それぞれの理由
一日ギルド仕事に費やして懐に余裕が出来たので、疲れを忘れるためにもと注文した少し豪勢な食事を前に、上機嫌のフィニアが話し出した。
「マーシアさんて、すごくステキですよね。」
マーシアとは数日前に別れたばかりだ。少ない知り合いだから気になってるんだろう。アレクが相づちをうってやると、フィニアは嬉しそうに続けた。
「アレクさんと旅をしたことが、いい経験になったって言ってましたよ!」
二人が仲間だったことなんかを、色々聞いてるらしい。やっぱり女同士の方がフィニアも話しやすいだろうし、少しの間でもマーシアといられて気が楽だったのかもしれないな。
「僕もですよ。あれが最初の旅でしたし。マーシアにはずいぶん助けられたなぁ。」
「そうなんですか。」
「えぇ。マーシア、頭がいいからいろんな問題を解決してくれましたし。道に迷った時も、たいていマーシアが出口を覚えててくれましたから。」
「さすが術法学院の先生ですね!」
「ホントに。魔法もすごく強くて、戦闘の時はよく頼ってましたよ。」
あぁ、そんな感じだな。アレクを中心にそれぞれ役割を持った、いいパーティーだった。マーシアの自然魔法が有効な場面も多かっただろう。それにしてもアレクもフィニアも、ホントに話し方崩れないよな。俺はこの位の年で、話す相手みんなタメ口だったぞ。なんと言うか、育ちがいいんだろうな二人とも。
なんとなく尊敬の眼差しを向けると、フィニアは口元を少し引きつらせていた。
「マーシアさん…その頃から強かったんですか…。」
「うん…何かあったんですか?」
「そういうわけじゃないんですけど…。」
なんだ?言いにくそうにしてる。まぁ、俺よりもアレクのがマーシアとは親しいから、アレクが聞き出してやる方がいいよな。俺は食ってればいっか。
「ただマーシアさん、戦闘に入った時に、凄みがあるっていうか…。」
「凄み?」
「凄みっていうか、口調が変わるっていうか…。」
「…どんなふうに?」
「殺ればいいんでしょ、とかって…それが普段とギャップがあって。いつもはおっとりした感じなのに。」
ほーお、そりゃ気づかなかった。確かにあの容姿、あの物腰でその言葉は違和感あるな。アレクは何か思い当たるのか、苦笑いしてる。
そういえばマーシアは時々、素でキッツイとこついてくるって聞いたことあったっけ。病気の女の子のために花を摘んでやるマーシアに共感してたフィニアには、想像つかないかもしれない。
「それは、ヴェルハルトの影響かもしれませんね。」
苦笑まじりにアレクが答える。久々にその名前を聞いた。俺とそう年が変わらない剣士。あいつが威勢よく振り返ったりすると、近くにいる人間に髪の毛がビシッと当たって、ヒンシュクかってたっけなぁ。
「ヴェルハルト?」
「マーシアの恋人ですよ。一緒に旅をしてたんです。たぶんヴェルハルトの口調がうつっちゃったんでしょうね。」
楽しげなアレク。口下手な彼氏につられてマーシアの言葉が多少乱暴になってるのは、仲のいい証拠と言えなくもないからか、嬉しそうな笑顔を俺にも振り向けてきた。それに眉が下がりそうになるのを、なんとか抑える。明らかに、アレクの微笑みにやられました〜なんて態度はきまり悪いじゃねぇか。
何度か咳払いをして、気恥ずかしさをごまかす。それにはかまわず、フィニアが目を輝かせて言った。
「そっかぁ!一緒にいたら、話し方が似てきちゃうのも仕方ないですよね!でもそう思ったら、マーシアさんのもかわいく聞こえるかも。」
女の子らしい感想を口にするフィニアを横目に見ながら、気を取り直してまた食い物へ手をつけようとしたところに、アレクが水を勧めてきた。わずかに労わるような表情から察するに、さっき咳き込んだのを心配してるようだ。いや、あれはおまえに…なんて言えるわけもなく、小さく礼を言っておいた。
「あ、ところでアレクさんも、私にそんな丁寧な言葉使いしなくていいですよ。」
唐突に話を変えたな、話し方つながりか?その提案も俺からしたら、フィニアもな、って感じだけどな。
「え…あ、つい、僕こういうしゃべり方しちゃうんです。イヤですか?」
「全然。ただ気を使ってくれてるのかなぁって。エルクさんも今は、初めと違って普通に話してくれるし。」
「ん?俺、態度どっか変わってるか?」
ハナからそんなつもりはないけど、ハタから見たら目につくこともあるんだろうか。
「えぇ。助けてくれた時、すごく優しかったですよ。私がちょっと混乱してて、自分のこと思い出せなかったっていうのがあると思いますけど、子供に言い聞かせるようなあったかい感じで。」
「んー、そうだったかもな。」
確かになだめようとはしてたかもな。でもあのフィニアの様子を見れば、誰だって慰めたくなるさ。アレクだってきっとそうだ。むしろアレクの方がうまく言ってやれるだろう。
いまいち反応の悪い俺に、フィニアが何か思いついたように、手をポンと打って口を開く。
「あ、ちょうどアレクさんみたいに。アレクさんって、ゆっくりと穏やかに話してくれるじゃないですか。エルクさんもそんな感じで、私に接してくれてましたよ。」
「…そうだったか?」
アレクと同じ?そういや、こんな時アレクだったらどうするかとか、微かに考えたりしたような気が…って、ちょっと待て。さっきフィニアはなんて言った?一緒にいたら話し方似るとか、言ってなかったか?うわ、そのまんまじゃねぇか!しかも、それがかわいいとかなんとか…うおっ!当てはまりそうじゃんか!
思わずアレクにチラッと視線をやると、アレクもこっちを向いていた。目が合った瞬間、動揺を隠そうと軽く咳をしてみる。アレクはどこかぽかんとしてる。大丈夫、気づいてない。アレクが鈍くてよかった。
そう思った途端、アレクが徐々に相好を崩し始め、そしてそれは満面の笑みになった。
「もちろん、エルクさんは今もとっても優しいですけどね!」
「そうですね。エルクさんは優しいですよね。」
バレてる。フィニアに対する俺の接し方の本当の意味も、俺がこっぱずかしくて仕方ないのも。アレクは笑みを絶やすことなく、ますます顔をほころばせる。ちくしょう、かわいいじゃねぇか。
頬が火照り出しそうだったんで、取り繕うためにまた咳をした。アレクはそんな俺に微笑んでたが、今度は水を寄越さなかった。
end
<言い訳です>
フィニアにムリヤリ話を進めさせてしまいました。
マーシアの言葉がさらにきつくなったのはヴェルハルトのせいです。きっとそうです。
機神エルクの口調はアレクのせいだと思ってます。