知らぬ者

 

 

 ギスレムに到着し、最初に宿屋へ向かったがあの人は出かけてた。宿屋の人に聞いた彼の居所は僕の予想通りの場所だった。
 エルクさんはアカデミーの研究所をヒエンの格納庫として借りてる。ジャンク山やガレキの滝などがあって部品を手に入れやすく、なによりヒエンを作ったというビビガさんが住んでて協力してくれるんで、ヒエンを作り直すにはもってこいの町なんだ。
 大通りを進んで目的地にたどりつくと、僕はそのまま施設内へ入った。無人の時はさすがに施錠してるようだけど、エルクさんは作業してる最中に鍵をかけることはない。誰かに呼ばれてドアを開けに行くのがめんどくさいそうだ。
「エルクさん、ただいまー。」
「おう、お帰りー。」
 外側はずいぶん整ったヒエンの中から返事がする。
 エルクさんは少し前までギスレムを中心に仕事を受けてて、時間が空くとヒエンの修復に費やしてた。そこへギルドがどうせならとギスレムに滞在する長期の仕事を依頼し、彼もそれを引き受けたんで、僕は自分の休みをエルクさんと過ごすためこうして会いにきたんだ。「ただいま」って、ここ僕達の家じゃないのについ言っちゃったけど、エルクさんも「お帰り」って言ってくれた。なんか変だけど、嬉しいしいいや。
「だいぶ出来たんですね。」
 タラップを半分上って出入り口から身を乗り出すと、操縦席の方にいた彼が振り返って笑った。
「外はな。中はまだな、最近ビビガ忙しいっつーし、シュウも来ねぇし。俺だけでやれることってあんまねぇんだよ。」
 エルクさんはゾウキンを手に持ってる。きっとそこら中を磨いてたんだろう。本当にヒエンを大切にしてる。
「飯は?」
「まだです。」
「俺腹減ってんだ。食いにいこうぜ。」
「はい。」
 エルクさんがゾウキンを置いたんで、僕はタラップを下りて彼が出てくるのを待った。
「完成したら、これ乗ってどっか行こうぜ。」
「いいですね。」
「おまえにも操縦教えてやるな。」
「…僕はいいですよ。」
 一瞬答えるのが遅れちゃった、どうか彼が気にしませんように。
「けっこう簡単だぜ?おまえホバークラフトは運転出来んだろ。」
「でも僕、外ばっかり見ちゃって集中出来なそうで。飛行船から見る景色ってきれいでしょうから。」
「あぁ、眺めは最高だな。」
 大丈夫、エルクさん変に思わなかったみたいだ。また話が戻ってしまわないように目で彼を促して、僕はゆっくり歩き始めた。
 きっと僕はヒエンを動かせるんだろう、エルクさんに習わなくても。誰に教わらなくてもさまざまな武器を扱えるように。

 

 ルッツに言われたことがある、僕はとても器用だと。槍を初めて手に入れた時、ルッツがリーグルさんを真似て振り回して見事に転んだが、僕は多少ふらついたけどあいつと違ってすぐに慣れた。
 僕が少しの練習で狙いを外さず銃を撃てるようになると、シェリルはとても驚いてた。普通は的に当てるのも精一杯で、毎日腕がしびれるくらいまで撃ち続けてやっと思うように狙いを定めることが出来るらしい。
 ヴェルハルトにどんな稽古をしていたのか尋ねられて、稽古ではなく実戦で鍛えたと話したけど、百戦錬磨と言えるほど経験は積んでない。
 僕が器用なだけなんだろうか。まるで訓練でも受けたみたいだ。ホバークラフトも、なんとなく動かし方はわかってた。あんな乗り物、乗った記憶すらないのに。
 ねぇエルクさん、僕がいたロマリアは、とてつもない軍事力を備えた国だったんですよね。優れた軍人を育てるべく、子供にそうした教育を施してたとしても不思議じゃないですよね?そう考えれば、僕は自分の力にとても納得がいくんです。
 もしもこれが真実でも、僕はあなたの側にいていいですか?大災害がもう少し遅ければ、僕もあなたが憎んだ国の一部となって戦いに参加してたでしょう。あなたは、こんな力を与えられてる僕を許してくれますか?

 

「エテル島行きてぇな。おまえの村行ってみてぇ。」
 心の中での問いかけが届いたように、エルクさんが口を開いた。彼はたださっきの続きを話してるだけ、けれどなんてタイミングだ。僕はサシャ村のアレクで、ロマリアの兵士じゃないと言ってくれてるみたい。
 何も知らない彼のあたたかい言葉をムシのいい解釈をして、笑顔を浮かべてる自分に嫌気がさす。エルクさんと並んで歩いてるのが後ろ暗くて、歩幅を狭めて半歩下がると、すぐ彼は気づいて何気なくこっちを見た。僕は出来るだけ自然に視線を合わせる。
「ヒエンで上から村を見たら、きっと小さいんでしょうね。」
 嫌悪したばかりのくせに、また微笑んでみせた。こんな僕まで、エルクさんに気づいてほしくないから。
 真実だろうとなんだろうと思い出す必要ない。僕はこのあいまいな記憶のままで、アレクのままでいい。過去を取り戻さないでいれば、彼の隣に僕の居場所を守れるんだ。

 

 

end

<言い訳です>

アレクが全ての武器を使えたり、ホバークラフト操縦出来たり、短期間ですごく強くなったのは、
大災害前にロマリアで戦闘の基礎をたたきこまれてたから、という案です。
シュウと被ってる感じですが、アレクはもともとロマリア国民で、
シュウはロマリアの被害者なので、心情はまったく違うと思うのでこんなのもありかなと思います。

 

back