置き去りにされた歌

 

 

 今日の我が家はとてものどかだ。昼を兼ねた遅い朝食をとった後、俺はソファに横になって充足感を満喫してる。部屋に流れるBGMは昔懐かしい童謡、こんな日和にゃふさわしい。
 スピーカーの前にはアレクが座りこみ、手元の紙をにらみつけぶつぶつ呟いてる。まるで無心に丸暗記にでも取り組んでるような姿だが、時折メロディーっぽいのが聞こえるんで、かろうじて歌の練習だと推察できる。
 アレクは先日サシャ村に顔を出した時、近々イティオでチャリティーコンサートが行われるのを耳にしたそうだ。シャンテが主催でポコやライアも協力するらしい。
 エテル島を発つ前にシャンテの店へ立ち寄り、ぜひ手伝いたいと申し出たアレクに、シャンテは感謝を述べつつ楽譜とテープを渡した。当日はエテル島の子供達による合唱があり、それに加われというのだ。アレクは裏方や援助をするつもりでいたんで一度断ったが、コンサートを成功させるために力を貸してほしいと強く乞われ、結局参加することにしたんだそうだ。アレクはまだ子供と言ってもいい年齢だけど、少年少女合唱団に混ざる年頃でもねぇだろうに。シャンテのやつ、おもしろがりやがったな。確かにアレクは子供に人気あるしエテル島じゃ英雄だから、アレクが出れば盛り上がるだろうけどよ。
 そのため、何事も全力を尽くすアレクは、誰でも一度は口にしたことがあるポピュラーな曲を何度も何度もおさらいしてるというわけだ。
「おい。」
 声をかけて、アレクに近づく。一人でまったりすんのもあきた。
「あ…うるさいですか?」
「いいや。なぁ、ちょっと歌ってみ?俺聞いててやっから。」
「え!?い、いいです!」
「いいですじゃなくて。」
 ほら、と腕をつかんで立たせて、代わりに俺が腰を下ろし曲の頭出しをする。
「無理ですよっ、まだちゃんと歌えませんもん…。」
「ずっと聞いてるだけじゃ仕方ねぇだろ。おし、始まるぞ。」
 一番だけなら俺も覚えてる。初めの方を口ずさんでやると、アレクも小声でぎこちなく歌い出した。つっかえながらで、うまいとは言えない。アレク上がり症だからな、緊張してまともに歌えねぇんだろ。力抜ければ普通なんだろが。
 まぁいくらリラックスしててもどうしようもねぇやつもいたけどさ。アーク…あいつはマジすごかった。
 あいつとポコと俺とでなんか適当にしゃべってた時だったんだよな。話題が途切れると、ポコがおもむろに竪琴弾き始めたんだ。俺は聞いたことねぇ曲だったけど、スメリアでは知られてるみたいでアークは懐かしんでた。ポコの音楽はアークの支えのうちの一つだったろう。
 アークは演奏に合わせ軽い調子で歌い出したんだが、実のところ、俺はそれが歌だとわからなかった。なんの呪文を唱えてんだと目をまるくしたもんだ。そんな俺に気づき、アークはバツが悪そうに顔をしかめた。
「どうせ下手な歌だって言いたいんだろ。」
「今の、歌だったのか!?なんのまじないかと思った!」
「まじないだって、おもしろいねエルクって。アークも惜しいよね、声はいいのになぁ。」
 衝撃をそのままバカ正直に伝える俺と、のんきにまとめたポコに、アークは苦虫かんだような表情をして背を向けた。
「…もう二度と歌わない。」
 あいつがそう呟いたのがおかしくて、俺はしばらくそれをネタにずいぶんからかった。俺から見れば、一コしか年が違わないのに大人びてて、不得手なもんなんかねぇんだろうってくらい器用なやつだった。唯一の弱点を見つけた気になって、ここぞとばかりバカにした覚えがある。そんなガキ丸出しな俺に、あいつは別にキレることはなかったから、やっぱ人間が出来たやつだったんだろな。
 俺はとっくにアークの年齢は超えてて、それなりに経験値だって積んだ。でもまだあいつには追いつかない気がする。そんな風に遠い存在に感じるのって、あいつが勇者だからってのも関係あると思う。アークのことつい神格化しちまいそうになるんだけど、そんな時ふとあの歌がよぎるんだ。あのひどい歌が、そして悪気なかったとはいえ無遠慮な俺のツッコミとポコの中途半端なフォローに、めげて拗ねてたアークが。
 あいつはわりと普通の男だった。あいつのすごいとこは、精霊の勇者だってんじゃなくて、世界の為に常識じゃ計り知れないぐらい頑張ったとこ。あのひっどい歌声のおかげで、俺は記憶を美化しないでいられるんだ。
「…エルクさん…あの…。」
 いつの間にかテープが終わってた。アレクが心細げに俺を伺ってる。俺の評価をおそるおそる待ってるようだ。
「あぁ、悪ぃ。いいじゃん。」
「…ホントですか?」
「うん、平気平気。」
 15歳の俺だったらアレクをメッタメタにヘコましてただろう。人の心を気遣える程には成長したさ。でもアークの歌はきっと俺いくつになっても度肝抜かれて本心からけなしそう。それっくらいすごかったよ。
「それ、いつやるんだっけ?」
「今月の…来ないで下さい。」
 テープを巻き戻しながらさりげなく聞くと、アレクは返事の途中で口をつぐみ、行く気満々でいる俺に先手を打ってきた。まぁ、俺だって簡単に引き下がるかっての。
「チャリティーなんだろ?一人でも多く行った方がいいじゃねぇか。」
 チャリティーってのを強調して言ったら、案の定アレクは難しい顔をした。よしよし、少し困らせた後に次は励ましてやれば、敵はおちるだろう。
「うまく歌えるか心配してんのか?大丈夫だって、伴奏ポコだろ?うまくカバーしてくれるさ。それに子供と一緒なんだから、皆そいつらばっか見ておまえのことなんて気にしないって。」
「そ、そうですよね…。」
「そうそう。おまえ見るのなんて俺くらいだな。」
「やっぱり来ないで下さい。」
 チッ、一言多かったか。どっちにしたって、許しがあろうとなかろうと俺は行くけどな。アレク目当てってだけじゃなくて、シャンテとかポコとか仲間の行動にはどんな形でも手を貸したいし。近いうち、やつらに日取り確認しとこ。けど俺まで合唱団に巻き込まれねぇように、強気でいねぇとな。特にシャンテ相手には。
「んじゃ、自信つくまで練習な。も一回いくぞー。」
「えっ?いや、もう後は自分で…。」
 問答無用でテープをスタートさせる。アレクは条件反射のようにつられて、どもりながらではあるが歌った。これもまた、俺にとって忘れられない歌になるんだろう。

 

 

end

 

<言い訳です>

どのへんが置き去りなのか…とりあえず歌はクリアってことで…。
アレク15歳くらいでしょうか。イメージは義務教育中ぐらいです。
アーク、どの程度ヘタなんでしょう…相変わらずオフィシャルよくわかってませんが、
エルクも、知らない国の歌だからすごく変に聞こえたのかも…なんて逃げ道があったりします。

 

 

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