Naturally Ours

 

elcin the guild

 

 予定通りに仕事が終わったんで、報告のためにギルドへ向かう。今日はアレクと待ち合わせしてるし、その前に宿屋に預けっぱなしの荷物を引き取りに行きてぇし、さっさと済ませちまわねぇとな。もうチョコとプレゼントを買ってある。俺がバレンタインってガラかとは自分でもツッコミてぇとこだけど、あいつが喜ぶなら恥だって捨ててやる。
 ギルドに入ろうと扉に手をかけると、ちょうど二人組のハンターが出てきたんでおざなりに挨拶しながら入れ違いで中へ入る。二人は同じ小さな袋を携えてた。なんか配られてんのか?
「エルクさん!」
 ここにいるはずのない声に呼ばれ、反射的に聞こえてきた方を向くと、すでにアレクがこっちへ駆け出してきていた。
「おまえっ、どうしたんだよ?」
 約束の時間にはまだ余裕あったよな。なんにしても会えるのは嬉しくて、言葉がちょっとうわずっちまった。
「早く来たんです、エルクさんいるかと思って。あの!これどうぞ!」
 唐突に差し出されたのは小振りな袋。今日この日に渡す物といったらチョコとかか?
「へっ…あ、どーも…。」
「義理チョコです!」
 袋を受け取ったまま手が凍りつく。この後一緒に過ごすわけだから何も今じゃなくても…とか、俺も用意してあっけどまだ荷物取ってきてねぇんだよ…とか、これじゃまるで周りにみせつけてるみてぇじゃん…とか、一瞬で複雑に動いた俺の心は一蹴された。
「エルクさんにはものすごくお世話になってますから。これからもよろしくお願いします!」
 少し照れくさそうにアレクはわざわざ頭まで下げた。恋人に対する照れじゃなく、親しい間柄なのにかしこまってみせてることでの照れだろそれ?
「これから報告ですか?」
「…うん…。」
「それじゃ僕、待ってますね!」
「あぁ…。」
 終わり?バレンタイン終了?なんか…これってどうなんだ?いや、嬉しいぜ?改まってよろしくお願いしますなんて、アレクっぽいぜ?でもさバレンタインでさ、俺達の仲ならさ、なんかもっとありそうじゃねぇ?なぁ?
 釈然としない俺を残し、アレクは俺の後から入って来たハンターに近寄ってった。
「あの、これどうぞ、義理チョコです!」
 さっきすれ違った二人が持ってたのもこれか?アレクが配ってたんですか。チョコも同じなら添える言葉も同じだ。ふと宿屋の荷物を思い出す。あんなプレゼントまで買って、俺一人で盛り上がってたみたいな…いや、まぁ一応チョコもらったし、これだってちゃんとバレンタインだよな。
 気持ちフラフラしながら受付に声をかけたところで、俺はまた石化した。ギルド職員のいるスペースに、アレクのチョコが散らばってるからだ。こっちもか…こっちも配ったか!
「あんたももらったのか。」
 苦笑する職員に半ば呆然と頷いた。チョコは仕事してるやつの脇にそれぞれ置いてあったり、デスクの一角に小さく積まれた分もある。
「休みのやつのもくれたよ。いつもお世話になってますってさ。買い過ぎたって言ってたから、余ったのをあんた達にやってんだな。」
 目の前のやろうに妬みを通り越した憎しみが沸く。メインは職員、俺は義理。いや義理以下の、おこぼれ、ほどこし、在庫処理だ。
 なんか泣けてきた。認めるよ、俺はバレンタインが楽しみでした。こんなナリした俺が甘いやりとりを期待しちまってました!自分で思うよりずっと恥ずかしいやつでした俺!
 清算まで終わり魂出そうなため息とともにノロノロ振り返ると、出口の前でアレクが笑って待っていた。チョコは処分しきったらしい。
 宿屋の荷物を思い出す。どんな顔して渡せってんだ…。

 

 

 

alecon the street

 

 ギルドで待ち伏せしたかいあって、早くエルクさんに会えた。僕が先に来過ぎたから彼はまだ宿屋に用事を残してるんで、一緒についてくことにした。
「義理チョコっていい慣習ですよね。チョコくらいなら遠慮しないで受け取れるし、小さいのにすれば多く渡せるし。」
 日頃の感謝をささやかながらも形にして示せる。それにチョコは食べ過ぎるといけないけど、疲労してる時とかにちょっと口にするといいらしいし。
「…そうだな…。」
 彼はさっきまで仕事中だったから、少々お疲れみたいだ。義理チョコ渡せてちょうどよかったな。
「でもあのチョコじゃ、エルクさんには少ないですね?」
「ハハハ…。」
 エルクさんが力なく笑った、ずいぶんくたびれてるのかもしれない。加えて甘い物好きな彼には、あれだけじゃ足りないだろう。
 荷物の中にはもう一つチョコが入ってる。エルクさんへ贈る、特別大きくて甘いやつ。お世話になってる人へは義理チョコで、好きな人にあげるのは本命と呼ぶそうだ。さっきのは義理チョコだったからギルドでも渡せたけど、さすがに本命はこんな道端じゃいやだ。
 そっとエルクさんを見ると、やっぱり疲れた顔してる。うるさくして煩わせちゃいけない。静かな落ち着けるとこで二人になれたら出そう。受け取る時、彼はどんな表情をするだろう。もっとチョコがあるってわかれば元気になってくれるかな。

 

 

end

 

<言い訳です>

アレクお歳暮とかと義理チョコを同様に捉えてます。去年の愛の告白、三倍返しに続きしょうもないです。
本命をもらえて泣いて喜ぶエルクに「よっぽど甘いもの好きなんだ」と刷り込みされたアレクが、
ホワイトデーに甘さ三倍クッキー返しとかしてエルク泣かしたりしそうです。

 

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