん。なんかいつまでも他人行儀なんだよな。」
何を言い出すんだこの人。他人行儀だなんて、僕達が特別な関係なんだってほのめかしてるようなもんじゃないか。
「あの…だってエルクさんはハンターとして尊敬してますし、ヴェルハルトは旅した仲間だし…。」
「冷てぇな、俺だって一緒に戦った仲間じゃねぇか。」
「そうですけど…。」
僕が努めて気を落ち着けて当たり障りなくした答えに、彼は不服そうに返してきた。
「おし、おまえこれからですます禁止。」
「え…。」
「おまえだってレジェンドハンター名乗ってんだ、俺と対等だろ。」
「そんな、エルクさんに比べて…。」
「あ、もちろんさん付けもなし。」
「そんなの出来ませんよ。」
エルクさんを呼び捨てるなんて無茶だ。でもそれ以前に、こんな話は二人の時にしてほしかった。
「やらねぇうちに出来ねぇ言うな。とりあえずやれ。な?」
「…はい…。」
一歩も引かない彼をとりあえず納得させるため頷くと、エルクさんは眉をしかめた。
「はい、もなぁ。おう、とか。うん、とか。」
「…う…うん…。」
傍観を決め込んでるヴェルハルトを横目に首を縦に振った。これでエルクさんの気が済んでくれるといいけど。
「お、いいじゃん。もっとなんか話せよ。」
あぁもう、エルクさんて思い立ったが吉日な人なのか。あなたにはヴェルハルトが見えないんですか。僕はまだあなたと話すのにも実はちょっとどきどきするんで、人前で平然としてみせるのは忍耐力がいるんです。
「…今年も、武闘大会出るのか?ヴェルハルト。」
「あ、あぁ…。」
とにかくしゃべればいいんだよなと思い、ヴェルハルトを名指しした。急に振られても困るよな、ごめん。
「周りからは出ろと言われてる。まだ決めてはないんだが、実戦を積むという意味で出てもいいと思ってる。」
「そっか。うん、ヴェルハルトが出れば大会も盛り上がるしな。応援するよ。」
「おまえは?」
エルクさんが普通に口を挟んだ。う…きた。やっぱり逃がしてはくれないか。
「…え?」
「おまえは出ねぇの?」
「…うん…。」
「なんで?」
えっと、去年は必要に迫られての出場で、僕の意思でというわけではなかった。これを言葉を選んで伝えればいいんだな、あんまり長く話すとボロが出ちゃうだろうから。
「…出る必要がないから。」
「…去年優勝したんだろ?」
「…うん…。」
「じゃ今年も出れば?」
「…ううん…。」
「なんで?」
僕ああいう大舞台って苦手で、自分から出るつもりなんてない。エルクさんの指摘を受ける隙がないよう、慎重に発言しなきゃ。
「…出たくないから。」
「………。」
よかった、もう反論ないみたいだ。でも彼はなんか複雑な苦々しい顔してる。なんだろう、エルクさんの望む言葉使いで尋ねるなら、どうした?とかって言わなきゃいけない。そんな偉そうな口きけないから、黙ってよ。
「…あんた達、さっきより他人行儀に感じるんだが…。」
「そんなことないよ。」
ヴェルハルトにしては珍しく遠慮がちな口調だった。ほら、僕達だけでしゃべってたからだ。もうこの話は終わりにしよう。
「…わかった。いつも通りでいい。」
僕が言い出す前に、エルクさんが折れてくれた。助かった、彼がまだこだわるようなら、雰囲気が悪くなろうがきっぱりと断らなきゃいけなかったし。
「よかった。あんな風に気を使って話すなんてやっぱり変ですよ。」
「うん…。」
力を抜いてエルクさんに笑いかけると、彼はあいまいに頷いた。
突然訪ねたわりにゆっくりしちゃったから、もうこれで帰ろう。エルクさんは心残りでもある様子だけど、この場では我慢してもらうしかない。だから後で二人になったら、誰もいないのを確かめて、一度だけさん付けしないで名前を呼ぼう。すごい緊張するだろうけど、嬉しがる彼を見てみたいから。
end
<言い訳です>
アレクの言葉使いについて、一回はエルクが難くせつけるだろうと思いました。
自分のが4つ年上だしな、と思ってたけど、ヴェルハルトと話すのを聞いてて、
ヴェルハルトとは年齢的な遠慮をアレクが感じてないのが悔しくなって、
わがまま言ってみたら、アレクが対応しきれず無愛想になったので諦めたって感じです。