サンタと天使が笑う夜
食後にと思ってしまっておいたケーキをテーブルに並べると、エルクさんは嬉しそうに顔を崩した。その笑顔とケーキを見て、僕はためいきをつきそうになった。今日は楽しいクリスマスなのに。いや、今日は楽しいんだ、エルクさんと一緒だし。問題は来年だ。
けっこうな勢いでエルクさんはケーキを口に運んでく。チャイルドハウスの子供達も、ケーキを囲んで歓声をあげてることだろう。取り越し苦労に終わるかもしれないからエルクさんに言う必要ないと考えてたけど、これから一年間ケーキを目にするたびにこんな気分になるのは滅入るから、彼に聞いてもらおうかな。
「あの…来年のクリスマスなんですが…。」
「…来年?」
不思議そうにフォークが止まる。今年のクリスマスが今真っ最中だっていうのに、来年の話も何もないよな。
「もしかしたら用事が入るかもしれないんです…。」
「…なんで?」
「この前チャイルドハウスの子達に、クリスマス来て欲しいってせがまれたんです。約束があるからダメだって言ったら、来年の約束を取り付けられちゃって…。」
招待を断ると、子供達は口々につまらないと騒ぎ出し、僕の手やマントを引っ張った。子供達のしたいままにされながらも謝り続けてたら、誰かが来年はどうだと言い出したんだ。不意をつかれて返答につまると、子供達はすかさず来年の話で盛り上がり始めてしまった。一年も先のことだしもちろんエルクさんだっているから、約束出来ないと慌てて伝えると、子供達の非難はいっそうひどくなった。だけどそれは寂しさの裏返しだとわかってるし、しかも何人か涙がこぼれそうな子もいて、強く無理だとは言えなかった。
「僕が困ってるのを見兼ねて、クララが後で皆に言い聞かせるから気にしないでいいって言ってくれたんですけど…あの子達も一年後には忘れてるかもしれないし…。」
「…ふーん…。」
フォークをくわえたままエルクさんが相づちをうった。なんだかおもしろくなさそうだ。やっぱり今打ち明けたってしょうがなかったか、大体来年の今頃も仕事が入らないとは限らないし。
「でも来年のことなんて話してても仕方ないですね。」
「俺は、おまえと過ごす気でいたけどな。」
不機嫌そうに彼は呟いて、またケーキに向かう。今の言葉、やけにひっかかる言い方をした。「俺は」って、まるで僕はエルクさんのこと考えてないみたいじゃないか。
僕だってエルクさんと過ごすつもりでいたよ。だけど子供達に必死にねだられて無下に撥ね退けることは出来なかった。でも結局は断ろうと思ってたんだ。どう言い訳したって子供達はがっかりするだろうから、考えるだけで気詰まりで罪悪感もわいてくる。それで彼に相談にのってほしかったのに。それなのに、エルクさんまでそんな意地悪言うなんて。
もう彼の皿は空になった。それに引き換え僕はせっかくのケーキも手をつける気しない、お茶もぬるくなっちゃうよ。エルクさんの機嫌を損ねるなら話すんじゃなかった。
「…行ってやれよ。」
沈黙を破った声には、思いやり深い響きがあった。それでも僕は自分の紅茶を見つめたままでいる。だって彼の表情はまだしかめられてるに違いないから。
「…でも…。」
あなたに誤解されたままじゃ、行くか行かないかも決められません。
「あそこの子供達、おまえにずいぶん懐いてんじゃん。クリスマスおまえと遊びたいって思うのはわかるし。」
「…だけど…。」
「…クリスマスとかって、きっと普段と違って寂しくなったりすんだろうからな。おまえが行ってやりたいって思うのも、わかるから。」
そう語りかけられて、僕はホッとした。エルクさん、僕や子供達の気持ちちゃんと理解してくれてたんだ。ゆっくりと顔を上げると、エルクさんは少し笑ってくれた。
「…でも、エルクさんは?」
もし僕が子供達の方を優先させるとしたら、彼を一人にしてしまうことになる。寂しさをしっかりくみとってくれる、この優しい人を。
「俺はまぁ…休むか仕事でもすんじゃねぇの?」
「…エルクさんも一緒に行きませんか?」
あ、僕すごくいいこと思いついたんじゃないか!?
「はっ?」
「エルクさんも来たら、あの子達もっと喜びますよ!」
「あぁ…けどなぁ…。」
あれ?エルクさん乗り気じゃない…。
「…あの、もしかして子供あんまり好きじゃなかったですか?」
「いや、そうじゃねぇけどさ…。」
前に彼と一緒に受けたチャイルドハウスからの依頼で、遠足に付き添った。子供達はヒエンに大喜びで、エルクさんも満更じゃなさそうだった。じゃれついてくる子達の中に馴染んでたから、エルクさん子供嫌いじゃないよね。
「二人っきりではないけど…それでもあなたといられるから…。」
「いや、でもな、俺まで行っちゃ迷惑かもしんねぇだろ。」
「あ…そっか。クララに聞いてみた方がいいですね。」
「あー…てゆーか、もし来年のクリスマスまで子供達が覚えてたらの話な。忘れてくれてたら、そん時は黙ってろよ。」
「そうですね。」
眉をひそめて僕に釘をさすエルクさんに、愛おしさとおかしさが込み上げる。大丈夫ですよ、僕も出来るならあなたと二人がいいなと思ってるから。
僕はフォークに手を伸ばした。やっとケーキが食べられる。一年後の今日、どんな風に過ごしてるかはわからないけど、来年もいいクリスマスになりそうだ。
end
<言い訳です>
エルク、子供とアレク取り合いしてます。そしてクララの名前が出たので妬いてます。
でもアレクに気づいてもらえなかったので、一転して物分りのいい年上に徹しようとしました。
アレクはそれすら気づかないで、恋敵も交えてのクリスマスにしようと無邪気に誘います。
エルクとうとう折れます、でも「行きたくねーよ」って本音が最後に出てしまいました…って感じです。